とある昔の話
湖のほとりに赤ん坊を抱いた綺麗な女性が座っている。その女性は赤ん坊を見ながらまるで聖母のような微笑を浮かべ、子守唄を歌っていた。優しく澄んだ歌声。そこに住まう生き物たちすべてがその歌に聞き惚れた。
「あなたが子守唄を歌うなんて思いもしなかったわ」
森の木陰から別の女性が現れ、赤ん坊を抱いていた母親に声を掛ける。緑色をしたロングヘアーに亜麻色の瞳、透けるような肌をして、とがった耳が特徴的な女性だ。
「あら、珍しいこともあるものね。招かれざるお客がくるなんて」
母親は特に驚くことも無く、その女性の方を見向きもせずに言葉を返した。振り子のように赤ん坊を揺らす。赤ん坊は無邪気に笑った。それを見て母親もまた微笑む。
「招かれざるお客とは失礼ね。友人に向かって」
女性もまた軽く微笑むと、自分を見もしない母親の横に立ち赤ん坊を覗き見る。
「これがあなたの子?」
「私の子供以外に何があるっていうの?」
「クスッ。可愛らしい子じゃない」
「そうでしょ。将来美形になるわ」
「親ばかね」
「あら、私の子供なんだから、美形になるのは当然でしょ?」
「はいはい。そのとおりよ」
呆れたように女性は肩をすくめた。
「それで、何しに来たのノエル?まさか、お祝いに来たとか言わないわよね」
母親はノエルと呼んだ女性の方を一度も見ることもなく、赤ん坊から視線をはずさずに尋ねた。
「友人の子供を見に来たって良いじゃない。それに祝いに来たらいけない?」
「別に悪いとは言わないし祝いに来てくれたって言うのは嬉しいけれど、どうせ別の理由があるんでしょ?」
「ふふ。まぁね」
ノエルはまた軽く笑う。若干小悪魔っぽい笑みだった。
「この子、あなたの資質を強く受け継いでるわ。将来、あなた以上に黒く染まる」
「それを言いに来たの?」
「この子は天界の魂を受け継ぎながら、同時に魔を宿した呪われた子」
「人の子供を見た早々呪われた子とは、たいそうな言い分ね」
「成長につれ増幅する魔はこの子をいずれ飲み込む。天の力を宿しつつ魔を持った子に救いはない。何処にも相容れず、天、魔、人に仇なすわ」
「大丈夫よ。私が、いいえ、夫と二人で愛し慈しみ育てて、思いやりの持った子にするから。魔になんか飲まれないくらい強い子にする」
「そんなことでこの子の将来が変わるかしら?」
ノエルは意地悪そうに尋ねた。しかし、母親は自信ありげに返答する。
「変えれるわよ。人は出会いによって愛によって、いくらでも変われるわ。私もそうだもの。愛の力は偉大なんだから」
「ふふ。まぁ、そうね」
「だから、大丈夫よ」
「そう、それならこの子の行く末が楽しみだわ。だけど、もしこの子が魔に飲まれ我を失うようなら、私がこの子をもらうわよ」
「大切な子なんだから、あなたになんかあげないわよ」
「どうかしら。成長が楽しみね」
「ええ。私たち夫婦の愛の力をみるといいわ」
「クス。楽しみにしてるわよ」
ノエルはそう言い残すとその場から消えた。赤ん坊はただあどけなく笑っていた。
オフェリア城のバルコニーでロイスとマレルは優雅なお茶のひと時を過ごしていた。
「ローちゃん。まだ紅茶いる?」
「おぅ!もらうぜ!」
カップに紅茶が注がれ、ロイスはゆっくりと口をつけた。
「マレリンのお茶はおいしいなぁ。うーん、綺麗な愛妻と共に過ごす仕事後のひと時。まさに至福のときだねぇ」
「あら、ローちゃんったら」
相変わらずロイス夫妻は、イチャイチャとしながらティータイムをくつろいでいた。そんな折、強い風が吹き抜けていく。
「おっと」
飛びそうになったテーブルの上の紙を押さえつけ、ふとロイスは空を見た。北東の空で少し暗雲を立ち込めている。
「嫌な・・・風が吹いてるな」
「・・・そうね」
同じく北東の空を見上げたマレルが深刻な顔をして返事をした。ロイスもまた眉をひそめて流れる雲を見つめていた。
あとがきだよ。シャー!
今回の話はちょっと設定に肉づけするために書いてみました。
ストーリーの中の序章的な話なので内容も短めです。
最近、まとまった時間なんて取れないので、こうやって小出しするのでやっとですが、まぁ、気長に付き合ってくださると助かります。
人ってなにか支えがないと生きていけないんだなぁと近頃思いますよ。
疲れが取れない日々をすごしてるんで、一度マッサージとか行きたいです。
では、また次回にでも会いましょう。