第12話
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その日も執筆が終わり、午後からはテレビ鑑賞や読書をして過ごした。大抵、朝早くから書くので、午後は時間が空く。リビングの座椅子に座り、テレビを見たり、書斎で読書したりする。何かと疲れていたのだし、ゆっくりしていた。
まあ、俺自身、別に売れているわけでも何でもないので、もらった仕事を愚直にこなす。以前から一般受けするようなミステリーを書いてない。およそ売れないような、堅い文体の作品を綴り続ける。妥協しないのだった。出版社やそこの関係者がいろいろ言ってきても……。
返って今の人気作家は俗悪だと思える。皮肉るようだが、あの人たちに果たして芸術作品が作れているのか?単なる売文を量産しているだけ、としか思えない。全て人気取り。作品が売れれば映画化、ドラマ化、そしてまた追加の部数が出る。だが、単にそれだけだ。その手の書き手はヒットがなくなれば、後は何も残らない。実に侘しいのである。
その点、俺の方はデビュー以来、自分路線で書いてきている。ウソを付くにしても高踏に――、そう思ってやっていた。目の前で多くの人気作家が出てきては、威勢のいい癇癪玉を上げ、消えていった。自分で言うのもなんだが、文壇の生き証人なのである。
一夜明け、火曜の午前五時に目覚まし時計が鳴る。起きてコーヒーを一杯淹れ、朝食を取った。支度し、書斎へと向かう。何かとだるいのだが、パソコンを立ち上げて、キーを叩く。手掛けている原稿の続きを書いた。
ネット小説は順調にアクセス数が伸びていた。自作が読まれていることほど、嬉しいことはない。仮に上手く行けば、また東部出版から企画出版で本を出せるかもしれない。しかも初版をドーンと一万五千部とか二万部ほど刷ってもらう。いい予感がしていた。ここに来て人生の運命が変わるかも?そういった感じだった。
その日も三回分執筆し、入稿する。愚直に綴っていく。長年やっていて、作品を作る時のコツは十分掴んでいた。キーを叩く。淡々とではあるが……。
街の外は曇っていた。気が晴れず、鬱が募る。まあ、そういった時もあって人生なのだけれど……。(以下次号)




