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ローズマリーへようこそ  作者: みるくてぃー
物語のはじまり
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第2話 騒動の予感

「おいでリリー、お茶にするよ」

「はーいママ」

 かわいらしい声と蝶々のような羽で飛んできたのは私の契約精霊である、花の精霊リリー。

 普段は私の肩やポケットの中がお気に入りの場所だけど、今はノエルに気を使っていたのか窓辺に飾ってある切り花で休んでいたみたい。


 前にも言ったけれどこの世界には精霊が存在し、お互いの気が合えば儀式を行い人間と契約する事だってある。そして精霊と契約する事が出来ればその精霊が持つ属性の魔法が使えるようになるのだ。

 ただし魔法が使えると言っても、元々持っている魔力の大きさにより魔法の強さは変わるし、魔法量、潜在意識量が少なければ契約する事すらできない。また、一度に契約できる精霊の数は一般の人で精々(せいぜい)一人、お城に仕える精霊術師様でも多くて二~三人の契約数だと言われている。まぁ実際のところ契約してくれる精霊自体少ないんだけどね。


 三年前、家の庭園を散歩していた時、花壇の花の中に見慣れない虹色の丸い玉を見つけた。その時はただキレイだと思い部屋に持ち帰ったのだけれど、数日後、虹色の玉が光ったかと思えば光の中からリリーが生まれたと言う訳だ。

 何でも精霊は自然界から突如生まれる為、いつどこで生まれるのか分かっておらず、卵の状態で会う事は非常に珍しいそうだ。


 聞いた話では本来精霊は卵の時、木々や草花の魔力を吸収して孵化するらしいのだけれど、リリーの場合私が勝手に部屋へ持ち込んでしまったから身近にいた私の魔力を吸収していたらしい。(そういえばよく玉を持って眺めていたっけ)


 そんな過程で生まれたリリーは私のことをママと呼んでいる。(私はまだきよいままだからね!)

 ついでに言うなら精霊は火水風土の四大元素と光と闇の属性を持っているらしく、この中でリリーは風と土の属性を所有していおり、その加護を受ける私は風と弱いながらも土の魔法が使える。

 他にも花を咲かせたり草花の気持ちが読み取れるそうだが、これはリリー本人にしか扱えない。




「エレン、あなたから見て叔父夫婦はどう見える?」

 お茶の準備をしているエレンに先ほどノエルの言葉を思い出しながら尋ねてみる。


「正直あまり良いとは言えません。お嬢様の後見人だからとはいえお屋敷に住み込む必要もございませんし、お子様達の学費を負担する必要もございません。

 それにお屋敷の運営やアンテーゼ領に関連する商会の取引も、全て執事長が行っておりますので特に困っている事はありません……。ですが最近では商会経営の事に口を出したり、奥方様に至ってはお屋敷の事にもいちいち文句を言ってくるんですよ」


 確かにエレンの言う通り別にこの屋敷に住む必要はないわよね。

 前世の記憶では意地悪夫婦が乗り込んで家を乗っ取られる、ってのが定番だったから気にしてなかったわ。これは本気で心配した方がいいわね。


「商会経営や屋敷の事ってどんな事を言ってくるの?」

 お父様が治めていた伯爵領であるアンテーゼは、温暖な気候を利用して育った特産物を、商業ギルドと懇意にしているクロノス商会を通し、王都で販売する事を主な業務としている。

 主な輸出物は珍しい果物や木の実、コーヒーの加工に使う種などが主力の商品で、特にコーヒーに関してはお父様と現地の生産農家さんとの研究開発で、ようやく市場に流通出来るまでにたどり着いた新しい商品、今では一般市民から貴族の間まで多く広まり、王都でも大人気の一つである。

 また領地の運営と生産管理はお父様が存命の頃から引退された祖父母にお願いしているが、私たち姉妹はお二人からはあまり気に入られてはいない。


「商会経営の事は私では理解できませんでしたが、お屋敷の事に関しては気に入らない家具や装飾品の入れ替えに始まり、執事長に無断で使用人増やしたり、今日なんて奥様の部屋に勝手に入り込み装飾品を持ち出そうとしてたんですよ。

