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異世界奴隷兵団  作者: 久保系
第一章 魔獣の森
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輝く剣

 間もなくして、想像を超えた巨体の魔獣が一頭、姿を表した。


「でっ、でかい!!」


 これが成獣のサイズ…体高は2メートルくらいか?なんてこった。こんな化物を相手にするくらいなら、多少無理をしてでも逃げるべきだった。成獣の両脇には、あのとき逃げて行った魔獣と思われる子数匹が、牙をむき出しに威嚇している。


 俺は圧倒されて震え上がっているのだが、魔獣たちの様子が変だった。


「なんであいつら、すぐに襲い掛かってこないんだ?」


「分かりません。もしかして、ただ挨拶しに来ただけなのかもしれませんね」


「それはないと断言しよう」


 こんな危機的状況で、何を暢気な事を言っているのか。馬鹿なのか肝が据わっているのかわからないが、ひょっとすると、撃退できる自信があるのかもしれない。俺を救った剣捌きを見る限りだと、かなりの腕前があるようだし。魔獣がすぐに襲ってこない理由も、レナの実力を見抜き、攻撃を警戒しているのかもしれない。となると、戦うという選択肢は、間違っていなかったことになる。寧ろ逃げていたら、背後から襲われていた可能性だって十分にあり得る。


「あいつら、俺たちを警戒して襲ってこられないのかもしれない。レナ!奴らがもたもたしているうちに仕留めるんだ!」


 俺は今が好機と見て、レナに攻撃の合図を送る。しかし、レナは剣を構えた状態から一向に動こうとしない。そして、俺に向かって冷たい視線を向けてきた。


「冗談言わないでくださいよ。一人で倒せるわけないじゃないですか。そんな無茶なことをさせようとするなんて、サクマはヒドい人ですねぇ。子供の魔獣ならまだしも、親は本来10人がかりでやっつけるものですから」


「…は?それじゃあ、どうすりゃいいんだよ」


「そんなの、サクマが考えてくださいよ。あなたが戦うと言ったのですから」


 俺は絶望し、膝から崩れ落ちそうになる。しかし、言われてみれば当然の話だ。そもそも少女に化け物と戦わせようとするなんて、俺はどうかしていた。なにか違う手を考えなければ。


 だが、倒すことが無理だと言ったにもかかわらず、レナは一歩前へと前進した。一体何を考えているんだ?


「はぁ…しょうがないですね。わたしが時間を稼ぎますから、その隙に逃げてください。ここをまっすぐに進めば、関所に着くはずですから」


「なっ、何言ってんだ!そんなのは俺の役目だ!お前こそさっさと―――」


「サクマは剣も振れないのに、どうやって時間を稼ぐのですか?わたしは後で追いつきますから、早く行ってください!!」


 レナは俺の言葉を遮るように叫んだ。そして、俺に意識を向けて発生した隙を見逃さず、魔獣がレナに襲い掛かった。


「くっ!」


 レナは辛うじて魔獣の動きに反応し、鋭い爪による攻撃を剣で防ぐ。しかし、勢いまでは削ぐことができず、森の巨木に叩き付けられた。


「うっ…」


「レナっ!!!」


 背中を強打したレナは、短く呻き声をあげて気を失ってしまった。魔獣の恐るべきパワーを目の当たりにし、俺は高速で思考を巡らせる。


 …魔獣は今、レナに意識を集中している。今全速力で逃げれば、もしかしたら助かるかもしれない。俺が生存できる、唯一のルートだ!


 だというのに、俺はちょうどレナの壁になるようにして、魔獣の前に立ちはだかっていた。後悔はない。少女を囮に逃げるやつなんて、すでに死んでるようなものだからな。やれやれ、俺もレナも人を見捨てられないなんて、損な性格をしている。善人から先に死んでいくってのは、どうやら本当の話らしい。どうりで世の中に悪人が多いわけだ。


 俺はお飾りの剣を握りしめ、魔獣と対峙する。


「おい、クソ剣。聞こえてるか?今お前が働かねぇと、俺はともかくレナまで死んじまうんだ。ニートを悪く言うつもりはないが、今日だけは労働しろ!」


 剣に話しかけるなんて、この状況にとうとう頭がいかれてしまったのかもしれない。そもそも剣が使えたところで、戦闘素人の俺ではどうしようもないのに。ただ、無抵抗に死ぬつもりは全く無い。少女の命を預かっている以上、最後まで諦めるわけにはいかないからだ!


 すると、お飾りだったはずの剣が、驚くほど無抵抗に刃を現した。


「え?なんでこんな簡単に…」


 俺はてっきり、錆付いて抜けなくなっているのだと思っていた。しかし、その刃は恐ろしいほどに美しく、青白い輝きを放っている。心なしか、身体から力が漲ってくるような感覚もある。


 魔獣は剣の輝きを見て一歩引いたようだが、思い直して襲い掛かってくる。


「ガアアアアアア!!」


「かかってこいやぁ!!」


 魔獣は鋭い牙が並ぶ巨大な口を開け、俺を噛み砕こうと襲い掛かかってくる。不思議なことに、俺の目は魔獣のスピードについていけた。そして、タイミングを合わせて剣を振り下ろす。


 ―――ヒューン―――


 剣は風を切るような音を発し、魔獣を左右真っ二つに両断する。そして、大量の血液をまき散らしながら地面に倒れ、ピクリとも動かなくなった。この光景を見た魔獣の子どもは、一目散に森の中へと消えていった。


「…なんなんだよ、これは…」


 俺は二つに分かれた魔獣を見て呆然としてしまった。刃の長さからみて、こんな切れ方をするわけがない。見ると、十数メートルくらい先まで地面が切り裂かれた跡が残っている。そして、役目を終えた剣は俺の意志を無視し、もの凄い勢いで鞘へと収まっていった。あぶなっ!!


 その場で暫く考え込んでしまったが、俺はハッと大事なことを思い出す。


「レナは!?」


 俺は振り返り、巨木の下で倒れているレナへと駆け寄る。


「…よかった。まだ息をしている」


 俺はレナの生存を確認し、ひとまずホッとする。すると、レナは「うーん」と呻きながら、ゆっくりと瞼を開けた。


「…サクマ…勝ったのですか?助けてくれて…ありがとう。あれを一人でやっつけちゃうなんて、…すごい人ですね」


「何言ってんだよ。礼を言うのはこっちだ。俺なんかを逃がそうとしてくれて、本当にありがとう。でも、無茶なことはするなよ?あんな化け物に向かっていくなんて、馬鹿がやることだぜ」


 レナの無謀な行動を窘めると、苦笑して「それはお互い様ですね」と言ってきた。確かに、言われてみれば自分を棚上げにしていた。


 俺は二人で命拾いしたことに安堵したが、レナが深刻な表情となったことにより、再び緊張感が走る。


「そんなことより、またまた大変なことが起こっちゃいました」


「なんだって!?まさか、新しい魔獣か?」


 危険な予感がして剣に手をかけるが、レナは首を横に振った。


「そうじゃなくって…背中を打ったせいで、こ、腰が痛くて…たっ…助けて、サクマぁ」


 レナは涙目になりながら、そう訴えてきた。

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