ケース4 ロッカー 裏
「ねぇ、K君、お願いがあるの」
大学の食堂で、講義の合間に飲み物を飲んでいると、同じゼミをとっている倉嶋さんが話しかけてきた。
倉嶋さんとは別に親しくもない。倉嶋さん自体あんまり社交的なタイプではなく、友達と一緒にいるところも見たことがないし、僕も決まった友達以外はあまり話さないタイプだからだ。
それに倉嶋さんにはもう一つ致命的に人を寄せ付けない原因があって、美人なのに人が寄り付かない。
そんなゼミが同じ程度の間柄でいきなりお願いとは、なんというか面倒事の匂いがぷんぷんしている。
「あなた、アレが見えているでしょう?」
倉嶋さんは少し離れた先でカップルの足にしがみ付いている全裸の子供を指差している。
「私にも見えるの、あの黒い靄が」
どうやら彼女にはあの子供が黒い靄に見えているらしい。
「霊感があるの」
これが彼女の周りに人が寄り付かない致命的な原因だ。
「アレは大学にいつもいるけど、K君の周りには寄り付かない。まるで避けているみたい」
「何言ってるのかよくわからないな」
僕は面倒なのでとぼけることにした。
「前、見ちゃったの、アレがK君に纏わりついていた時、K君が何かを呟いたら、アレが霧散して消えたわ……除霊したのね」
この前蹴り飛ばした時のことだろうか。倉嶋さんがよく見えない人でよかった。よく見えていたら僕が子供に蹴りを入れる鬼畜だと誤解されてしまうところだった。
「助けてほしいの、たぶん悪霊に憑かれているわ。私の力では払いきれないの」
彼女はなかなかに真剣そうだ。だが、彼女には別に何も憑いていない。生半可に見えるから色々と自意識過剰になっているのだろう。
「僕はそういうの出来ないよ。霊能力者じゃあるまし、ゆきおにでも頼めば?」
「ゆきお? ゆきおってあのゆきお君?」
倉嶋さんは少し馬鹿にしたようにゆきおの名前を口にした。
「彼は偽物よ。アナタも見えるなら知っているでしょう? 彼は見えてない。この間だって、何の霊もいない場所でお払いごっこしてたわよ?」
ゆきおはたまに霊とかいないところでお払いのまねごとをしている。僕はよくそれを眺めて楽しんでいるが、彼女からすれば偽霊能力者に見えるのだろう。ゆきおの凄さもわからない程度の屑が、霊能力者きどりか、虫唾が走る。
「呼んだか?」
ゆきおの名前が出たところで、ご本人登場。にゅっと僕と倉嶋さんの間に割り込むように入ってくる。
「な、なによ! 今大事な話をしていたところなの! 邪魔しないで!」
「大事な話ってなんだ?」
「なんか悪霊に憑かれてるから除霊して欲しいらしい」
「よし! 任せろ!」
そう言ってゆきおは彼女に向けてポケットから出した数珠を構える。
「ちょっと! 違うわよ! 私じゃない! 知り合いの子に憑いてるの! もう! 見えもしない偽物なんだから関わらないで!」
倉嶋さんはゆきおにそう言ってしっしっと手であっち行けとしているが、ゆきおは別に気にしない。
「に、偽物ちゃうわっ!」
ゆきおは動揺して否定しているが、目が泳いでいる。
「まあ、そう言うことならその悪霊に憑かれている子のところに連れて行ってくれ! 今から行くか!?」
「だから! あなたはいらないのよ! K君に来てほしいの!」
ゆきおは倉嶋さんの言葉を聞いて、何かを悟ったらしく「はっはぁ~ん」と口に出して、ニヤニヤ顔で僕に顔を寄せてきた。
「K、どうやらこの美人さんはKに気があるらしい。幽霊がどうのこうのと言ってKの気を引きたいようだ」
いや、完全に的外れだろう。
「いいだろう! Kも一緒に行く! 俺のアシスタントだからな!」
「ほんと!?」
ゆきおは勝手に僕が行くことにしてしまった。恋のキューピッド気どりかこのやろう。
倉嶋はゆきおと勝手に日取りなどを決めて去って行ってしまった。僕が断る間もなく。
「……勝手に決めるなよな」
僕が不服とばかりにゆきおに抗議すると、ゆきおは二カッと笑った。
「俺の話が出て、お前キレかかってただろ? 気持ちは嬉しいが、下らんことで女の子を泣かすなよ。お前には親友としてもっと器の大きな男になってほしいぜ」
やれやれとポーズをとるゆきお。
ゆきおが来なければ僕は倉嶋さんにキレて、怒鳴り散らしていたかもしれない。
やっぱりゆきおには敵わないなと思った。




