森の出口
俺はレナの「腰が痛い」という訴えに、「なぁんだ、そんなことかよ」と一瞬思ったが、実際は結構危険な状態かもしれない。さっきはかなりの勢いで背中を強打していたし、現状立てないとなると、骨にダメージを受けている可能性も考えられる。俺は医療のプロではないし、確かなことは言えないが、自力で立っての移動は控えるべきだろう。
「歩くのは無理みたいだな。よし、これからどうするかは、少し休んでから考えるか」
「そんなのダメです!これだけ派手に魔獣の血が飛び散ってますから、早くこの場を離れないと…」
「あっ、そうだった」
血の臭いで、他の魔獣を呼び寄せるんだっけか?はてさて、どうしたものか…。
この状況を打開するためにいろいろ考えていると、レナが一つの案を出してきた。
「サクマが関所まで先に行って、人を呼んでくるというのはどうでしょう。わたしにしては、良い案じゃないですか?これでいきましょうよ!」
成る程。確かにレナにしてはまともっぽい案である。十分に検討の余地はありそうだ。
「で、関所に着くまでにはどれくらいかかるんだ?」
「ええっと…10分?」
レナはなぜか目を泳がせながら言った。これは確実に嘘をついているな。
「…本当は1時間くらいかかるんじゃないか?」
「っ!どうして知ってるんですか!?」
「いや、適当に言ってみただけなんだが…。それと、今の案は却下だ。助けを呼んでる間に、お前が食い殺されるだろうが」
嘘をつくのが下手すぎるだろ。というか、何で嘘なんか…まさか、また自分を犠牲にして、俺だけを逃がそうとしたのか?勘弁してくれ。そんなことをされたら、逆に見捨てられねぇよ。
…しょうがない。大変心苦しくはあるが、あの手を使うしかないようだ。
「レナ、乗ってけ」
「…サクマ。急にしゃがんで背を向けたりして、いったいどうしたのですか?」
「お前を背負うんだよ。今は、これ以外に思いつくことは無い!」
「え…でも…」
レナが躊躇する理由は、なんとなく察している。俺が(うっかり)握手した際の反応を見る限りだと、理由は分からないが、相当な男嫌いなのだろう。握手程度であの拒絶っぷりなので、必然的に密着する”おんぶ”は大変な苦痛に違いない。だが、何としてもレナを森から脱出させるために、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「頼む、一生のお願いだ!俺に触れるのは嫌かもしれないが、今だけは耐えてくれ。無事に森を出られたら、何でも言うことを聞くから」
「サクマ…」
俺はレナの決心がつくまで暫く待った。すると、俺の説得が効いたからなのか、レナは恐る恐る背中に身を預けてきた。そして、レナがしっかりとしがみついている事を確認し、慎重に立ち上がる。
「なるべく振動を与えないように、ゆっくり歩くから。関所につくまでは辛抱してくれ」
「…ありがとう。こんなに優しい男の人がいるなんて、知らなかったです。迷惑をかけますが、よろしくお願いします」
「迷惑だなんて思ってないって。だって、レナには道案内っていう大事な役目があるだろ?お前がいなくちゃ、関所までたどりつけないかもしれないしな。こっちこそ、よろしく頼むぜ!」
小柄で見た目通りに軽いレナを背負い、俺は森の出口へと慎重に歩き出した。
一話目の投稿から早くも一週間が経ちました。
引き続き投稿していくので、今後ともよろしくお願します!(いつでも感想待ってます!)