第16話
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一日が終わり、寝るだけの状態になると、気が楽だ。普段から何かと疲れている。この季節、昼間はだるい。真昼などに本を開き、読んでいると、眠くなったりする。作家は時間の管理が大変だ。普段パソコンに向かいながら、キーを叩く。もちろん、朝早くから起きている以上、夜も早めに休む。
万能じゃない。俺にも弱点はある。だが、そう気に留めてない。いつもは考え事をするにしても、書き物のことや文学・文芸などを主に据える。内省することはあっても、気にし過ぎない。それだけ今の俺にはプライバシーが守られている。独り暮らしの自宅マンションの一室だと、誰にも邪魔されない。
以前、実家にいた時は何かしら嫌だった。オヤジはアル中で暴れ回るし、母親は適当なことを言って、別の男のところに走る。両親から文芸の才能などを受け継いだわけじゃない。大学の専門の学部で文芸を勉強したことが、俺を創作へと駆り立てた。
確かにそういった人間も大勢いる。大学時代、必要な授業に出席し、同時に多くの本を読みこなしながら、独学で創作を勉強した。卒業制作に三百枚のミステリーを書き上げて、卒業した後、公募新人賞を獲ったのである。
だが、賞を獲っても売れる書き手は少ない。いつしか売れない方に入ってしまった。書きながらも、芽は出ないままだ。単行本は数冊出したが、増刷は掛かってない。まあ、いずれの作品も出版社から企画で出している。初版止まりだったが……。
スピード感のある事件モノを書いても、今一つ人気が出ない。知名度のある他作家は売れていて、サイン会やトークショーなどを開き、下手すると全国ネットのテレビ番組などに出る人間すらいる。いつの間にか差が付いてしまった。あくまで表層的な部分の差なのだが……。それに作品のクオリティーにそう違いはないのだ。アイツらは単に人気があるから、売れるのである。その点では俺自身、その手の人気作家たちに対して、うだつが上がらないだろうと思う。
ただ、独りで暮らしながら、気楽さは感じていた。堅苦しいことはない。日々じっくりと腰を据えてやっていく。他作家の本なども順次読んでいた。別にこれと言って拙著と違いはないのだが……。(以下次号)