僕の妹が暗黒魔神ギルザーグだった件
「お兄ちゃんおかえり!お疲れ様!」
「玲、ただいま。」
学校から帰ると、妹が玄関まで走り寄って来た。
今日は妙に優しいじゃないか。さては、宿題を手伝って欲しいんだな?
そう言い当てると、妹は少し恥ずかしそうに頷いた。
「すぐお兄ちゃんの部屋行くから、ノート持ってて。」
僕は妹からノートを受け取り、自分の部屋に持って行った。
「中学の授業ってどんなだっけ、どれどれ……ん、これは……」
僕は我が目を疑った。
ノートには、妹の名前と、その下に、
私の真名は『暗黒魔神ギルザーグ』と書いてある。
そして、その下には、その能力と思われるものが表記してあった。
暗黒氷零刃
混沌冥撃斬
黒炎冥撃殺
終焉之焔
これは、間違いなく妹の字だ……なんてことだ、
僕の妹は、暗黒魔神ギルザーグだったのか……!!
ギルザーグのプロフィールはこうだ。
嘗てこの世の全てを暗黒に沈めた古の魔神。
自らと対等に戦える者がこの世から居なくなると、
自らを暗黒の魔石に封印した。
嘗て、聖騎士団『アレイアス』と戦い、
ただ一人でその総てを壊滅させた。
そして、霧島 玲に転生する。その記憶と力は今も残っている。
な、なんだって……
これまで妹がそんな素振りを見せたことは一度も無かった。
そんな事実をいままで隠し通してきたなんて……
僕が驚愕の事実に戸惑っていると、妹が全力疾走で僕の部屋にやって来た。
「お兄ちゃん! 間違えた! それじゃない! 学校のノートこっち!! それ返して!!!」
妹は息を荒くして言った。非常に慌てている様子だった。
当然だ、こんな物を見られては、これまでのような生活はとてもできない。
僕は、妹……いや、暗黒魔神ギルザーグに言った。
「暗黒魔神ギルザーグ、それが君の本当の名前なのか?」
「よよよよよ、よん、読んだの!?
いや、あ、あ、あれは、違って……ほんと違うのお兄ちゃん……」
「黙れ!! 嘘を付くな暗黒魔神ギルザーグ!! 僕の妹をどうした!!」
妹は暫く驚いた様子で黙っていたが、
やがて本性を見せたように笑い出した。
「クククク……バレてしまっては仕方が無い。お兄……人間よ。
貴様の妹は確かに我が中に存在する。私の大切な片割れだからなぁ! ハッハッハ!!」
クッ……ギルザーグめ……玲を少しでも傷つけてみろ、僕が絶対に許さないぞ……!
だが、奴は恐ろしい能力を持っているんだった。僕に止められるだろうか……
「クククク……人間、私の存在は決して誰にも言うなよ……
私も、もう少しの間は大人しくしていたいのでな……」
「聖騎士団アライアス……? を、たった一人で滅ぼしたと言うのは本当か!?
それに、お前は暗黒の魔石に封印されていたんじゃなかったのか!!」
ギルザーグは顔を真っ赤にし、憤怒の形相を見せた。お、恐ろしい。
「ククク、聖騎士団アレイアスか。クククク、本当だとも。
ア、レ! イアスだな、ククククク……」
ああ、アライアスじゃなく、アレイアスか……
これ以上奴を怒らせたら不味い。気を付けないと……
「奴らのリーダーである、エリュシオン=セレスタはなかなかの強敵だったが、
私の黒炎冥撃殺によって消え去った。
あと、暗黒の魔石を作り出したのは私だ。私の意思で自由に封印を解ける。」
なんて恐ろしい奴なんだ、暗黒魔神ギルザーグ。
こんな奴、僕にとめられるわけが無い。
でもせめて妹だけは、なんとしても助け出さないと……
「ギルザーグ、頼む! 玲を解放してくれ!!
玲は僕の、たった一人の妹なんだ! 頼む!!」
「お兄ちゃ、人間…………
フン、仕方ない!私はまた少しばかり眠るとしよう!
せいぜい妹を大事にしてやるのだな!ハハハハハ!!」
そう言うと、ギルザーグは憑き物が取れたようにその場に倒れた。
「お、おにいちゃんー……? あ、あれー
わたし、なにやってたんだろー おかしいなー」
「玲! ギルザーグから解放されたのか!」
「えっ、おにーちゃーん、ぎるざーぐってー、なーにー?」
よかった。妹は覚えていないようだ。
妹に余計な心配は掛けたくない。
ギルザーグの事は黙っておくことにした。
「ご、ごめんお兄ちゃん……」
「いいんだ。大丈夫、兄ちゃんが付いてるから。」
その後、僕は約束どおり、宿題を手伝った。
ノートの隅に、暗黒魔神ギルザーグ、と書かれていた。
妹は驚いた様子で、なんだろうこれ、と言い、文字を消しゴムで消した。
僕もそれに気付いていたが、あえてそれを消す必要は無いと思い、
消さずにいたのだった。
玲は暗黒魔神ギルザーグだったが、でもその前に僕の妹だから。