 気づいたノエルさんがすぐに止められましたが信じられません! このお屋敷にあるものは全てお嬢様の物なんですから!」

 これは相当鬱憤(うっぷん)が溜まっているわね、私が学園に行っている間にそんな事になっているなんて。


「エレン、私がお屋敷にいない間エリスの側を離れないでちょうだい」

 エリスは私にとっては掛け替えのない可愛い妹、まだ10歳だから学園には通っておらず、普段はお屋敷内で家庭教師に学んだりダンスや礼儀作法のしつけを教わっている。

 私はまだ学生の身だから昼間は学園に通わなければならないし、エリスに付いてくれているメイドは私たちよりも更に幼く、まだまだ守ってあげなければならない存在だ。今のエレンの話を聞く限り二人っきりにしておくのは危険な気がしてきた。


「それとエレン、あなた自身も叔父夫婦には注意しておいて。何だか不安になってきたわ」


 そして翌日、私の不安が的中する。

 私が学園に行っている間にノエルが屋敷を辞めさせられたのだ。




「叔父様どいうことなんですか! 勝手にノエルを辞めさせるなんて」

 帰ってきた私はノエルの事を聞くなり叔父の部屋へ乗り込んだ。


「どうもこうもない、あの者はマグノリアに怪我を負わせたから辞めさせたまでだ」

 その辺りのことは事前にエレン達から聞いている。

 なんでも叔母様がお母様のドレスや装飾品を勝手に行商に売ろうとしていたところを見てしまい、それを止めに入ったノエルとぶつかり転げてしまったらしい。

 しかも怪我といっても軽い打ち身程度でかすり傷すらついていないのに、大袈裟に騒ぎ立てた挙句医者を呼ぶ始末。そして怪我を負わせた理由を無理に押し付け、ノエルをお屋敷から追い出してしまったそうだ。

 恐らく昨日のノエルの話から察するに、叔母にとって何かと口を挟まれ邪魔な存在だったのではないだろうか、それで無理やり理由をこじつけてお屋敷から追放した。ある意味逆らうと同じような目に遭うぞと見せつける為に。


「詳細は伺っておりますが、勝手に母の持ち物を売ろうとされていたのは叔母様の方ではございませんか! ノエルはそれを止めようとしただけですわ」


「アリス、君は分かっていないと思うが今伯爵家の経営は非常に苦しいのだ。兄達が我が身可愛さに無駄に浪費をしすぎていてな、マグノリアはそんな今の現状を見るに見かねて夫人あねの持ち物を売却しようとしたのだ」


 伯爵家うちの経営が苦しい? そんな話は聞いた事がなかった。でも両親が我が身可愛さに無駄に浪費していたなんてそんな事は絶対にありえない。

 私たち家族は贅沢なんてしてこなかったし、お屋敷の使用人も必要最小限で抑えていた。そんな両親をみんなは慕って付いてきてくれていたんだ。


「経営の事は正直分かりませんが両親が無駄に浪費していたなんてありえません」

「君は知らないだけだ、現に他領から借金も抱えている。私は領主代理としてこのお屋敷と領民の事を第一に考えねばならないのだ、何も知らない子供は黙っていなさい」


「……何ですか領主代理って……」

 確か叔父は私の後見人のはず、現在領主は不在で私が十八歳になると同時に正式に引き継ぐ事になっている。


「兄が亡くなった現在は領主が不在な状態だ。そんな状態をいつまでも長引かせる訳にもいかないから、仕方なく私が代理を務めているだけだ。君の後見人なんだから当然であろう」

 叔父が言っている事は確かに正論だ、こんな事まで気づけなかったとは私はなんて無能なんだろう。いや、あの日叔父の言葉を素直に受け止めてしまった時点で私は罠にはまっていたのかもしれない。


「はぁ、アリス。君はもう少し礼儀を学んだ方がいいのかもしれん。私のところに怒鳴り込んでくるなんて淑女として恥ずかしくないのか? もうすぐ婚約すると言うのに」


「……えっ?」

 今この人はなんて言った? モウスグコンヤクスルトイウノニ?

 私は記憶を取り戻した時とは違う、頭を鈍器で殴られたような感じを味わったのだ。

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