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ローズマリーへようこそ  作者: みるくてぃー
希望へのはじまり
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第58話 行く末の見えない現状

 あれから一ヶ月、エリクが立ち直ってくれたお陰と菓子パンの販売開始で、徐々に一号店にも客足が戻ってきた。

 ロベリアの店は相変わらず値段を下げてきたが、今回は余り効果も出なかったようで状況改善とまではいっていない様子。


 ここまで来てようやくロベリアの経営戦略が見えてきた。

「あの子、何も考えていないわね」

 これが私とルーカスの出した答え、こちらの店に客足が戻ってきたかと思うとすぐに価格を落として対抗してくるのだ、逆にそれ以外の対策が全くされていない。

 例えばこちらは季節に合わせた限定商品を出したりしているのだが、プリベリのメニューはオープン当時のままほとんど変わっていない。つまりお客さんが商品に飽きてきているのだ。


 一方私の店では新たにコーヒーを取り扱う事にした。

 市場に安く出回ったお陰でうちの店舗では低価格で提供する事が出来、今やコーヒーはプリベリの専売特許では無くなってしまった。


「正直信じられませんがお嬢様の言う通りでしょう。余りにも経営の仕方がお粗末すぎます」

 少し前までは叔父を警戒して色々対策を考えていたが、ロベリアの店だけはまるで素人が経営している感じしかないのだ。

 全くあれだけ色々考えていたのに、ただロベリアに振り回されただけだったとは、ある意味やるわね。


「恐らくあの店とクロノス商会は別物と考えたほうが良いでしょ」

「そうね、私も同じ意見よ。ロベリアには悪いけどここで一気に勝負をつけさせてもらうわ」

 正直あんな安易な戦略しか取れないのであれば、放っておくだけで自滅するだろう。だが叔父の影が見え隠れしている今、邪魔なあの店には早めに退場してもらうに越した事はない。


 コーヒーが安くなった事でこちらにも色々メリットが出てきた。

 たんぽぽコーヒーを使ったスイーツは本来のコーヒ豆に切り替えたし、コーヒーとココアを使った飲み物も間も無く準備が終わる。


 正直うちの店でコーヒーを消費続ける事は叔父に手を貸しているようで少々複雑ではあるだが、新なコーヒーの使い方をアピールする事で、多少なりとは私の査定になるのではないかと思い割り切る事にした。

 その第一陣として用意させているのはカフェオレとカプチーノ、それにカフェモカである。


 カフェオレはどこにでもある定番商品なので逆にないといけない商品、カプチーノはケーキ屋ならではなので準備をした。そしてカフェモカはココアがあるうちの店の専売特許というわけだ。

 カプチーノとカフェモカは当然のごとくこの世界には存在していなかった飲みもの。なぜこのチョイスをしたかというと、プリベリにコピーされないようにするため。

 実はコーヒーを使ったケーキをコピーされて店頭に並べられたのだ、もっとも完成度が低すぎてあまり人気は出なかった。


 まずカプチーノだが、本来は牛乳をクリーム状に泡立てたものを加えた飲みもので、前世だと100円ショップなんかで専用の泡立て器を使えばそれっぽく作れる。

 だけどこの世界で同じものを再現しようとすれば、蒸気で泡立てられたミルクを使い泡立てなければならない。

 種を明かせば簡単だが、ここに行き着くまでには相当な時間が掛かるだろう。

 そしてカフェモカはチョコレートを取り扱っている当店しか作ることが出来ないと言うわけだ。


 もともとうちの店を辞めた二人は料理人であってパティシエではない。

 もしこれが普通の料理だったらバリエーションを考えたり、何を使って作られたかぐらいは想像がついただろうが、畑違いのスイーツとなればどうも苦手のようだ。

 うちの店にいる間にしっかり腕を磨いておけば良かったものを、あの二人はただ言われる通りの工程で作っていただけだ。恐らくプリベリのメニュー内容がうちの店とほとんど変わっていないのもそのせいだろう。


 ロベリアは私の店に対抗するために値段を安くする方法をとった、だがそれももう限界がきているはずだ。

 これは私の想像だけど、もしかしたら材料の原価や人件費などを計算せずに適当に値段をつけているのではないだろうか。そうでなければあの不自然な価格は説明がつかない。

 お客さんも段々落ちていく価格に不信感を抱き始めているだろうし、どうせまた安くなるんだったらもう少し様子を見ようとする人だって出てくるはずだ。


「それにしても気になることが一つあるのよね。叔父はなぜあの店を作ったのかしら? もし私の目をあの店に引きつけておくなら、あんなずさんな経営はしないはずよね。あれじゃまるでロベリアが私に対しての当て付けだけに作ったようなもんじゃない」

「それは私も感じていたことです。お嬢様と対立させるならもっとしっかり経営をさせた方がより効果がでるでしょう、それなのにまるでロベリアさんを見捨てるようにも見て取れます」


「まさか今更男児であるライナスを後継者に、なんて考えてる訳はないわよね?」

「どうでしょうか……可能性は低いかもしれませんが本人が改心をし、被害者に謝罪をすればあるいは……」

 だが、どんな形であれ今更ライナスを持ち出したとしてもお祖父様は認めないだろう。もとより私の方が有利なのだ、例え査定で私に勝ったとしてもライナスだけは選ばれることはないはずだ。

 叔父もその辺りは容易に想像がつくだろうに……。


「とりあえずライナスの行動だけは警戒しておいた方がいいわね」




 その数日後、私の元にライナスが国外追放されたと報告が入るのだった。

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