第14話
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夕食を取って入浴し、辺り一帯に夜の帳が訪れると、自然と眠気が差す。別に同じマンションの住人とは誰とも付き合いがない。気を遣うことはなかった。単に同じ屋根の下に住んでるだけで、両隣や同じ階の人間など顔すら知らない。だが、それでいいのだ。気にすることもなく。
また朝になる。午前五時に目覚ましが鳴り、すっきり起きることはないのだが、気を入れてベッドを出た。そしてキッチンでコーヒーを一杯淹れ、飲んでから目を覚ます。朝はだるい。夜間の睡眠でも疲れが完全に取れることはないのだ。どうしても翌日まで疲労が残ったまま、一日が始まってしまう。
食事後、洗面し、支度を整えて書斎に入る。パソコンを立ち上げて、ネットを見た後、キーを叩き始めた。いつも通り仕事をこなす。職業作家として成功や出世などをしないまま、ここまで来たのだが、別にいい。いろいろと考えることはあるのだが、この仕事は大成するのが難しい。ずっと売れずに……。
そもそも重版が出来しない。新たな版が刷られるほど、部数が出ないのだ。これは俺だけの問題じゃない。多数の作家が抱えることだ。読者にゴリ押しにでも買わせないと、本は捌けていかないのである。口コミ――、実に甘いなと思う。そんなものでモノが売れるほど、市場の原理は簡単じゃない。
同じ時に作家デビューを果たした人間たちでも、相当出世している書き手がいる。太刀打ちできない。俺の文壇での知名度など、そう高くないのだ。地味にやってると、ますます世間から忘れられる。
だが、同時に俺が輝かしいスポットライトを浴びる類の人間じゃないこともある。注目されてるわけじゃないのだし、メディアなどに派手に露出する書き手でもない。初版すら売り切れないから、ニーズはないのだ。流行らないミステリーやハードボイルドを量産するのである。筆歴は長いのだが……。
もちろん、売れっ子作家は大変だ。書く作品がヒットし続けないといけないから、苦しいだろう。プレッシャーなど並々ならぬものだと思う。まあ、別に俺自身、派手に売れる必要はない。〝売れることイコール苦しいこと〟だと十分分かっているからだ。
それに俺に出世欲などが全くないこともある。今ぐらいの仕事量で大丈夫だと思っていた。返ってテレビ鑑賞や読書などの時間を大事にしたいからである。売れなくても構わない。最低限、食っていけるぐらいのお金があればいいと思っていた。
いろいろ考えながらも、原稿を作っていく。ネット小説の方も順調に書いていた。書ける人間と売れる書き手はまるで違う。売れる書き手は何でもするのだ。汚い。勝てば官軍的で。そういった人間にだけはなりたくない。結果が出るなら何をしてもいいということなのだから……。最低だ。イメージぶち壊しにして。(以下次号)