第2話
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午前五時に目覚まし時計が鳴り、起き出してキッチンへと向かう。コーヒーを一杯アイスで淹れて飲みながら、朝食を取った。味噌汁中心に、自炊して作った食事は美味しい。朝は欠かさず取るのだ。健康の秘訣に朝食を挙げてもいいぐらいだった。元々食事はイケる方なのだし……。
朝食後、洗面所で歯を磨き、顔を洗って書斎に入る。パソコンを立ち上げて、作りかけのドキュメントを開き、キーを叩いて加筆していく。連載は月三本で、余裕を持って入稿する。仕事の依頼は欲しかった。貧乏で食っていくのがやっとだから、だ。
作家はいろんなことを想像する。例えば、俺の意識する歌舞伎町は明々とネオンが灯り、通りには飲み屋や飲食店、風俗店などがずらりと並んでいて、絶えず外国人が行き来しているといった感じである。あまり行ったことのない場所でも分かるのだ。その街の様子も、住む住人の息遣いまでも。
別に作家だって、首都圏在住の人間ばかりじゃない。元々偏屈な人が多く、俺の知り合いで売れている人間でも、おかしなヤツが大勢いる。だが、その連中も書き手として売れているからいいのだ。俺のように売れない輩など、いくら芸術家などと言っても、所詮隅っこに置かれる。
午前中、軽く十枚ほど書き、データを手持ちのフラッシュメモリに保存した。今日は土曜だ。出版社も雑誌社も休みである。過去に数作著作を出している東部出版は土日、作家の原稿を受け付けない。担当編集者の今城は男性で、単行本用の原稿などを読んでもらっていた。滅多に増刷が掛からないから、あっちも煙に巻きたいのだろう。俺の作品は、明らかに社の不採算部門だった。十一年やってきていても、難しいのである。もちろん、原稿料はきちんともらっていた。
東部出版は多数の専属作家を抱えていて、都内では頻繁にサイン会などもやっている。俺など一度もそんなものに参加したことがない。だが、今城は俺にずっと言っていた。「加田さんも、きちんと原稿書いてくださいね」と。まるで、地味な俺に一縷の才能を見出すかのように、だ。
昼食を取り、午後になると、リビングでテレビを見る。テレビに飽きれば、読書した。読む本はたくさん買っている。貧乏だが、本だけは購入するのだ。文芸に関し、絶えず向上心があって。それに他作家が書いた本も読んでみたい。中には若手の著作などでも、金の卵と思えるものが混じっているので……。(以下次号)