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ローズマリーへようこそ  作者: みるくてぃー
夢のはじまり
34/63

第34話 ある令嬢の罠

「お姉さま、これなんかどうですか?」

「アリスお姉さまなら、もう少し明るい色の方がよくない?」


「えー、ユミナちゃんこっちの方がいいよ」

「エリスちゃんのもいいけれど、もっとお肌が見える方が男心をくすぐると言うものですわ。ねぇ、ソラもそう思わない?」

「きゅびー」


 なんだろう今のこの状況は……。


 昨日ライナスの痴漢騒動からジーク様の登場、そしてエスニアとの話し合いと中々濃い一日を過ごした翌日。


「お言葉に甘えて来ちゃいました」

 お店のオープン前に現れたのは昨日お別れしたばかりのユミナ様とジーク様……。


 いや確かにいつでもお越しくださいとは言ったけどさ、翌日ってどうよ。

 たしかに今日も学園はお休みだけどさ、公爵家ってそんなに暇なの?




 思いもよらなかった突然の来客にフリーズしていると、「今日は私たちだけで大丈夫なのでお嬢様はジーク様たちとデートしてきてください」とスタッフ全員に店から放り出されてしまったのだ。


 まてまて、デート違うから! どちらかというとエリスとユミナ様の付き添いだからね!


 そんな感じで現在街の洋服店で『きゃっはうふふ』の状態と言う訳ですよ。エリスたちがね!

 そして現在進行形で、エリスとユミナ様が私の洋服をあーだこうだで探しておられる。


 ついでに言うと先ほどソラと呼ばれていたのはユミナ様の契約精霊、外見が前世で言うフェレットの姿をしている精霊獣だ。

 話では水と風の属性をもっているとか。

 昨日は仮にも食べ物屋(ローズマリー)に来るので、お屋敷でお留守番だったそうだ。



「すみませんジーク様、なんだか買い物にお付き合いいただいた形になってしまって」

 そして私の隣には例のごとくジーク様がおられる。


 さすがに昨日ほど顔は赤くなっていないと思うけど、いいのかなぁ公爵家のご子息様を女の子の買い物なんかに付き合わせちゃって。


「気にしないでいいよ。買い物はユミナや母上の荷物持ちによく付き合わせられるから」

 なぜか目線をそらしながら答えてくくださるジーク様。

 しかし公爵夫人も大事な跡取りに何てことを、するとユミナ様の行動力はお母様似と言うことだろうか?


