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知る者、知らぬ者

その事件は、昼頃、唐突に起こった。

ここは、とある企業の開発室兼監視室だ。

「え?何これ…え、うっわぁ〜え?マジで?えぇ〜」

監視役の一人が何やら変な声を出している。彼は最近入社して来た新人で、今は監視役をやっている。一体何を見ているのかと、カメラをどう動かしたのか一応確認しておく。彼は自分の見たいものに対してカメラを動かすので、ちゃんと監視できているのか確認する必要がある。…案の定、カメラは1つの場所からわずかに動いているだけだ。一体何を見ているのかと内線を繋げる。


「ちょっと」

「え?あっはい!なんでございましょうか!」

「ちゃんと監視作業してるのかな?」

「俺をバカにしないでくださいよ。仕事くらいちゃんとしますよ〜」

「ふーん。でも私が見たところかれこれ10分ぐらい同じ場所を見ているみたいだけど?」

「え?あ、えっと〜いやでもちゃんと仕事はしてますって!俺が見てる場所の映像見ればわかりますって!」


そう言われ、彼の見ている映像にパソコンを繋げてみると、そこにはとんでもない光景が映っていた。


「な、何よこれ?」

「さっきから、かれこれ5分は粘ってますよ。このプレイヤー」

「このレベルで!?本当に!?」

「そうですよ。だから最初はチートとかその辺の不正ツール使ってるんじゃないかと思ったんですけど、そんな感じはしないんですよね」

「ありえない!だってレベル差は30以上あるのよ!?確かに、スキルが充実していれば覆せなくはないレベル差だけど、徘徊モンスター相手にこのレベルでそれは不可能よ!と、とりあえず室長に繋がないと…」

急いで内線を室長に繋げる。

数秒の呼び出し音の後、室長が内線に出てくれた。

「はーい。みんなのアイドルこと、真島 結城室長でーす!」

「し、室長。8番カメラの様子を見てください」

「んー?8番?それってあの君の好きな人が担当してるっていう8番?」

「好きじゃありません!からかってないで、早く見てください!」

「はいはーい。ってこれはまた…」

「このプレイヤー、彼曰くかれこれ5分程戦っているらしいんです。ひょっとしたら改造ツールやチートの可能性も…って、あら?」

「あ〜。これは勝負ついたんじゃないっすか〜?」

画面の向こうでは、プレイヤーが吹き飛ばされ、徘徊モンスターが上に乗り何度も武器を打ち付けている。プレイヤーは今はなんとか防御できているみたいだが、いずれHPを削りきられて死に戻りするだろう。

「いや〜さすがにいくらPS高くてもこのレベルで徘徊モンスターに勝つのは無理があったみたいですね〜」

「そりゃそうよ。だっていくらVRといえどこのレベル差を覆せたらレベルなんて意味をなさなくなっちゃうじゃない」

「ま、そりゃそうっすよね〜てか、それにしてもよく耐えますね、この人」

確かにそうだ。いくら面積の大きな大剣といえど、徘徊モンスターが繰り出す攻撃をなんども防御できるのは流石と言わざるを得ない。しかしここでこのプレイヤーが負ける。それは覆しようのない事実だ。

「室長、手間を取らせてしまい申し訳ありませんでした。それでは内線をー室長?」

何故か室長から返事がない。どうしたのだろうと思いもう一度声をかけようとすると内線から室長の呟くような声が聞こえてきた。

「やっぱりあの人じゃなかったのか。まあそれにあの人が大剣使ってるのなんて見たことないし、別人かってうん?ああごめんごめん。考えごとしてたよ。それで?なんだっけ?」

「あ、はい。これで内線を切ろうかとー」

「あっ!え?おおおおお!すげぇ!」

突然彼があげた大きな声に驚いて言葉を途切れさせてしまう。

「今私話してたんだけど。会話の邪魔しないでもらえる?」

「いいからほら!これ見てくださいよ!映像!ほら!」

興奮した彼の様子に一体何事かと思い、もう一度映像を見る。するとそこには信じられない光景が映っていた。

武器を短剣に変えたプレイヤーが徘徊モンスターを蹴り飛ばしている姿が、そこには映っていた。

「はぁ?」

武器を短剣に変えた途端、そのプレイヤーの動きはさっきまでと全く違っていた。

攻撃を悉くいなし、的確に体術で攻撃していく。

「おおー!すげえ!ラノベの主人公みたいじゃん!かっけえ!」

「た、確かにこのプレイヤーの動きは驚異的ね。だけどこの徘徊モンスターのスキルは初見だったらまず避けようがない。必ずそこで死ぬことになるわ」

私たちが会話している間にも、戦闘は進んでいく。そして、ついにその時は訪れた。徘徊モンスターが特殊行動をしたのだ。この徘徊モンスターの特殊行動はプレイヤーの背後に一瞬で回り込み、背後から急所を貫くという技だ。この攻撃は、初見なら絶対に避けようがない。

そう思っていた。しかしそのプレイヤーは徘徊モンスターが背後に回り込んだ瞬間、短剣を持った腕を後ろに突きのばしたのだ。その短剣は、背後に回り込んだ徘徊モンスターの喉。つまり一撃で倒せる急所ポイントに、吸い込まれるように伸びていき、徘徊モンスターは倒れた。

私たちの間に、沈黙が満ちる。

その沈黙を破ったのは、室長だった。

「…このプレイヤーに関しては、僕が対応する。異論は認めないよ」

「「わかりました」」


室長室

そこで真島 結城は、興奮を隠しきれずにいた。

「やっぱり!やっぱりそうだ!あの人だ!」

余りの興奮のため、室長室内の別室に備え付けてあるベッドに飛び込んで足をバタバタとさせてしまう。

「えへへへへ…早く、会いたいなぁ…」

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