表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/13

パレット

 あの後、彼女は僕を電車に乗っけると電話番号を書いたメモをくれた。

 “Please call me “


 そう書かれたメモを渡した時の少し照れた彼女の顔を、僕は何度も電車の窓をパレットにして思い浮かべた。

 しかし、思い描けば描くほど思い出せなくなる。忘れまいと描いたが、終いには霧がかかったように思い出せなくなった。


 今日出会って、電話番号を交換しただけの彼女に抱いているのは恋愛感情かと聞かれれば分からない。

 しかし、彼女に抱いているのは好意以外の何物でもなかった。


 彼女が僕をどう見ているのか。そればかりが頭を埋め尽くした。突然会った日本人に何故親切にするのか。

 逆に考えよう。嫌いな奴に電話番号を教えるだろうか。そして、英語を教えようとするだろうか。

 客観的にに考えていたはずなのに、いつのまにか好かれていたいという理想が僕の思考には紛れていた。


 考えることに疲れて外に目を写した。ぐるぐると外の景色は動いている。

 建設ラッシュなのか、クレーン車なんかがあちこちで働いているようだ。活気が溢れるというのはこういうことか。と思った。


 高度経済成長の頃には生まれていないが、きっとこんなのだったのだろう。


 日本のよりもずっと綺麗な車内を見渡すと電光掲示板に現在地が表示されていた。

 彼女に教えてられた駅名と見比べる。次だ。


 降りると、まずターン ライト。その次はゴー ストレート。あとは、タクシー。

 彼女のメモは地図なんかよりも分かりやすい。必要なことしか書いていない。


 タクシーはヤニ臭かったし、値段が分かりにくかったが結局彼女は全て正しかったのだ。

 両替も、なめられず、ぼられない最低限の運転手との会話の応答も全部教えてくれた通りだった。(英語は分かりにくかったが、丁寧に教えてくれた。)

 そして、あくまで僕を警戒させなかった。両替等の方法は教えても財布を見たりはしなかった。


 ホテルに無事帰れたのは、彼女のおかげだろう。

 僕の起点を効かせたわけではないし、運が良かったわけでもない。


 彼女に出会えたのは偶然ではなく運命だ。世の中上手くできていると思う。


「お帰り。」

 ロビーから優也の声が聞こえる。待っていたのだろう。

 それに僕は元気に答えた。


「ただいま。」

「分かったか?」

「神さまのお導きでさ。」


 それを聞いて、優也は顔をしかめて、よくわからないという顔をした。


「何それ、何かの宗教に勧誘された?」

「いいや、親切な娘もいるものだなと思ってさ。」


 首を振った僕の顔をにやりとして彼は覗き込んだ。

 そして、「ただ飯にありつきたかったのかも。」と囁いた。

「それなら、帰してやくれないよ。奢らせられてないし。」


 僕は再び首を振る。


「まあな。で、可愛い女の子か?」


 こいつは女にしか興味がないのだろうか。

 人生それで楽しいなら文句は無いが。


「ああ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