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心霊怪談百鬼夜行  作者: 八月季七日
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ケース1 心霊旅館 裏

『自称霊能力者ゆきお』の話です。

「という曰くつきの旅館なんだ」


 僕らの友人である奥山が廃墟となった旅館の前でその曰くを話す。今日は心霊マニアの奥山に付き合って、心霊スポットへと肝試しに来ている。


 僕の名前はK。本名が圭と書いて“けい”と読むので友人からはKと呼ばれている。音だけ聞くとそのままだ。


 今日のメンバーは主催者の奥山、僕と僕の友人のゆきお、奥山の彼女とその後ろにいるオッサンの5人だ。


「ふ、びんびん感じるぜ」


 ゆきおがそう言って旅館の3階付近へと掌をかざす。


 ゆきおの霊感発言に、智子さんが「え!?」と小さく声をあげる。奥山は智子さんに小声で「霊能力があるらしいんだ」と教えている。


 ゆきおは大学ではちょっとした有名人だ。心霊を感知し、危険な悪霊を日々除霊してまわっているらしい。ゆきおは自称霊能力者として大学では有名だった。


今回、もともとは僕と奥山、智子さんの三人で行く予定だったのだが、恋人二人の間に挟まれて行くのは嫌だったし、なんだか嫌な予感がしたので僕は霊能力者であるゆきおを誘って連れて行くことにした。


 ゆきおの父方の実家は有名な寺で、幼少のころからゆきおには霊が見えていたらしい。10歳くらいのころ、悪霊に憑かれたことがあり、とり殺される寸前で霊能力が覚醒して除霊出来る力に目覚めたそうだ。それからは実家の寺で修行をしてその力に磨きを立てているそうだ。


 ちなみに、ゆきおの祖父さんに聞いたところ、実家は住宅街にある普通の一軒家で、祖父さんも普通の公務員。ゆきおの両親も普通の会社員だそうだ。寺で修行していたこともないらしい。爆笑しながらゆきおの祖父さんはそう教えてくれた。


 そんな自称霊能力者のゆきおを先頭に、僕らは旅館へと入っていく。なるほど、薄気味悪いところだ。奥へ進むごとにじめっとした不快な空気が強くなっている気がする。


「ここだ」


 奥山は三階の一番奥の部屋の前にやってくると僕たちにそう告げた。


「……感じる……この奥にかなりヤバい悪霊がいるぜ」


 ゆきおはそう言うと、ポケットから数珠を取り出してドアの方へと向ける。

 奥山がドアノブに手をかけると、ゆきおはそれを止める。


「ヤバいから下がってな。俺があける」


 そう言うとゆきおは奥山を下がらせてドアを一気に開け放った。


「く! ヤバい霊圧だ! これはすげぇ強い怨念を持ってやがる!」


 ゆきおが何もいない室内へ向かって数珠を持った手を突き出している。何かと格闘しているようにも見える。奥山と智子さんは、突然のことに怯え、ゆきおの後ろで震えている。


「男の霊だ。中年で40歳前くらいの細身で長身の男……ここで自殺したオーナーの霊だ。未練があるみたいで、ここに来る奴らを旅館から帰したくないらしい。こいつ、何人かとり殺してやがる!」


 ゆきおは何もない室内に入っていくと、何やらお経のようなものを唱えだす。その部屋には何もいないが、ゆきおは真剣に何かと戦っている。俺はちらりとゆきおの後ろで震えている智子さんを見る。背中にはゆきおが今戦っているであろうオッサンがへばり付いていた。メタボな男で50は過ぎているように見える。俺は部屋のなかで戦うゆきおへと視線をもどしてその雄姿を見守った。


 数分後、ゆきおは額の汗を拭い、部屋から出てきた。


「除霊完了だ。危なかった。もう少しで俺たちもとり殺されるところだったぜ。智子さんももう怖がらなくていいぜ」


 やっぱりゆきおは凄い。連れてきてよかった。


 ひとしきり肝試しを楽しんだ僕たちは車に乗り込み、帰ることにした。そこで、ふと、僕は気になっていたことを智子さんに聞いてみる。


「智子さんは、前にもここに来たことがあるの?」

「うん、一か月くらい前かな? 友達に誘われて来たよ」


 僕は納得した。どうりで智子さんの背中にベッタリと青白い顔をしたオッサンの悪霊が張り付いていた訳だ。今はもう智子さんの背中にオッサンはいない。ゆきおの背中に張り付いているからだ。


 このオッサンはどうやら肝試しに来た奴らを呪い殺し、そのうち一人に取憑いて次の獲物を自分のテリトリーへと連れ込み、また同じこと繰り返していたらしい。


 しかしもう、この場所で呪い殺される人は出ないだろう。


 俺たちが去った後の廃墟はまるで入った時とは違い、じめっとした空気がなくなっている。すっきり溜まっていたものが居なくなり。すがすがしい空気で満たされている。


 廃墟に溜まっていた無数の霊魂は、今はすべてゆきおに取憑いている。オッサンもしかり。奴らはもうゆきおから離れることはできないだろう。苦悶の表情と雄叫びをあげて融合し始めた怨念たちの呻き声が聞こえるが、その声は僕以外には届かない。


「どうした?」


 ゆきおは、若干離れて座る僕に、不思議そうな顔で問いかける。


「別になんでもないよ」


 ゆきおは何も知らない。霊は見えないし、感じることもできない。勿論除霊など間違ってもできない。ただ、彼は取憑かれやすいだけ。まるで幽霊ホイホイなゆきおはどれだけの怨念が固まったのかよくわからない呪いの塊のような黒い靄に纏わり憑かれているが、霊感のない彼がそれに気づくことはない。そしてそれに影響を受けることもない。


やっぱり霊能力者ゆきおってすごい。


 僕は改めてそう思った。






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