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仮初の精霊術師のジレンマ  作者: 粟崎ヒロ
第一章 邂逅 
1/12

プロローグ

 /???

 


 自分で言うのも可笑しな話なのだが僕はいわゆる悪魔憑きというものらしい。


 悪魔に憑かれてしまっているのだから、正気を失うのが普通であるのだが、この実そういった兆候は一切ないのである。

 ならばお前は正常なのでないかと言われそうなものだが、僕はれっきとした悪魔憑きであり、非人間だ。その事実が覆ることはない。


 そもそも悪魔と言えばサタンとかベルゼブブといった大仰なものを想像すると思うが、この世界で悪魔というのは妬みや怨念といった負の感情が魔力といった荒唐無稽な超常の力で法則性もなく組み合わされた集合体のことを指すのである。

 そしてこの存在に憑かれた者を悪魔憑きといい魔が差してしまったり、暴力に狂ってしまう。

 

 でもどうして僕が悪魔憑きでありながら、狂わないのかと言われれば簡単なことだ。

 悪魔が人を狂わすというのなら、元から狂っているとすればマイナス同士の掛け算と同じ要領で悪魔に憑かれたとしても普通になるだけである。そんな馬鹿な話があるかと一蹴することもできるが、こうして僕が理性を保ったまま悪魔の力を引き出せている以上紛れもない真実だ。

 それにこれは僕に力の使い方を教えてくれた先生が言っていたことだ。


 こうして僕は初めて人間らしい建前を手に入れることが出来た。そして生まれてからずっと分からなかった人間という生き物について少しずつ理解できるようになったのだ。

 これだけでも狂人である僕にとって奇跡に等しい出来事だと言うのに悪魔の使う超常の力を扱えるようになったのである。こうなれば悪魔とはまさしく神ではないかすら思えてくる。


 ただこれは特別僕だけに限った話ではない。

 まだ会ったことも見たこともないけれど世の中には精霊を使役しその力を引き出す精霊術師と呼ばれる人種もいるらしいが、その例に倣うのならば僕は悪魔憑きというよりも悪魔術師ということになるのだろう。

 ただ僕の場合は使役ではなく、共生という形になるのだが。


 楽しくなってきたという所でふと右足首に可笑しな感触がした。

 見下ろすと足が千切れている今にも絶命してしまいそうな羽虫が『助けてくれ』と鳴き喚きながら足首を掴んでいる。余りの醜さに同情することができず、反射的に頭を踏み潰してしまう。


 「んぎゃ」


 短い断末魔の悲鳴をあげてそれきり羽虫は動かなくなったのを見て、僕はやれやれと嘆息する。

 せっかく人が冥土の土産で身の上話をしてあげたのに下ろしたてのズボンが台無しだ。最終的には殺す予定だったので殺したということはそこまで気にならないが。



 雲に隠れていた月光が閑静な路地裏を照らす。

 そして、他にまだ羽虫はいないかと思い辺りを見渡して見たが誰もいない。似たような残骸が幾つか転がっているだけである。どうやらさっきのが最後の一匹だったらしい。

 それにしてもどうして僕はこんな薄汚い路地裏にいるのだろうと記憶を辿る。

 そうして思い出されたのは三十分前、取引先の相手との待ち合わせ場所に向かっていると頭の悪そう……というか、実際かなりの大馬鹿者五人組の少年風の羽虫に絡まれたことだった。

 おかげで取引先のことなどすっかり抜け落ちてしまいめくるめく快楽の世界に没入していたというのがことの顛末らしい。

 

 

 時間を確認しようと左手に嵌められた腕時計を見ると予定の時刻はすっかり過ぎてしまっていた。元々時間ぎりぎりだったので当然のことである。

 遅刻は確定的だがこのままばっくれれば先生に殺されてしまう。それは流石に嫌なので、四散した死体を再度見ることなく程よく血の匂いが充満しつつある袋小路の路地裏から抜けようと身を翻すと見慣れない青色の髪をなびかせる女がいた。

 一瞬そこに転がっている羽虫の同類かと思ったが、どうやら違うらしい。


 「話には聞いていたのだけどあなた、かなりイカれているのね。とても頼もしいことだわ」


 そう言って紹介状をこちらに投げ渡してくる。

 どうやら彼女が今回の仕事相手らしい。血の匂いが全身から迸るいい女だ。そして僕の名前を確認してきたので、そうだと答えると


 「あなたにお願いしたいことがあるのだけれど」


 と嫣然とした笑みを浮かべながら妖しく言う。


 僕はその凛とした声音を聞いて唇の端が僅かに吊り上がるのを感じた。

 

 

 

 

ここまで読んでくれてありがとうございます。

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