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ローズマリーへようこそ  作者: みるくてぃー
希望へのはじまり
43/63

第43話 王家のパーティー 中編

「お祖父様!? ておられたんですか?」

 ロベリアの驚きようが妙に芝居がかっていて、内心ムカついた。

 私はお会いした事なんてほとんどないのに、貴方は何度も会ってたんでしょうから。


「お久しぶりでござます。ヘラルド・アンテーゼ()()様」

 お祖父様は一瞬表情に変化があったが、ロベリアは私が言った意味を理解していないだろう。

 まったくお気楽で羨ましい限りだ。


 私は今、多分無表情なのだと思う。嫌味ったらしく笑顔で挨拶をしてやろうかと思ったが、今の私にはどうしても無理だった。

 せめてもの反抗で他人行儀に挨拶をしてやった。もっとも、本当に他人と言ってもいい関係なんだけど。


「ふぅ、そう睨むでない」

 睨む? 勘違いしないでほしい。貴方が私たちに無関心なら、私も貴方には無関心なのだから。


「申し訳ございません」

 相手は仮にも現伯爵家当主だ、心を込めるつもりは全くないが、表面上だけ謝罪する。


「お久しぶりね。アリスちゃん、ロベリアちゃん」

「お久しぶりでございます、シリル様」

「お久しぶりでございます、お祖母様」

 お祖父様の隣で私たちに挨拶をしてくれるのは伯爵夫人であるお祖母様。私は『名前』、ロベリアは『お祖母様』と呼び方だけでも温度差がまるで違う。

 仕方がない事ではあるのだけど、やはりどうしても感情が上手くコントロール出来ない。


 別に今まで何かをしてもらった事はないし、こちらから何かをした事もない。

 でも両親が亡くなった時、せめて声だけでも掛けて欲しかった。

 それなのに葬儀が終わると同時に領地へと帰られた。全てを私たちに丸投げをして……。


 分かるだろうか、あの時の私はまだ世間を知らない只のバカ娘だった。

 全ては私のせいだとはいえ、唯一の救いである使用人たちが日に日に辞めさせられていく状況に、私がどれだけ涙を流したか。

 確かに助けを求めなかったのは私だ。でも、私はそこまで出来た人間じゃない、なぜ救いの手を差し伸べてくれなかったのかと感情を押し止める事が出来ない。


「まぁよい、後ほど詳しく話をする場を設けるつもりだ。言いたい事があるならその時に申せ」

「……分かりました」

 別に今更文句を言うつもりはないが、聞きたい事、言わなければならない事があるのは確かだ。後で話し合う場を設けてもらえるなら、今はあえて何も聞かなくていいだろう。


「それじゃ行きましょうか。アリスちゃん」

「? どちらにでしょうか?」

 お祖母様が私を誘ってくる。でもどこに?


「決まっておろう、陛下に挨拶をしに行くのだ」

「私()ですか?」

 この場合、伯爵であるお祖父様と一緒に陛下に挨拶をする意味は、直系の者、つまり自身の家族や次期当主を意味する。

 私が聞いたのは叔父と一緒に私も行くのかと尋ねたのだ。


「他に誰を誘うのだ」

「おっしゃっている意味が分かりません。なぜ伯爵様と一緒に私が行かなければいけないのでしょうか?」

 今の私の顔は無表情ではない、単純に言ってる意味がわからないのだ。

 先ほど私はお祖父様の事を『伯爵』と言った。その時の表情と、自ら伯爵だという事を否定しなかったところを考えると、お祖父様は明らかにこの件の事を全て把握しているだろう、つまり私が爵位を放棄した書面についてもだ。


 私たち姉妹はお祖父様から嫌われている事は間違いない。

 ロベリアの話し方からもお祖父様たちとは親密な関係なのだろう、なら次期当主は叔父で決定なのではないのか。そこに私を一緒に連れていく理由などないはずだ。


「そう考えすぎるな、伯爵としてのわしの役目だと思え」

「……それは伯爵としてのご命令と言うことでしょうか?」

 役目? 伯爵としての命令なら私に拒否する権限は存在しない。


「好きに思えばいい」

「もう、またそんな言い方をするから誤解されちゃうのよ。ごめんなさいね、貴方達を今まで放っておいた事を反省してるのよ。

 だからせめて今からでもお祖父ちゃんらしい事をしたいだけなの。そんなに難しく考えないで、私たちに付いて来てくれればいいから」

「……はぁ」

 何だか私の中で、不器用なお祖父様に対し、お祖母様がフォローしている構図が出来上がってしまい、先ほどまでの嫌な感情が薄れていった。


「それでは私はお父様たちを呼んできますね」

 私たちの話が一段落ついたのを見計らい、ロベリアが叔父たちを呼びに行った。


 あぁ、これで結局叔父とも顔を合わさなきゃいけないんだ。

 お祖父様たちは知らないんだろうなぁ、私と叔父の関係が悪いって事を。


「さぁ、行きましょうか」

「えっ、叔父、カーレル様たちを待たなくてもいいのですか?」

「どうせ後から来るだろう、先に行って待っていればよい」

 なぜかお祖母様に手を繋がれて、引っ張られていく。別に手を繋がなくても逃げないってば。

 見た感じお祖父様はお祖母様には逆らえないらしい。私たちの後ろにお祖父様が付いてこられる。


 そう言えばこんな長い時間お祖父様たちと会話した事はなかったっけ。

 こうして見ると只単に不器用なだけかもしれない。私と同じで……。


 タイミングよく陛下の前には誰もいなくなり、ステージに上がろうとした時に叔父たちが合流してきた。

 一瞬私の姿を見た叔父の表情が険しくなったが、陛下の御前のためか何も言わず、お祖父様の後ろに付いてステージの階段を上っていく。


「ご無沙汰しております陛下」

 お祖父様が代表して陛下に挨拶をされる。その後に続き私たち女性カーテシーで、叔父たち男性は片膝をついて挨拶をした。


「久しぶりだなヘラルド、相変わらず小難しい顔をしておるな」

 小難しい顔って、陛下上手い事いいますね。お祖父様とは仲がいいんだろうか?


