第62話
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夜は早めに眠り、朝早く起き出す。午前五時には目が覚め、キッチンでコーヒーを一杯淹れて飲み、食事を作る。変わらない毎日だった。だが、それでもいい。収入源が安定しているから、大丈夫だ。いつも必ず原稿を書くのだし、無理はしない。
午前六時半には書斎で仕事を始める。朝は何かときついのだが、疲れていても、原稿を綴る。パソコンを立ち上げれば、自ずとスイッチが入るのだ。キーを叩き、作りかけの原稿に加筆していく。ある意味、執筆は職人芸だ。芸術家というよりも……。
コーヒーは濃い目に淹れていた。時折飲みながら、マシーンのディスプレイに向かう。ずっとブラインドタッチで作業していた。手元は一切見ない。筆歴が長いので、パソコンの操作にも慣れている。
ネット小説の原稿を書き足していった。継続して書いていて、引き続き、伏線を作っていく。ミステリーにはいろんな仕掛けが必要だ。十分分かっている。いろいろとコツがあった。特に本格推理などになると、作家は読者を巧妙に騙す。言わずもがなで当たり前のことなのだけれど、それで推理作品は成立するのだ。
知名度はあまりないのだが、一応昔新人賞を獲っているので、ファンはそこそこいると思う。どうしてもヒット作が出なくてここまで来た。もちろん、今後商業誌で書いていくだけの保証はあるのだが、雑誌社の人間たちも冷たいところがある。一作当たれば、一生食っていくぐらいの金が入る時代もあったのだし、未だにその法則は推理業界にもある。
いろいろ考えながらも、目の前に来ている仕事をこなすのが一番だと思える。パソコンのキーを叩く。疲れはあったのだが、執筆作業を続けていった。
今までいろんな作品を書いてきたのだが、俺にとって今はまだ下積み時代だ。編集者が上に掛け合い、何とか仕事を斡旋してもらっている。今城も俺には若干期待しているようだ。ヒット作が生まれるには、緻密な宣伝と大がかりな映像化など、いろんな舞台作りが必要なのだが……。
昼になり、仕事もキリがいいところまで終わった。データを保存してパソコンを閉じ、食事を作る。取りながら、ゆっくりし始めた。書いた分だけ、金が入ってくるのだし、金銭には不自由してない。それに俺も健康だった。自分のやりたいことを、仕事としてやれているのだから……。(以下次号)




