第82話
82
毎日淡々と過ぎていく。夜は眠る時間で午後九時前にはベッドに潜り込み、睡眠を取っていた。そして朝は午前五時に目が覚める。同じリズムが続いた。健康的な証拠だ。
同業者で作品は売れているのだが、ゴーストライター頼みで、メールの文章さえ書けなくなっている人間もいる。いくら金をせしめて、派手に儲けても意味ない。俺もそういった人間を心の中ではバカにしていた。口には出さないのだけれど……。
人間は金や名誉に弱い。そういったものを突き付けられると、無条件に心変わりする。だが、そんなものをあの世まで持っていけやしない。ある意味、底流を体験していると、人間の価値の真贋のようなものが否応なしに分かってしまう。
俺自身、金銭とか名声など欲しいとも思わない。理由は簡単だ。疲れるからである。鎧兜のように重たいものを、あえて着込むバカはいない。そういったものに、執着心がないのだった。
仕事など、必要最低限でいいのである。いつもそう思っていた。依頼が来ても、時間を過剰に取られるようなら断る。別に不自由な思いを自分からしようとは思わない。面倒なことに関わりたくないのだ。
その点、今やっているネット小説は楽でよかった。あまり調べ物をしなくても、持っている知識だけで十分書けるからだ。歌舞伎町や東京都内など、事件の舞台としては有り触れているのだが、一番書きやすい。
朝から書斎でパソコンに向かい、原稿を作っていく。キーを叩き続けた。普段から外部との接触はほとんどない。でも、作家などそんな人間ばかりだ。自分だけじゃないのである。それに作家を名乗っていても、自分で書いてない輩とはほとんど付き合いがない。
俺も原稿料で十分食えていた。とにかく話を作る。それが仕事だ。
昼ぐらいまで書いて、その後、ゆっくりし始めた。毎日の業務は、大抵正午までに終わる。そしてそれからは寛ぐのだ。録っていたテレビドラマを見たり、読書したりと。つまらないことには気を割かない。まあ、当たり前のことなのだが……。(以下次号)




