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問題定義その一

「まだ議会の承認は得られんのか!」

「申し訳ありません。このような事例、前例を見ないものですから議会の方も戸惑っているようで・・・」

「しかし、この問題を何とかしない事にはこの国の経済は悪化していく一方だと言う事くらい奴らだってわかっているだろうに!」

「で、ですから・・・」 

 とある建物の一室。白髪で少し太った恰幅の良い男は、立派な机を叩きながら強い剣幕で言葉を発した。発せられた方はその男と違い神経質そうで、体格もひょろっとしており必死に汗を拭きながら目の前に佇む男をなだめている。寂しくなった頭は、ストレスによるものか。

「とにかく、例の法案が通らんことには彼の要求に答えることも出来ん。要求に答えなければわが国はずっとこのままだ」

 恰幅の良い男は、ふぅ〜っと一息つくと頭を抱えるように椅子に腰掛けた。そのまま椅子を回転させ窓の外を見る。その目は険しくもどこか物憂げな感じだった。

「か、官長。そもそも彼の要求にこたえる必要があるのですか。私は、どうしてもそこが納得できないのですが」

「・・・ミカエル君。君も知ってのとおり、彼は英雄だ。世界的にもわが国的にも。あの惨状については説明することもあるまい」

「そ、そうですが・・・。確かにあの惨状に比べれば今の状態はマシと言えますが、事態の悪化が変わっただけなように今は思えるのです。それは私だけの考えではなく、議会においても多数受け取られていることで。ですから、なかなか可決されるずにいるのでありまして。第一民主主義を取っているわが国が、一個人に」

「わかっている!!しかし・・・だからといってどうしろというのだ?わが国には軍隊が存在しない。あれから自警団の強化を図ったが、独立国とはいえ微妙な位置に居る我らが他国と対等に渡り合えるほどの力を持つことは、世界のミリタリーバランスを刺激し崩しかねない。最悪連合そのものを敵に回す可能性だってあるのだぞ。だからこそ、今は彼に頼るしかないのだ」

「・・・」

 ミカエルと呼ばれた男は、官長の言葉を聞き返す言葉を失った。現在の世界情勢、自国の立場、そういった政治的見解を見たとき力の無い自分たちの状態は痛いほど解っていたからだ。

オルビスは、島国ながらもその交易で経済大国にのし上がった。世界でも非情に数少ない人権平等を主とする稀な民主国家であることで、他国で差別や迫害を受けていた人々や難民が期待と希望をもち多く訪れ定住する。豊富な財を生かし社会福祉や行政サービスも他国に比類なく充実している。まさに民からは住み易いパラダイスと言えたかもしれない。

 しかし、それゆえに立場上危険が多く微妙な状態でもあった。世界のほとんどは貴族制をとった国々。貴族はプライドが高く、たかだか平民が国を持ちしかも自分たちよりも金を持っているということを良く思わない連中が居る。今、国同士の戦争は落ち着いたものの、戦時中はこの国の財を狙って戦争をしかけようとする国は多数あったのだ。それは今でも事実上変わっていない。その危ない立場から守って来たのは全て、皮肉にも戦争の火種となるお金であった。有数の大国に大金を支払う事で、身の安全を保障してきてもらっていたのである。

 そのため、下手に軍隊を持ち力をつけると今まで守ることで大金を得ていた大国との立場が危うくなる可能性とこの国を狙っている他国を無駄に刺激し戦争の口実をみすみす作る結果にもなりえない。 

 それはあくまで外交上の問題だが、そういう事情から自国内での有事に対してはすこぶる弱いという弱点があったのだ。それを痛感させられたある事件が過去に起きている。

「・・・問題なのは、彼、なのだ。彼さえなんとかできれば・・・」

「・・・官長」

 ミカエルは、少し声のトーンを落とし慎重な面持ちで言葉を向けた。

「なんだ?」

「この際・・・彼を排除すると言うのはいかがでしょう?」

「排除とは?」

「ですから・・・抹殺・・・という事も」

「おまえは阿呆か」

 このミカエルの発言に呆れたように官長は答えた。

「わが国は平和主義に則った民主主義国家だぞ?私はその頂点に居る」

「それは承知の上です。しかし政治問題は今は棚上げすべきでは?」

「そういう事を言いたいわけではない。現状でその案をどうやって実行に移すと言うのだ?」

「誰か、わが国で腕利きを探して・・・」

「阿呆。彼に勝てるほどの腕利きなどわが国に居るか。居たらあの時既に問題は解決していた」

「で、では他国からの旅人か誰かを雇うか、他国に応援を呼ぶと言うのは・・・」

「船の出入りが禁止になっている現状で・・・か?」

「・・・」

 ミカエルはまた黙ってしまった。島国であるオルビスは、他国との交流は船と言う手段しかない。しかし今はその唯一の交通手段である船を押さえられてしまっている。

「で、ではどうすれば・・・」

「だーかーら!先ほどから頭を悩ませていると言っているのだろう!とにかく、今は議会に法案が通ってくれる事を優先事項として処理してくれたまえ」

「は、はい!」

 ミカエルは頭を深々と下げると部屋を出て行った。官長は再び窓の外を見る。

「彼に敵う相手など、居るのか?やれやれ、悪事が悪事を呼んだか・・・」

 ポツリと呟いた言葉が、むなしく虚空を舞っていった。





あとがきです。

お久しぶりです。本当久しぶりにパソコンの前に長々と座ることが出来ました。

只今私、ある事と格闘中なもので(汗

しかし、なかなか先に進みませんね〜。あれやこれやと考えてはいるのですが、昔ほどの集中力がなく、これくらいの文字量でダウンですよ。

また、ぽちぽちと思い出したように更新していきますので、よろしくお願いします。

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