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心霊怪談百鬼夜行  作者: 八月季七日
9/14

ケース5 浴室

これは、僕が仕事の都合で実家を出て一人暮らしをしていた頃の話です。


 当時、僕は会社の支所から本社勤めになり、実家から通うのがきつくなったために本社近くのアパートで独り暮らしを始めました。

 

 あまり給料が多くはなかったために、出来るだけ安くていい物件はないかと色々探して見つけたのがそのアパートでした。


 建物自体は築10年程度でまだまだ新しく綺麗でしたが、単身者向けのため、壁が薄いのが難点でした。


 深夜1時ごろになると、隣の住人が決まってシャワーを浴びるようで、毎晩シャワーの音と鼻歌が聞こえてきます。声の感じからすると20代の女性でしょうか。夜中にシャワーの音は正直少し迷惑でしたが、若い女性ということもあり、少し役得な気もしていたので苦情とかは言いませんでした。


 たまに、自分の部屋の浴室の壁に耳を付けて音を盗み聞いたりしてこっそり楽しんだりもしていました。よくないこととはいえ、僕も若い男です。それくらいのことはいいだろうと思っていました。


 そんなある日、僕は残業が続き非常に疲れきって部屋に帰ってきました。ここ数日は、毎日夜中に帰宅するような感じで寝不足となっており、その日の僕はすごく眠かったのです。


 部屋で布団に飛び込み寝ようとすると、またシャワーの音と鼻歌が聞こえてきました。いつもなら盗み聞きしたり、五月蠅いと思っても無視するのですが、その日はストレスが溜まっていたこともありどうしても我慢できませんでした。


 隣の部屋の前まで行き、ドアを叩きました。しばらくするとドアが半分開いて男が顔を出しました。てっきり住人は女性だと思っていましたが、男が出てきたので少し驚きました。彼氏でしょうか。僕は恋人が出来たことがなかったので羨ましく、少し妬ましく思いました。


「いま、何時だと思ってるんだ」


 僕が言いたいセリフを相手から言われ、僕はムッとしてキツめに言い返しました。


「それはこっちのセリフですよ! 毎晩毎晩夜中にシャワーを浴びる音が五月蠅いんですよ! こっちはすごく迷惑をしてるんです! 隣の部屋の迷惑を考えてくれ!」


「……は? シャワーなんか入ってないよ」


 男は僕にそう言いました。見苦しいいいわけです。僕は余計に腹が立ちました。


「あなたの彼女か何か知らないけど、今シャワー浴びてたでしょ! こっちは鼻歌までしっかり聞こえてるんだから!」


 そう言うと男は少し考えるそぶりを見せてから、半開きだったドアを大きく開けました。


「そんなに言うなら確認して見ろ」


 男は僕を部屋に入れると、入り口のすぐ近くにある浴室のドアを開きました。中には誰もいません。それに床も濡れてないし、湿気もない。たった今までシャワーを使っていたとは到底考えられない状況でした。それに、僕はおかしな点に一つ気づきました。


 てっきり僕の部屋側に付いていると思っていた浴室は僕の部屋と反対側にあったのです。いくら壁が薄いと言っても、反対側についている浴室の音が、僕の部屋であんなにくっきり聞こえるはずがありませんでした。


「な? それに、俺はアンタと違って彼女もいないし」


「……どう言うことですか?」


 男の言葉が理解できずに聞き返しました。


「見かける度に羨ましいって思ってたんだ。いつもアンタ彼女と一緒に帰ってくるだろ? 仲よさそうにピタッと寄り添ってさ」




僕は自分の部屋に戻ると、浴室のドアを開けました。シャワーの音はまだ聞こえています。


「一緒に入りましょう?」


 僕の耳元で女のささやき声がした。





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