第16話 チョコレート
ブックマーク100人超えました!ありがとうございます。
開店してから一週間が経ちました。
すみません、一週間もすれば客足も落ち着くと言っていましたが全く落ち着いていません。寧ろ増えてます。
忙しいねん! はぁはぁはぁ。
繰り返しすみません取り乱してしまいました。
忙しい事はそれだけ順調に進んでいるという事なので、今は感謝しないとですね。
さて、今日は皆さまにご報告があります。覚えておいででしょうかカカオの事を。あの後、エレンがお婆様に手紙を出してくれて本日そのカカオの種が遂に到着したのです!
後で分かったのですが、ココナと言う名称は地方の独特の訛りだったそうで、本来はちゃんとカカオと言う名前が正しいそうです。
この世界意外と変なところで前世とよく似てるのよね。
「お嬢様? 何を一人でブツブツ言っておられるのですか?」
「ん? 私、今何か言ってたかしら?」
いけないわ、最近独り言が増えてきちゃったわ。
頭の中で考えることが増えてきたからね、気がつけば一人でボケとツッコミをしてる自分がいる。私って根っからの関西人ね。
まぁ、そんなこんなでカカオの種です。
前世のように手紙を出してもすぐに届くわけではなく、カカオが到着するまで日にちがかかったというわけです。これでもかなり早い方なんですよ?
エレンのお婆様には何かお礼をしなくちゃね。
「お嬢様、ホントにこんな種が甘いお菓子になるんですか? 私食べた事がありますけどこれすごい苦いんですよ?」
「大丈夫よ、種の汚れと皮をめくるのを手伝ってもらえるかしら。あっ、水は使わないでね」
本日の営業を終え、さっそくチョコレートを使った試作品に取り掛かる。
種は乾燥されているからね、水に濡らしちゃうと余計な水分が入っちゃうんです。
エリスやグレイも物珍しそうに眺めている。
「お姉様ってホントいつの間にお料理できるようになったのですか?」
そう言えばエリス達に私がケーキを作っているところを見せるのって初めてかしら?
「それは永遠の謎でございますな、お伺いしてもいつも誤魔化されてしまいますし」
ちっ、グレイはエレンと違い誤魔化しきれないわね。
「エリス、男の子のハートを落とす時には手作り料理が一番なのよ。もっともどこの馬の骨かも分からない輩に、可愛い妹の料理は食べさせないけどね!」
「お嬢様、後半心の声が漏れております」ぼそっ
おっと、ついつい本音が出てしまったわ。仕方ないじゃないエリスが可愛いんだもん、シスコン万歳。
さてさて、綺麗に汚れと皮を剥いた種を軽く潰しフライパンですこし炒める。すると豆独特の香りが調理場に広がった。
本来高温のヒーターなんかで炒める焙炒という過程なのだけど、今日の試作だからフライパンを使用した。
「なんだかいい香りですね、例えるならコーヒーの匂いに近いでしょうか?」
エレンが言う通りコーヒーと同じ要領だからね、でも違うのはここからの過程。
炒め終えた豆をすり鉢で更に細かく磨り潰す。
カカオの種はココアミルクと言う成分が含まれているから、磨り潰していくとドロドロの状態になってカカオ100%のチョコが出来上がる。
実はここで細かくなった粉を絞り出すことで、ココアミルクだけを取り除くことができる。このココアミルクはまたいろんな使い方が出来るのだ、有名な物を上げると飲むココアとかね。
ついでに言うならカカオ100%の時点で見た目はチョコレートなのだが食べるとものすごく苦い! どれほどのレベルかと言うと、注意書きに『食べるときは必ず甘いものと一緒にお食べください』と書かれるほど苦いのだ。だったら売るな! と言いたいところだけど物好きが買ってしまうのだ。例えば前世の私の友人とか……。
実は昔、友人に騙されてついパクっと食べたときのあの衝撃……あまりの苦さに近くにあったケーキをどさくさにまぎれて友人の分まで食べつくし、そのせいで体重が2キロも太ってしまったあの若かりし頃の過ち。許すまじ友人! 名前は思い出せないけど。
コホン、カカオ100%が出来れば後は簡単。お鍋にチョコとミルクと砂糖をバランス良く入れ、弱火でよくかき混ぜながら最後に型に入れ冷やせばチョコレートの完成だ。
だけど今は試作品のため冷えるまで待つなんてできません。そして都合が良いことにここはファンタジー世界!(言い切った!)
魔力を弱く、対象を冷やすだけに抑えて……。
「いっくよー。氷風!」
型に入れたチョコレートがいい具合冷えて固まっていく。人間冷蔵庫は便利だね。
「うん、こんな感じかな。みんなちょっと食べてみて」
板チョコの状態を軽く切り分けてからみんなに配っていく。
「えっ、ウソ! 何ですかこれ!」
「おいしいですお姉様」
「これがチョコレートと言う食べ物なんですか? 初めて食べました」
みんなの評価もまずまずね、リリー達精霊にも喜んでもらえたらしい。
「どう? おいしいでしょ。今はとりあえず適当に作っただけだから多少雑味や甘さにバラつきがあるかもしれないけど、ちゃんと分量を計算して作ればもっとおいしくなるわよ」
「これでも十分すぎるぐらいおいしいですよ」
「このチョコレートをクリームとかに混ぜ合わせればチョコレートクリームが出来上がるし、生地に混ぜ合わせることも出来るわ。使い方はいろいろね」
「これがあれば一気にレパートリーが増えますね、例えばシュークリームの中身にも使えるんじゃありませんか?」
流石はディオンね、シュークリームは今当店の一番人気だからね。頭がすでに新作のメニュー作りに切り替わってるわ。
「どうかしら、十分人気が取れるんじゃないかしら?」
「これは行けますね、チョコレートをどの品と合わせていくか検討していきましょう」
「ええ、まずは試作品をいくつか作って食べ比べてみましょう」
「あの~、その試作品、お客様に食べていただいてアンケートを取るってのはいかがでしょうか?」
私とディオンがアレヤコレヤと話し合っているとエレンが話に加わってきた。
「それいい考えね、どうせ作るんなら宣伝も兼ねてピーアールも出来るし、もう店前で試食をバラまかなくてもいいからそんなに数もいらないしね」
たしかにどうせ作るなら試食に回してもいいわね、お客様の意見なんかも聞けて参考にできるわ。
「それでエレン、悪いんだけれど改めてお婆様とカカオの取引をしたいの。本当なら直接伺ってお話をしたいのだけど今はお店を離れられないからね、私が手紙を認めるからお婆様に届けてもらえるかしら」
「分かりました、私もちょうど手紙を出すところだったので一緒に送りますね」
「よろしくね」
それから程なくしてお礼と今後の取引の内容を書いた手紙を出したのでした。




