第40話
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夕食を取り、入浴すると、眠気が差してくる。朝型で眠る時間も早い。そのリズムに慣れていた。別にこれと言って抵抗はない。日々消化試合のように過ぎ去っていく。最近、一日が早い。あっという間に終わってしまう。
俺自身、気が長いから、焦ることはなかった。きっと人生上手く行くだろう。そう確信していた。作家という人種は皆、そうである。自殺した人間などもいるのだが、総じて認められるのが遅い人が多く、晩成する。ゆっくり行くつもりでいた。人の一生なんて長いのだし……。
夜眠ったと思ったら、目が覚めて朝になる。本来七時間じゃ寝足りないのだし、放っておけば結構寝ていた。だが、一応朝は午前五時に起き出し、一日の支度をする。朝の新鮮な頭を執筆に充てるのだ。
コーヒーを淹れて飲み、朝食を取って洗面する。そして書斎でパソコンを立ち上げた。キーを叩き、原稿を作っていく。ネット小説の原稿を優先してこなした。連載は好調で、アクセス数も多い。小説執筆となると、俄然頭脳が冴え渡るのだ。事件の舞台やトリックなどもいろいろ用意する。様々な趣向を凝らす。
確かに売れないのは仕方ない。作家としてはそう儲かってないから、葛藤もある。自分がやった分だけのリターンが相応に返ってこないのだ。だが、小説家など、昔からそこで苦労したんじゃないか?普通の人間の何倍もの苦悩を背負って。そんなもんだと思っていた。
キーを叩き、綴りながら思う。以前からいろんな人間を、自身の人生経験の中で見てきたのだが、労苦が足りなかった人間というのを一発で見抜ける。他人の感情を汲み取れない輩だ。そんな人間、所詮そこまでである。俺自身、観察眼が鋭いので、よく人を見る癖があったのだし、未だにある。どうも人というのは、苦を経ないと一人前になれない。それに苦労のない人間がやることは全て上滑りだ。何やっても手に付かないし、上手く行くことなどないだろう。
俺自身、作中で捜査等に腐心し、懊悩し、苦悩する刑事を頻繁に登場させていた。巧妙かつ狡猾な凶悪犯に対し、手を打つ人間たちの過酷さ、苛烈さはいつの時代でも変わらない。たとえITが発達しようが、人工知能が出てこようが、犯罪者が人を騙す構図は基本的に変わらない。だから、時代に応じたトリックが出てくる。犯人との追っかけっ子で。
昼前まで原稿を書き、午後からはゆっくりする。いろいろと思いながらも……。一段と寒くなってきた。まさに秋冬到来である。冷え対策で、冬物の洋服を出していたのだし……。(以下次号)




