金髪少女
しばらく森の中を走って移動し、少女は「この辺で大丈夫でしょう」と足を止めた。ここは、木々の隙間から太陽光が差し込んでいる。なんだが幻想的で見とれてしまいそうだ。
そして、光が少女のポニーテイルを照らし、黄金色に輝いた。さっきまで薄暗い森の中だったので、こんなにきれいな金髪だとは気がつかなかった。青い瞳と端正な顔立ちも合わさり、まるで森の妖精みたいだ。
「それにしても、おにーさんは何者ですか?魔獣がうじゃうじゃいる森の中で、一人でいるなんて」
「…俺にもわからないんだ。目が覚めたら、この森で眠ってた」
「へぇー…あっ、わかった!おにーさん、ひょっとして貴族ですね!間違いありません!だって、高そうな服を着ているもの。その剣も、すごく歴史を感じますし。きっと家宝とかですよね?あ、でもあんなところで一人でいたってことは…没落貴族ですね!!」
「全然違う」
俺に没落するほどの地位は無い。高そうな服とは、俺が着ている仕事用スーツのことか?確かにこの服を知らない人から見れば、高い身分に見えるのかもしれない。ただ、いまどきこの服装を知らない人なんているのだろうか。
「というか、君は外国人に見えるけど、随分と日本語が上手だな。ひょっとして日本で育ったのか?」
「はい?ニホンゴってなんですか?なんだかおいしそうな響きですね!どんな味がするのですか?」
「食べ物じゃない。…日本語をしらないのか?君は今、日本語って言葉をしゃべっているだろう?」
俺は当然の疑問を投げかけたつもりだったが、少女はポカーンと口を開けた後、ブッと噴き出して笑い始めた。
「あはははっ!!おにーさん、面白い人ですねぇ。言葉なんて、1000年前から一つしかないじゃないですか。文字を読めないわたしでも知っていますよ。やれやれ、お母さんから教わらなかったんですか?」
「へ、へぇー。そうなんだ。初めて知ったよ」
うーん。馬鹿っぽい子に馬鹿にされると、無性に腹が立つな。しかし、言葉が一つしかないとはどういうことだろう?世界には、星の数ほどの言葉が存在していたはずだ。なんだかわけが分からなくなってきたし、この少女にいろいろと聞いてみよう。
「ねぇ君。ここって、どこだっけ?」
「君じゃないです。わたしの名前はレナです」
「…ねぇレナ。ここって、どこだっけ?」
「見ればわかるじゃないですか。森ですよ」
「それはそうだけど…あっ!ここがどこの国かは、分かる?」
「はぁ、おにーさんは何を言ってるのですか。ここは国の外ですよ」
「…ウォッホン。じゃあ、レナはどこの国から来たのか教えてくれない?」
「えっ?そんなことを知ってどうするのですか?なんだか怪しい人ですねぇ。こんなところに一人でいることもおかしいですし…。おにーさんの疑いが晴れるまでは、教えてあげません!」
…あれ?この子からまともに情報を聞き出せる自信がない。少女との会話って、こんなに難しいものなのか?いいや、きっとレナって子が特別難しいのだろう。人と出会えたのは幸運だったが、それがこの少女だったことは残念と言うほかない。贅沢はいってられないのだが。
「そんなことより、おにーさんは行くあてがあるのですか?ないなら、わたしがお仕事を紹介してあげますけど」
レナは唐突にそんなことを言ってきた。この子は中学生くらいに見えるけど、実はリクルーターか何かなのか?
「…ふーん。仕事ねぇ」
俺はこんな訳の分からないところまできて、まだ仕事をしなければならないのか。まぁ、社畜の運命なんてこんなものかもしれない。そして、自力でこの森を出られない以上、俺に選択肢はない。
「わかった。俺に仕事を紹介してくれ」
今はとにかく森を脱出し、レナ以外の人間から情報を聞き出すことが必要だ。