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ローズマリーへようこそ  作者: みるくてぃー
夢のはじまり
35/63

第35話 大根役者

 私は今頭を抱えていた、お兄様のあまりの不器用さに……。


『アリス嬢』……はぁ、何ですかその呼び方は。

 男ならもっとグイグイ行ってください。このままじゃアリス様は振り向いてくださいませんよ。



 私の見た目では感情レベルの違いはあるが、お互い意識し合っているのは明らかだ。


 まずお兄様は確実にアリス様を女性として意識しているのは間違いない。

 その証拠が『アリス嬢』だ。今までお兄様は立場上いろんな女性と関わっておられる。


 関わっていると言ってもお付き合いがあったり、その体の……ごにょごにょがあったりした訳ではない。

 えっ、そこまで観察しているのかって? そんなんの妹の目には誤魔化せませんよ。決して盗撮も盗聴もしておりません。ただ単に偶然映っていただけです。


 そんなお兄様は今まで一度たりとも『○○嬢』なんて呼び方をされた事がない。

 ほとんどが『あなた』や『キミ』、悪い時なんて『ふ〜んそうなんだ、ところで何の話だっけ』どれだけ女性に関心がないねん! と水鏡の向こうから何度突っ込んだ事か。覗いてないからね。


 それがアリス様に限って名前呼びなんです。

 初めてですよ私以外で女性の名前を呼ぶお兄様なんて。


 確かに両親から婚約云々と言われ続けていた事もあると思うが、女性の前で顔が赤くなるとか全くありませんでしたから、恐らく『アリス嬢』はお兄様なりの照れ隠しのつもりなんでしょう。


 そしてアリス様ですが、こちらも微かに脈はあるはず。

 自慢ではないがお兄様はイケメンの分類に入ってる、それもかなり上位の方に。


 今まではお兄様が女性に関心がなかったのと、私が陰から邪魔……コホン、お手伝いをしてあげたお陰で平穏な日々を送っていたのだが、それでもかなりの人数が当たって砕け散っていったのだ。

 たとえアリス様であっても多少なりとは意識するはず。


 本当の事を言うとアリス様に会うまでは、適当な理由をつけてお母様には諦めるよう報告するつもりだったけれど、あのような勇ましいお姿を見てしまっては同じ女性としても惚れちゃうのは仕方がないと思う。


 正直私自身がアリス様のようなお姉様が欲しい。ものすごく欲しい。





 お兄様にはキッカケが必要なんですわ。

 そして私はアリス様の事を呼び捨てで呼ぶようお兄様に提案した。

 最初は渋っていたお兄様もアリスお姉様からのお願いで諦めたのか、顔を赤らめて


「わ、わかった。ア、アリス」

「はい、ジーク様」


 くぅーーーー!!

 どこのメロドラマですか!!


 本人達は気付いていないかもしれませんが、今の確実にフラグ立ちましたよ!

 私はこの気を逃さないよう作戦をフェーズ(ツー)へと移行する。


「あ、いっけない、お洗濯を取り入れるのを忘れていましたわ。申し訳ございませんが私は先に帰らせていただきますね」チラッ

「そうだ、私もシロにご飯をあげるのを忘れていました。申し訳ございませんが先に帰らせていただきますね」チラッ

「お兄様とアリスお姉様は引き続き()()()をお楽しみくださいませ、それでは」

 エリスちゃんと作戦通りこの場をダッシュで離れていく。


 私の完璧な演技に怪しまれることはないはず。

 でもエリスちゃん。シロを抱いているのにシロにご飯をあげるって、その誤魔化し方は無いんじゃないかなぁ。


************


「「……」」

 ユミナ様……その誤魔化し方はあまりにも無理がありますよ。


 ユミナ様とエリスのあまりにも不自然なセリフと、明らかに私とジーク様と二人っきりにする為ダッシュで逃げ去った事も、ぶっちゃけバレバレです。

 恐らく何処かからこっそり覗いてるんでしょう。

 それにしても……。


「どこの世界にお洗濯物を取り入れるご令嬢がいるんですか」

「ここにいるじゃねぇか、主人あるじ

「いるじゃねぇか」


 ゴンッ!

「「イテッ」」


「うふふ、何か言ったかしら。スイ、エン」

「「な、何でもございません!」」



 さて、これは明らかにユミナ様の仕掛けた事だろう。恐らくエリスとも事前に打ち合わせをしていたに違いない。

 昨日の今日でここまで仲良くなっているのは嬉しい事だが、まさか二人して私とジーク様をくっ付けたいとでも思っているのだろうか?


「どうしましょうか?」

「ユミナのやつ、これは明らかに何か企んでいるな」

「多分エリスもグルだと思いますよ」


「「ふ、ふふふふ」」

 二人して自然と笑いが込み上げてきた。


「それじゃ折角ですのでデートでも楽しみましょうか」

「そうだな」

 二人の見事な大根役者のお陰で、すっかり肩の力が抜けた私たちは何故かそのままデートを続けたのでした。


************


「おかしいですわ」

 あの後、お兄様とアリス様は私の完璧な作戦のお陰で、無事にデートを続けられている。

 そこまではいい。

 だけどこれって……。


「ねぇユミナちゃん。これって普通にお買物をしているだけじゃないの?」


 忘れていました、お兄様が奥手だったという事を。


 エリスちゃんが言ったお買物は普通にウインドウショッピング……のような展開ではなく、今日の晩御飯の食材を見に来ているアリス様と、荷物持ちと成り果ててしまったお兄様の姿。


 今は近くに『水面』が無いため馬車の窓からこっそり眺めている状態。


「あ、今日の晩御飯はビーフシチューだ」

「何でわかるのよ」

 我が兄ながら、あまにも情けない姿に頭を抱えていると突如エリスちゃんが晩御飯のメニューを口にしてきた。


「だってお姉様がお肉とお野菜を見せて教えてくれたんだもの」

「は?」

 慌てて窓から外の様子を窺ってみると。あっ、ホントだ。


 なんという事だろう、まさか私の完璧な作戦を見破ったというの!? さすがはアリス様と言ったところか、ここは潔く負けを認めざるを得まい。




 その後馬車にやってきたお兄様達と一緒にローズマリーへと戻り、アリス様の手料理をご馳走になった。


 出てきたビーフシチューとふわふわオムレツは絶品だった事は言うまでもあるまい。

(オムレツに書かれた『次はないよ』の赤い文字に少々震え上がったのは見なかった事にしてほしい)


 くっ、お兄様より先に私が惚れてしまいそうです。

 女子力高すぎですアリスお姉様。




作戦名

『また来ちゃいました、よかったら一緒にお買い物にでもいきませんか? あ、いっけない、私とエリスちゃんは予定ができたので先に帰りますね。後は若い者同士でゆっくりしてきてください。そのあと馬車の中でこっそり二人を覗いちゃおう。 大作戦』失敗。


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