ケース2 村の風習 裏
「てゆう相談を受けたんだ」
ゆきおのもとに大学のクラスメイトである佐竹がやってきてそんな話をしている。
僕はゆきおの隣で昼飯の焼きそばパンをかじりながら、その話を聞いていた。
「よし! 俺がそいつを祓ってやろう!」
二つ返事でゆきおはそう答える。
「今から行くぞ」とゆきおが言うので、椅子から立ち上がり、歩きだそうとするが僕の足が何かに引っかって転びそうになる。
足元をみると全裸で真っ白な肌の子供が僕の足を掴んでいた。
「邪魔」
子供を蹴りつけると痛がって消えた。
「なにやってんだぁ? いくぞK!」
僕はゆきおの後を追った。
佐竹の車で村に着いた。高速で4時間。思い立ったが吉日できたが、既にもう夜遅い。佐竹が知人女性から教えてもらった民家の前で車を停める。
もうしばらく誰も住んでいないようで、ボロボロの空き家だった。取り壊しになっていないのが不思議なくらいだ。
「くっ! ビンビン感じるぜ!」
ゆきおが何かを感じ取り、民家を睨みつける。
僕は民家の二階からこちらの様子を窺っている女性に視線を向けた。ボサボサの黒い髪。佐竹から聞いた話に出ていたE子を殺したのは彼女だろう。
「今回は危ないから佐竹は車の中で待っていてくれ」
ゆきおは佐竹にそう言って民家の中に入っていく。民家の中は濃い瘴気が満ちており。ゆきおにすごい勢いで吸収されていく。こういのを人間空気清浄機というのだろうか。僕の家にも欲しい。
ずかずかと民家の中に入ると件の仏壇がある居間に辿り着く。
「この仏壇か……」
ゆきおは慎重に仏壇をあける。中には桐の箱がいくつか積んである。新しいのや古いものがあるが、毎年村の10歳の娘が納めに来るにしては数が少ないと思った。俺が覗き込むと、仏壇から白い手がにゅっと伸びてきて僕の顔に触ろうとするのでそれを叩き落す。
ミシッ……ミシッ……ミシッ……
二階から音がし出した。例の女が動き出したのだろう。
「う~ん? この仏壇からは何も感じないな?」
うねうねと数を増やした白い腕が仏壇から十本ほど伸びてきており非常にウザいことになっているが、ゆきおは仏壇を見ながらそんなことを呟いた。
「この地を呪っている本体はここには居ないようだ」
ギシッ……ギシッ……
女が二階から降りてきたようで、階段の板を踏む音が近づいてきている。
「K、この地に根ずく風習の原因は本当にこの家なのだろうか? 俺はもっと他の原因のような気がするんだ。この家からは悪霊特有の忌々しい感じを受けない」
ゆきおはテレビでみたことある霊能者が霊障の原因を突き止めて行く風に語り出す。というか家に入る前に「ビンビン感じるぜ!!」とか言っていたのは忘れたのだろうか。まあ、ゆきおだからな、忘れたんだろう。
『う、うぁ、ぁぁあ、あぁ』
黒髪をばっさばっさと撒き散らしながらやっと階段を降りてきたのだろう女が居間に入ってきた。手には鎌を持っている。女は怨念が籠った目でゆきおを睨んでいる。今にも呪い殺しそうだ。
「K、この家の近くに神社とかあるかな? その辺が怪しいと思う」
鎌を持った女も仏壇から延びる無数の腕も無視してゆきおは僕に意見を求める。女は鎌を振り、ゆきおの首を狩ろうとしているが、スカスカと空ぶっている。
「いや、僕はこの家に原因があると思うよ? やっぱり女の怨念とかが原因じゃないかな?」
「そうか? Kが言うならそう言うことにしておくか」
ゆきおはそう言うと、仏壇にまた近づく。
「せっかくだから手でも合わせて行くか」
ゆきおが合唱すると、無数の手がすべてゆきおに絡みつくように仏壇から引きずり出された。手の先に本体とか居るかと思ったが、別にそう言うのはないようで、蛇のように長い手がうねうねとしている感じのものだった。
それをずるずると引きずりながら、ゆきおは二階に向かう。
「一応二階も調べる」
ゆきおは階段を上って二階に上がっていった。鎌を持った女は諦めたのか、二階に行くゆきおを見送った後、今度は僕の方に近寄ってきた。
『う、うぅうあ、ああぁあ』
呻き声を挙げながらずるずると近寄ってくる。動きがのろい。僕はちゃぶ台を回り込むように女を回避すると普通に二階に上がって行った。
「何かあった?」
そう聞くと、ゆきおは手にした草刈り鎌を僕に見せてくる。
「うちの庭の草が伸びてきてたからちょうどこういうの欲しかったんだ。何年も放置されているようだから持って帰ってもいいよな」
ゆきおは鎌を持って家を出た。
ゆきおが出て行くとやはり家は綺麗になっていた。家に充満していた瘴気はなくなり、怨霊の類も一体も残っていない。
鎌女はどうやら鎌に縛られているようで、ゆきおが鎌を持って動くとずるずると無理やり引き摺られるようだ。結構焦っている感じが笑える。
車に戻り、僕は佐竹に「もう風習は必要ないみたいだよ」と伝えると、ゆきおと佐竹はきょとんとした表情で首を傾げた。
後日、ゆきおの祖父さんが、あの村の風習について教えてくれた。
昔、あの家には美しい女とその娘が二人で住んでいたらしい。だが、娘は原因不明の皮膚病に罹り、髪の毛もすべて皮膚ごと剥け落ちるという酷い状態になってしまったらしい。
その奇病がうつることを恐れた村人は、交流を断ち、いわゆる村八分にしたそうだ。そのせいでろくな食事も出来なくなった娘は衰弱し、10歳の誕生日にその生涯をとじた。
女は、村を恨みながら、鎌で喉を掻き切って自殺したらしい。
それからだ、村では例の皮膚病が流行り、これは母娘の怨念だという噂が広まり恐れられた。
怨念を鎮めるために当時高名な霊能力者が村人によって呼ばれ。そのときに伝えたのが件の風習だったという。
ゆきおが持ち帰ったのは女が自殺したとき使った鎌だったのだろう。僕は鎌のことが気になり、後日大学の教室で鎌をどうしたかゆきおに聞いてみた。
「鎌? なんか赤いのが付いてて切れ味が悪かったから、磨いて綺麗にして使ってるよ?」
そう言って鎌を見せてくるゆきお。その後ろにはもう鎌女は居なかった。
やっぱり霊能力者は凄いと思った。
「鎌、持ち歩くなよ」




