第55話
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一日が終わり、午後九時前にはベッドに潜り込む。疲れていて、すぐに寝付いた。一晩休めば疲労は取れるのだが、朝がきつい。午前五時に起き出し、辛いまま寝床を出てから、キッチンへと向かう。コーヒーをカップに一杯淹れて飲み、朝食を作った。食事を取り、歯磨きや洗顔などをして、書斎に入る。パソコンを立ち上げ、ドキュメントを開いてから、キーを叩き出す。
いつもと変わらない感じで作業が進む。時間は結構気にしていた。何せ一日のうちでも約三分の一は眠っているのだから、後の時間をどう使うかが勝負になる。思う。在宅で仕事をしていれば、時間の大事さが分かるな、と。
パソコンに向かいながら、主に小説の原稿を作っていく。地道にやっていた。本は売れてないので、ネット小説も含めた連載で、わずかな人気を稼ぐしかない。気にしてなかった。作家など、売れ始めれば薄気味悪くなる。元々売れない人間がそうなると、ますます気味悪さを感じることになるのだ。
確かにどこの出版社も雑誌社も、人気のある書き手に作品を書かせたいだろう。だが、現実問題として、その人気は続かない。若いうちは順当に書き続けていても、一定の年齢を境目に書けなくなる。編集者の期待に応じる類の原稿、読者に媚を売る作品は決して続かない。それは今も昔も同じだ。だから、作家は難しい。どんな人間でも、一生涯人気が続くことはまず有り得ない。そんなものなのである。
俺も出版で金儲けしようとは思わないのだ。むしろ、不幸に生まれついた人生を少しでも豊かにする方法を考えたい。ここ数年、急激にそう思うようになった。小説で金など儲けても意味ない。思いは確信の域に達している。
原稿を書くのは、あくまで糊口を凌ぐためだ。それに俺にとって、少ない金で十分なのである。金銭は色目と同じように人を狂わせるというが、まさにその通りだ。
午前中いっぱい原稿を書き、仕事を終えて、後は自分の時間に充てる。ゆっくりし始めた。テレビを見たり、好きな本を読んだりで、時が過ぎていく。書き物は生涯やれる。このまま売れなくても。それでいいのだ。まかり間違っても、自作が売れ始めることはないだろうし……。(以下次号)




