第33話
33
その日も夜は早めに眠り、翌日水曜、午前五時に起きた。キッチンでコーヒーを一杯淹れて飲みながら、朝食を作る。幾分疲れていたのだが、食事を取り終えて、洗面も済ませると、しっかり目が覚めた。午前六時半には書斎に入る。そしてパソコンを立ち上げ、キーを叩き始めた。原稿を綴っていく。朝からずっと。
確かに売れないまま来ていて、仮に今連載中のネット小説が当たれば、それに越したことはない。だけど、一端の職業作家として名が上がり、金がジャンジャン入ってくるようになるとは到底思えなかった。多分このままだろう。よくもなく、かと言って悪くもなく……。
文壇など、昔から変人の集まりなのだし、一口に作家と言っても売れている人間は極わずかだ。仕事が正当に評価されるのは、いつになるか分からない。そう思いながら、毎日やっていた。原稿の方はちゃんと書けている。
昼前まで原稿を書いた。ネット小説の原稿も綴る。連載が始まって一定期間経つのだが、アクセス数は多かった。いつも見ている。どれぐらいの数の人間が俺の作品を読んでいるかを。
未だに「加田慎司って何者?」という声もある。特にネットユーザーぐらいしか、俺のことを知らない。一応プロなのだが、日の目を見ない人間だろうぐらいにしか、認識がなかった。それならそれで別に構わないのだ。売れている書き手じゃないのだし……。
よく昔の無名作家のサイン本が骨董品となり、一冊当たりウン十万とかいう高値が付くことがある。それにくどいようだけど、作家の評価など、いつ付くか分からない。時代がその書き手を評しきれないことだってある。それが文人というものだ。実に因果である。単に存命中売れなくて、死後認められる人間だって多数いるのだから……。
その日も昼過ぎに原稿を書き終え、ゆっくりし始めた。疲労が溜まっている。ストレスなどと一緒に……。(以下次号)