「アリスお姉さまこちらを一度着てみてください」

 そう言ってユミナ様が持ってこられた一着のワンピース。


「あの〜、ユミナ様。そのお姉さまというのは?」

 昨日の帰りから私への呼び方がなぜか『アリスお姉さま』に変わっている。ん〜謎だ。


「ダメですか? エリスちゃんだけズルイです。私もお姉さまが欲しいんです」しゅん

「お姉さま、ダメですか? ユミナちゃんが可愛そうです」うるうる

 ふ、二人してそんな目で見ないでよぉ。私は子犬見たいな目には弱いんだよぉ。


「ダ、ダメな訳が無いじゃないですが。でもいいのかなぁユミナ様にお姉さまって呼ばれるといろいろ問題が出てくるんじゃないでしょうか?」

 何と言っても公爵家のご令嬢、言わばプリンセスだ。


 未来の王妃さま候補と言っても良い存在のお嬢様に『お姉さま』と呼ばれるのは流石に抵抗があるというか、問題がありそうな気がする。いろんな意味で。チラッ


「ん? アリス嬢さえ良かったら呼ばせてやってくれないか」

 はぁ、ジーク様分かってませんね。ユミナ様にお姉さまと呼ばれる意味はですね、周りから見ると私とジーク様がその……ごにょごにょ。


「お兄様! アリス嬢なんて品の無い呼び方はいけませんわ、ここは男らしく呼び捨てでお呼びください」

「よ、呼び捨て!?」

 あっ、それは私も思っていた。アリス嬢って何だかこそばゆいのよね、どうせなら呼び捨ての方が気が楽と言うもの。

 それに街中でアリス嬢なんて呼ばれたら、どこかのご令嬢かと思われてジロジロ見られるじゃないですか、豆腐並みの私の心臓には悪すぎなんです。


「私もアリスと呼んでくださる方が心の平穏(豆腐の心臓)の為に助かります」

「わ、わかった。ア、アリス」

「はい、ジーク様」

 何故か頬を赤らめておられるジーク様がそこにおられた。


************


「まったくお兄様は、せっかくアリスお姉さまと二人っきりにさせて上げたというのに何の進展もないなんて、酷いと思いませんかお母様」

「ホントね、相変わらずあの子は押しが弱いんだから。いったい誰に似たのかしら?」


 今日お母様に頼まれ、アリス様が始められたというケーキ屋さんへと向かった。

 当然お兄様には適当な理由を付けて付いてきてもらう事に、私の護衛兼荷物持ちとか言えばちょろい……コホン、喜んで付き添ってくれた。

 建前上はお忍びの上ケーキを食べたいと言って。


 前もってエンジウム公爵夫人のティアナ様とご令嬢のルテア様からお店の評判は聞いていたので、事前調査はバッチリだった。

 中でも販売されているケーキは絶品との事。未だに流行の最先端とも言われているティアナ様が褒め称えるとなれば、ぜひとも食べなければいけない。


 お店に着いた私たちは早速驚かされる事になる(主に私だけ)。

 お店自体は古びた感じなのだが、店内のデザインや装飾品がなんというかレトロ調で非常に可愛い。

 やはりこれはアリス様のセンスなのだろうか?


 他にも店員が着ている制服にも目を奪われた。

 清潔そうな色合いのエプロンドレスに短いスカート、時々太ももが見えるが決して不愉快にさせないそのデザインがなんとも愛らしい。ぶっちゃけ私も着てみたい。


 お母様に内緒でアルバイトをさせてもらおうかと思ったのは仕方がないと言うもの。こんな時公爵令嬢に生まれたことが悔やまれる。


 店員さんにテーブルへと案内され渡されたメニューを見てみると、そこには女の子心をくすぐる程、見事に描かれたケーキの数々。

 何これ、ホントに食べ物? と思わせる品々に今まで知らなかった事を本気で悔やんだぐらいだ。



 迷いに迷った結果、注文内容は私がチョコレートパフェでお兄様にはミルフィーユと紅茶を頼んだ、もちろん私の独断で。

 だって両方食べてみたいじゃない。


 運ばれてきたパフェを一口食べると、ヒヤリと冷たさと甘さが口の中に広がり一瞬で虜になった。

 私は兄のケーキを奪う事を忘れて夢中で食べ続けた、そんな時だった。


 店内が急に慌しくなり何らかのトラブルが起こった。


 初めは傍観しているつもりだったが、余りにも女性を侮辱するセリフに思わず叫んでいた。


 結局私たちの存在をアリス様にバラしてしまう事になったが結果オーライと言うもの。

 上手い具合にアリス様とお兄様を二人っきりにする事が出来たのだ。


 エリスちゃんと部屋で二人っきりになった私は、早速部屋の外にいるお兄様たちの姿を《《見る》》ことにした。


 見ると言ってもドアの隙間から覗く訳ではなく、私が得意とする魔法に水鏡すいきょう風聴ふうちょうと言うものがある。


 まず水鏡すいきょうは離れた水面に映る映像を手元の水面に映すことができる透写魔法。

もう一つの風聴ふうちょうは遠くの音や話している声を私の元へと届ける事ができるのだ。まぁ早い話が盗撮と盗聴の魔法と言うこと。

 私一人だと共に自分から半径50m程が限界だけど、精霊獣のソラがいれば半径100mぐらいまでが対象に出来る。


 エリスちゃんに全てを説明して、ノリノリの彼女と一緒にお兄様が飲むお茶の水面を写した。

 だけどお兄様ときたら何の進展もないどころかろくに会話すらできないご様子、我が兄ながら少々お説教をしたい気分だ。


 今日初めてアリス様を拝見したけど、聞いていた通り銀髪の綺麗な方だった。

 お父様からよく……様の若いころの話を聞かされていたが、アリス様のお姿を見れば母君である……様が王都で人気の踊り子だったというのも頷ける。


 それに不埒者を見事にあしらった末、相手をさりげなく気遣う優しさも評価に価する。

(それ故に不埒者の事が許せないのではあるが)


 私がもし男性に生まれていたらきっとその場で愛の告白をしていただろう。それなのにお兄様ときたら……。

 剣の稽古ばかりしているから女性への扱いがダメダメなんですよ。はぁ。


 屋敷に帰って早速お母様に報告を済ませ次なる作戦を立てた。

 名づけて『また来ちゃいました、よかったら一緒にお買い物にでもいきませんか? あ、いっけない、私とエリスちゃんは予定ができたので先に帰りますね。後は若い者同士でゆっくりしてきてください。そのあと馬車の中でこっそり二人を覗いちゃおう。 大作戦』うん、我ながら惚れ惚れするネーミングセンス。


 明日の朝一で密書を執事のグレイさんに届ければ必ず協力してくれるはず。


「ふふふ、完璧な作戦だわ」まったく自分の才能が怖い。


 しかしこの時の私は、最大の誤算をしていた事に全く気付いていなかった。

 そう、お兄様が女性に対してのヘタレぷりをすっかり見落としていたのだった。

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