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桃太郎旅に発つ

むかし、あるところに、老夫婦が暮らしておりました。

おばあさんは日々の家事を担っており、その日も昼から家の近くの川へ向かい、衣類の洗濯を行っておりました。河原で岩に衣類を打ち付けていたおばあさんが、ふと川上に目をやりますと、大きな桃のようなものが流れてくるようです。これまで見たことも聞いたこともない光景に、目を疑うおばあさん、しばらくは言葉も出ず、呆けた様に、じっと桃のようなものを見つめておりました。おばあさんは、やっと鳥の鳴き声にわれを取り戻し、洗濯していた衣類をそばに放り出して、ばしゃばしゃと川に入っていきます。

「はぁはぁはぁ」

一抱えほどもある桃のようなものは、おばあさん一人でも持ち上がるほど軽く、流れに足をとられながらも何とか、岸にまで運び水からあげることが出来ました。表面はつるりとしてなんとも不思議な光を放つその桃のようなもの。おばあさんは気に入りました。そそくさと洗濯の後始末をつけたら、桃のようなものを背中にくくりつけて、家に帰ることにしました。


先に家に戻っていたおじいさんは、なにやら背負って帰ってきたおばさんの姿を見つけ、何事かと思い、家の外に出ました。よっこらしょとせなかの桃のようなものを地面に下ろしたおばあさんは、おじいさんのほうを向きにっこり笑いました。それはもう、このようで一番きれいなものを見つけて、それを誰かに見せたくて見せたくて、どうしようもない表情です。

「なにかわからないけど、いいものを見つけたんです。」

「よくわからんが、楽しそうだね。でこれどうする」

「とりあえず、切ってみたいんです」

「切る」

「ええ、斧で真っ二つに」

おばあさんはとても素敵な笑顔で、さも当然のようにいいます。おじいさんは普段見たこともないおばあさんのように少し、驚きましたが、とりえず、斧を取りに納屋に向かいました。おじいさんが、家の角を曲がり、もものようなものが見えなくなったとき、後ろから赤ん坊の泣き声が聞こえました。ちょうどおばあさんがいる方からです。何事かと、小走りに戻りました。するとそこには、桃のようなかわいらしい赤子を抱くおばあさんがおりました。足元には、桃のようなものがぱかっと真っ二つに開いておりました。

「おばあさん大丈夫か、いったい何があったんじゃ」

おじいさんは、赤子を抱くおばあさんを抱きしめるようにして聞きました。

「ほらみて、こんなにかわいい赤子が出てきましたよ。おじいさん」

おじいさんには理解できません。ただおばあさんが無事であったことがうれしくて、そのまま、家の中へ誘導しました。

「ああ確かに、かわいい子だが、いったいどこから現れたんだね」

「いやですよおじいさん。桃のようなものの中からに決まってるではありませんか」

赤子をじっと抱きすくめるおばあさん。わかりません。おじいさんには理解できません。

「きっと、子供のいない私たち夫婦に神様が授けてくださったに違いありませんよ。だってこんなにかわいいんですもの」

すごくきれいな笑顔をおばあさんは説明をしてくれます。おじいさんは、とりあえず、前に進むことにしました。

「ああ確かに、そうかも知れないな。うん、きっとそうだ」

「そうですとも」

二人はにっこりと笑顔を交し合います。

「では、その赤子はなんと名づけようか」

「おじいさんこの子は男の子ですよ」

「そうか、では桃から生まれたのだから、桃太郎というのはどうじゃろうか」

「いい名前です。桃太郎、これがあなたの名前ですよ」

抱いた赤子を軽くゆすりながら、おばあさんは語りかけます。赤子はおばあさんの胸の中で、ぐずったように手を動かすような動きをしました。

「この子もその名前気に入ったようですね」

「おお、そうかそれはよかった、ではその赤子の名前は桃太郎じゃ、今日から家の子じゃ」

微笑むおばあさんをみておじいさんもうれしくなりました。


やがて月日はたち、桃太郎はすくすくと成長をしてゆき、やがて立派な青年となりました。そのころになりますと、村は、近くに現れた鬼によってたびたび襲撃を受けるようになりました。もともとそれほど裕福でない村はたちまち日々の生活にも困るようになりました。そんな現状を村の人たちは悔しく思っておりましたが、鬼たちは強くどうすることも出来ずに困っておりました。体も大きくなった桃太郎は、ある日おじいさんに打ち明けました。

「おじいさん、おばあさん。私は鬼退治のたびに出ようと思います。どうなるかわからない旅です。これまで育てていただいた恩を返すことが出来なくなるかもしれません。しかし、この村の現状を打破するには打って出るしかないと思うのです。」

まっすぐにおじいさんを見据えて桃太郎は言います。

「明日は朔日です。明日の夜にでもこの村を出ようと思います」

腕をくんだまま、目を閉じじっとしているおじいさん。その横でおばあさんは、うれしそうな悲しそうな顔をして、今にも泣き出してしまいそうです。静寂が家の中に広がります。なかなか、返事をもらえない桃太郎が、次の言葉を口にしようとしたとき、おじいさんがゆっくりと目を開き、腕組みをとき答えました。

「わかった、お前も十分考えた結果なのだろう、もはやとめることはできまい。おゆき。でも行くまでにいろいろ話しておくれ、少しでも、経験が役に立つのかもしれない」

「おじいさん」

「さぁ時間がない、計画を少しでもよいものにしよう。桃太郎」

おじいさんは、桃太郎のために、桃太郎が少しでも無事であるようにと、いろいろとものを用意したり、話を聞かせたしました。おばあさんは竈のほうへゆき、なにやら準備を始めました。明日の夜には出立するのです。時間がありません。おばあさんは、こぼれる涙もふきふき、急いで黍と貴重な米を水にさらし、きびだんごを作りました。

やがて、その時となりました。桃太郎は、おじいさんが調達してくれた、いくばくかの武器と防具を身につけ、おばあさんが心をこめて作ってくれたきびだんごを携えて。一人暗闇の中へ旅立つのでした。

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