襲撃
レナと2時間ほど歩き続けると、ようやく森の出口らしきものが見えてきた。
「やっと着くのか…。道なき道を進むのは、思ったよりもしんどいな」
普段の徒歩通勤で鍛えていなければ、道中でくたばっていたかもしれない。こんなところで社畜時代の経験が生きるなんて、思ってもみなかった。
「森の出口はあれですけど、わたしが紹介したい場所はまだ先ですよ?」
「えっ、そうなの?」
けっこうがっかりする事実だが、冷静に考えると当然だ。こんな物騒な森付近に仕事場をつくるなんて、ありえない話だからな。
何はともあれ、さっさと太陽の光を浴びたい。俺は森の出口へ歩こうとすが、後ろからレナに服を掴まれた。
「どうしたんだ?出口はあっちであってるんだろう?」
トイレにでも行きたくなったのか?しかしレナは真剣な表情で、何かに神経をとがらせているように見えた。
「しずかに。…大変なことが起こっちゃいましたね。魔獣の足音が、こっちへ向かってきています。」
「魔獣?さっき撃退したばかりじゃないか。それに、足音なんて少しも聞こえないんだが…」
「わたしは耳が良いですからね。きっと、さっきやっつけた子どもの魔獣が、親を連れてきたんだと思います」
「なんだって!!」
魔獣の再襲撃にも驚いているが、なによりも奴らが子どもだったという事実に驚愕した。幼獣であのサイズということは、成獣はどんな化け物なんだろうか。想像するだけで、恐怖で震え上がりそうだ。
「魔獣の子どもは、狩りの練習をするために弱そうな獲物を狙うんです。そして、もし狩りに失敗したとき、親を呼んでお手本を見せてもらうのです」
弱そうな獲物を狙うのか。…認めたくはないが、魔獣の目に狂いはなかったらしい。この世界での俺は、雑魚中の雑魚だからな。
「そうなのか…でも、わざわざ俺を狙う必要があるか?近くに他の獲物とかいないのかよ」
「さあ?ひょっとして、子を二匹殺された恨みかもしれませんね。どちらにせよ、選んでください、サクマ」
「ん?選ぶって、なにを?」
レナが何かの選択を迫ってきたが、一体何のことか全く理解できなかった。
するとレナは、なぜか剣を抜きこう言った。
「闘うのか逃げるのか、サクマが選んでください。わたしはあまり賢くないので、いつも間違えちゃうんですよ。だから、お願いします。あなたが決めてください」
「サクマに命を預けます」と、そう言ってきた。初めて会った男に命を預けるなんて、正直将来が心配になるほどの愚かさだ。ただし、忘れてはいけないことがある。それは、レナがまだ中学生くらいの子どもだということだ。ここは大人として、しっかり判断してあげなくては。
「わかった、俺が選択しよう。魔獣は、あとどれくらいで追い付いてくるんだ?」
まずはそこからだ。状況を把握しないことには、判断のしようがないからな。
「はい。あと5秒くらいです」
「しゃゃああ闘うぞぉおるぁああ!!」
残り数秒じゃあ逃げられねぇ!!どうやら選択肢なんて、最初から無かったらしい。