森の中
ゆっくりと意識が戻る感覚がある。なんだか、ふかふかしたものの上にいるみたいだ。まだ眠っていたかったが、重い瞼を開けてみる。
「…ここは?」
俺はまだ生きているのか?だとすれば、人には生まれ変わらないという願いは、一旦お預けということか…残念。
地面に触れてみると、ふかふかしたものの正体は土だった。もはや東京では殆ど失われた腐葉土が、絶妙な温もりを与えてくれていた。周囲は木で囲まれている。
「林…というよりは森っぽいな」
ここにある木々は、苔の生え具合から、人の手が加わっていないように感じる。屋久島とかに生えてそうな木だ。しかし、何で俺はこんなところで眠っているんだ?まあ、寝っ転がりながらゆっくり考えるか。別に急いでいるわけでもないし。明日は会社があるって?そんなものは知らん!!
首だけ動かしながら周りを見渡すと、金属らしきものが土に埋もれていることに気付く。起きるのは面倒だったが、ちょっと気になったので拾いに行くことにした。
「なんだこれ。オモチャの剣にしては、結構重みがあるな」
装飾もしっかりしている。ちょっと古びてはいるものの、いぶし銀の輝きが、かえって神秘性を増している。
「ひょっとして、とんでもない美術品なんじゃないか?」
念のため周囲を見渡し、誰もいないことを確認する。ふむ、落とし物なら拾ってあげなくては。決して盗もうなどとは思っていない。機会があれば、持ち主を捜すつもりだ。
俺は剣を抱え、とりあえず森の出口を見つけようと歩き出す。しばらく歩くと、あることに気付いた。
「この森、想像以上にやばいぞ…」
一体どこへ向かって歩いているのか、似たような景色のせいでわからない。そして、木々が太陽光を殆ど遮ってしまい、薄暗い世界が不安を増幅させる。せめて人が通った道でもあればよかったのだが、そんなものはどこにも見当たらない。
…仕方がない。大声で助けを呼んでみるか。
「おーーーい!!誰かいませんかーーー!!」
しばらく返事を待ってみたが、何も反応が無い。これはいよいよ詰んだかと思ったが、近くでガサガサと、地面を歩くような音が聞こえた。
「あっ。誰かいるんですか?」
音のした方を見ると、そこには確かにいた。ただし、人ではない。大型犬ぐらいのサイズで、牙をむき出しにした黒い毛の狼?が、殺意をむき出しにしている。俺は暫く狼と睨み合い――――――――
全力で逃げ出した。