「陛下、この度は我が孫が勝手をいたしまして申し訳ございません。全ての責任は私にございます」

 それって私の事? 突然お祖父様が陛下に謝罪をされた。

 多分爵位の放棄の件よね? チラッと叔父の様子を窺ったが無反応だった。という事は叔父も全て知っている? でもお祖父様が全ての責任を背負うって、それだけはダメだ。私のせいで他人が傷つくのは絶対に嫌だ。


「お待ちくださいお祖父様。私は……」

「ふはは、もうよい、もうよい。別に誰かに責任を負わせるつもりも、伯爵家を如何にかするつもりなわいわ。それにしても()()ラクディアの娘がこうも()()()()()()()()()()とはな」

 お祖父様の代わりに私が責任を背負うつもりが、陛下から遮られてしまった。

 陛下まで情報が届いているって事は、私の知らない間で大事おおごとになっていたって事?


「陛下、カーレル・アンテーゼでございます。この度は王子様のご婚約誠におめでとうございます」

 自分の存在を誇示したいのだろう、お祖父様が陛下と話している間に叔父が割り込んでくる。

 ちょっと重たい空気だったから正直助かった。


「カーレルも久しぶりだな、今日はゆっくりパーティーを楽しんでくれ」

 陛下はサラッとかわし、再びお祖父様と話を続ける。うん慣れてるね。


「久しぶりねアリスちゃん」

 陛下の隣に座って私に声を掛けてきたのは王妃殿下……って、はぁ? 久しぶり?


「えっと、申し訳ございません。そのお会いした事は……」

 ちょっとまって、社交界なんてこれが二回目だし、ルテアのパーティーには王族の方は来られてなかったよね。ではどこで? お店に来ていた? いやいや、そんな事になれば大事だ。学園? いや同じ年代には王子様方はいらっしゃらない。

 一瞬のうちに様々な可能性を考え精査するが、全くかすりもしない。


「カテリーナよ、あの時のアリスはまだ幼かったのだから、覚えているはずもなかろう」

 幼かった? 私以前にお会いした事があるの? そういえばルテアが何かおかしな事を言ってたっけ。私がアストリア王子と知り合いだと。


「あら、そうだったかしら? 昔はよくお城の庭園で三人一緒に遊んでいたのよ」

「お城の庭園!?」

「そうよ、アストリアとジーク一緒に遊んでいたのよ。アリスちゃんは三組の家族の中で唯一の女の子で、それはもうみんなから可愛がられていたんだから。あぁ、懐かしいわね。あれ以来女の子が欲しいと、よくフローラと話をしたわね」

 三組の家族? それって王家とジーク様のハルジオン家とお父様たちって事? さっき出てきたフローラ様は、たしかジーク様のお母様だったはず。


「それにしてもこんなに綺麗に育っちゃって、若い頃のマリーにそっくりね」

「お母様の事をご存知なんですか!」

 えっ、なんでお母様まで知ってるの? そらぁ、三組の家族と言うぐらいだからその場にお父様はいたかもしれないが、いくら伯爵夫人とはいえ、元踊り子だったお母様がお城に呼ばれなんて……。


 私たちのお母様の名前はマリー・アンテーゼ。前にも言ったかもしれないが、以前は街の踊り子をされていて、ステージにはいつもバラが飾られていたと言う。その時に付いた名前がバラのマリー、私が経営するローズマリーの由来だ。


「知ってるも何も、ラクディアとマリーを引き合わせたのは私とエヴァルドだからな。ははは」

「……はぁ?」

 この場にそぐわない変な声が出たのは見逃して欲しい。

 お父様とお母様を引き合わせたのが国王陛下!? そういえば以前ユミナ様から、父親であるエヴァルド公爵ともう一人、高位な方の後押しがあってお父様たちは結婚が出来たって言ってたっけ。

 今更ながらお父様って何者?


「お父様、他の方がまっておられますよ」

「おお、そうだったな。話し足りないが今日はゆっくりパーティーを楽しんでくれ」

 驚きの連続で時間が経っていたのに気が付かなかった。私たちの後ろで何組かが様子を窺っていた。

 教えてくださったのは恐らく第一王女のフィーナ様だろう、さすが教育の違いか堂々とされている。


「待ってくださいアリス様」

 私たちが去ろうとした時、止めに入ったのは先ほどと同じくフィーナ様。


「はい、何でございましょう」

 私が止められた事で、お祖父様や叔父たちがその場で止まる。


「よければこちらでお話を伺いたいのですが、ダメでしょうか?」

「……はぁ?」

 本日いったい何度同じ言葉を漏らした事だろう。

 なぜ王女殿下が私を止める、話を聞きたいってルテアの事?

 ただ一つ言える事は……王女殿下の要求に私が断れるわけないじゃない!


「わ、私でよければ喜んで……」

 笑顔がめっちゃ引きつっていた事は多めに見てくれ!


「お、王女殿下ロベリアでございます」

「ん? はい、こんにちは。パーティーを楽しんでくださいね」

 ロベリアの精一杯のアピールは、どうやら王女殿下には届かなかったようだ。むしろ私と代わって欲しいんだけどなぁ。

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