ディナー
11時。彼女に連絡を入れる時間までかなりの時間があったため僕らは夕食を済ませることにした。
優也には食べ歩きを誘われたのだが、空港の件で疲れ切っていた僕は断った。出来るだけゆっくりしたかったのだ。
結局、近くにあった小洒落たレストラン街に行くことに決めた。
「湊、こことかどうだ?」
優也が指差した店は中国菜という文字の下に観光客向けに英語でかなが振られている看板だが残念ながら僕には理解できない。
中国菜って中国の野菜か?京野菜みたいな。
「ごめん。ここ何の料理?読めない。」
「とりあえず入るか。」
僕の問いには答えず優也は店内に入った。
洋風とも和風とも言い難い服をきた女のウェイトレスが僕らを席に案内して、メニューを持ってくる。漢字と英語が綺麗に整列しているメニュー。
僕は、写真でかろうじて、何の店かわかった。特徴的なのは蒸し物。分かりやすい。中華料理だ。中国四大料理のうちのどれかと言われればわからないが。
「決めた?」
「え、や。分からないんだけど。」
「適当に頼め。」
なんだか、優也のさっきから対応が冷ややかだ。僕が何か気に障るようなことでもしたのだろうか。身に覚えがない。
「Scuse me」
「Please wait for a moment.」
優也がウェイトレスを呼び止めた。ナンパではなさそう。オーダーするのか?
早く決めないといけない。
「Are you ready to order?」
そのウェイトレスのセリフを聞いて優也が何やら注文している。日本で言うお決まりですかみたいなものだろうと思う。
その後、急に静かになった。僕が注文する番のようだ。
「あー、ディス」
パッと目についたものを注文する。ディナーのセットっぽい感じだ。
彼女は目を丸くして僕を見た。
「Oh.can you eat?(あなたは食べられますか?)
「イェス」
何がだろうか。
「Make it as hot as you can.」
彼女は、厨房の方に声を張り上げてそう言った。
それに答えるかのようにあちこちから歓声が上がる。有名な料理なのだろうか。
「何て?」と言った僕に優也が耳打ちする。
「できるだけ辛く作ってとさ。」
「Have good time」
ウェイトレスは、ニコッと微笑み。というよりワクワクした小学生の笑いを浮かべてコツコツと靴を鳴らしながら去っていった。
それを見送ると優也が真面目そうな顔つきで話しかけてきた。
「なあ、お前。どうして真面目に英語を勉強しないの?」
「え?ああ、なんかずっと苦手なんだよね。」
ふう、と彼のため息をついた顔を真っ直ぐには見つめられない。なんだか怒られている気がしてならない。
「お前が、英語さえすれば……。いや、いいよ。」
「なんだよ。変なやつ。」