手荷物
僕たちコーヒーを飲んで、とりとめのない話をして時間を潰したあと僕は水の音が鳴るお腹を気にかけながらも、優也の後ろをついて行って色々苦戦しつつもゲートに入った。
「特に問題なく、ゲートには入れたな。あとは飛行機に乗るだk」
「っははは。どこがだよ。」
僕が乗るだけと終わる前に優也は、大笑いしている。
一体何が面白いのだろうか。
「僕が何かした?」
「お前、手荷物どこへやった?」
「え、手荷物?」
はっとした。僕は手ぶらだった。
完全に僕の頭はパニックだ。もしや、盗まれたか。置き忘れたか。それとも?
「キャリーバックに入れたままだぜ。」
「あ、財布とかも入れっぱなしかも。」
そう思ってポケットを確認しようとポケットに手を突っ込むと右のポケットからはぐしゃぐしゃという音がした。取り出してみると哀れな姿の座席表だった。
「……」
「うあっははは。マジで!?あっおもあははしろすぎ。」
いつもはクールを装っている優也が何を言っているのか分からないくらい大爆笑している。
喜んでいただけたようで良かった。
ちなみに、財布とパスポート、スマホなど必需品は幸い左ポケット窮屈そうに入っていた。
「はあ。はあ。」
しばらくすると優也も落ち着いたようだ。
「大丈夫か?」
「お前のせいだろ。俺を殺す気か?」
「喜んでいただけたようで良かったよ。」
テロ対策とかでピリピリしているのだろうか。たまたま、通った職員らしき人に凝視されてしまった。
「香港行き28番ゲートでお待ちの〜」
女性の声で アナウンスがかかった。
「行こうぜ。」
「おう」
放送と同時に優也は立ち上がって列の最後尾に並ぶ。そして、その後ろに僕が並ぶ。
その後、僕らの前は順調に減って行き、僕らの後ろにも人が増えてきた。
優也がパスポートと座席表を機会に通して通過した後、僕も真似てそれらを差し出した。
パスポートは無事、機械に認識されたようだ。
「あれ?」
CAが不思議そうに僕のぐちゃぐちゃの座席表を眺めている。
何度光を当ててもバーコードは読み込まれない。
「少々、お待ち下さい。」
「……」
まさか、ヨレヨレで読めなかったのか。
僕を罪悪感が襲う。なぜか、いつも上手くいかない。人には迷惑をかけたくないと思っているのに。
ふと、顔を上げると優也が笑い転げている。
たくさんの人に見られながら通路で。
「少々お待ち下さい。」
CAはどこかへ行ってしまって、僕の後ろの人々は別のCAに案内されてどんどん入って行き、ゲートには僕のみが残された。優也も飛行機へ乗ってしまったようでいない。
「お待たせしました。」
CAは急いだのだろう。息が上がっている。
「いえいえ、すいません。」
そのあとは恥ずかし過ぎて何があったのかは曖昧だが、なんとか飛行機には乗れた。
僕は、しばらくは笑いの止まりそうにない優也の横に腰を下ろした。