このまま二人で
珍しく長めです。
100ユニーク、ありがとうございます!(2016,6,17)
「奏!迎えに来たよ」
本屋へ出掛けた帰り道、急な雨に降られてしまった私。
傘を持っていない私は、本屋の軒先で雨宿りをしていた。
家までは歩いて5分、買ったばかりの本を抱え走ろうかと考えていたら…私を呼ぶ声がした。
「駿、どうして?私、本屋に行くなんて言ってなかったよね?」
同棲中の彼氏、駿とは今朝喧嘩したばかり。
仲直りをするきっかけもなく、一緒の部屋にいるのが苦しくて黙って家を出てきたのに、どうして?
驚いている私の顔を見て、駿が笑う。
「うん、なんとなく。奏がここにいるって気がしたから」
そう言うと、へにゃり、と眉が下がった、ちょっと困ったような笑顔になった。
「急いで来たから、奏の傘、忘れて来ちゃった。この傘、奏が使って。奏が風邪をひいたら嫌だから。オレ、走って先に帰ってるね」
言うなり傘を私の手に押しつけ、走って行こうとする駿の腕を慌てて掴んだ。
「待って!それじゃあ駿が濡れちゃう!一緒に帰ろうよ」
「え?でも、傘、1本しか…」
「一緒に使えばいいじゃない!なんで、いつもそうやって自分ばっかり…っ」
駿は私のことを一番に考えてくれる。
大切にしてくれる。
大事にされて嬉しい反面、駿自身のことも大事にしてほしい。
今朝もそう訴えて喧嘩になったばかりなのに…。
どう言えば、駿に私の気持ちをわかってもらえるんだろうか…。
それとも、私の言うことなんて聞くに値しないと思われてるの?
そんなに私って頼りない?
いろんな思いがぐるぐると頭の中を巡って、駿の顔を見れなくなる。
何故だか涙が止まらない。
涙が頬をつたって地面にポトリと落ちる。
こんなところで泣きたくないのに、ぐるぐるした思いを外に出すかのように涙が溢れて止まらない。
もう、嫌だ!
こんな、自分でもわからない感情に振り回されるなんて、嫌!
「…っ!奏…」
急に泣き出した私に駿が驚いて息を飲む。
焦った駿の声が聞こえた時、衝動的に傘を駿に押し付け、私は走り出した。
「奏!」
後ろから駿の大きな声が聞こえたけれど、それを振り切るようにして走る。
あのまま駿と一緒にいたら、自分でもわけのわからないことを口走りそうで怖かった。
駿を傷つけてしまいそうで怖かった。
自分が傷ついてしまうのが怖かった。
自分でも制御できないドロドロした思いから逃げ出したい一心で走った。
「…っ、かな!!」
どれだけ走ったのか、どこを走ったのかわからない。
後ろから手を引っ張られバランスを崩した私を支えるように…すがるように後ろから抱きしめてくる腕、身体。
お互いの荒い呼吸音だけが響く。
「…離して」
自分の中のドロドロを抑えて訴える。
お互いが傷つく前に、離して。
傷つけたくない、こんな醜い私を見せたくない…だから離して。
「嫌だ…嫌だ…っ!」
なのに、駿の腕は緩むことはなく、反対に痛いほどの力が込められる。
「今、離したらお前また逃げるだろ!?そんなの嫌だっ」
びっくりした。
駿のこんな大きな声は初めて聞いたから。
喧嘩はこれまでに何度もしたけれど、こんなに声を荒げることはなかった。
いつも穏やかで、優しくて…時折厳しい口調になるけれど、自分の気持ちを押し付けてくるようなことは言われたことがない。
その駿が…。
そのとき、ストンと自分の中に答えが落ちてきた。
そっか、私、悔しかったんだ。
駿に子供扱いされてるみたいで、女性として扱ってもらえてないみたいで、悔しくて寂しかったんだ。
彼女として、自分を頼ってほしかったんだ。
もっと私を信頼してほしかったんだ。
私を痛いほど抱きしめた身体はかすかに震えていて…。
離したくないと、訴える。
身体全体で私を求める姿を感じて、凪いでいく心。
「…ねぇ、駿。もう逃げないから…だから離して」
「……本当だろうな?」
疑っているような、拗ねているような声で聞いてくる駿に心の底から愛しさがこみ上げてくる。
こんな声は初めて聞いた。
こんな姿は初めて見た。
きっと、お互いがお互いのことをちゃんと理解していなかったんだね。
もっと、話をするべきだったんだ。
相手の為といいながら、自分のことばかり考えていたんだって、今わかったよ。
離すまいと痛いほど力が入っている駿の腕に、そっと自分の手を添えて話す。
「本当に逃げないよ。逃げる理由がなくなったから」
「………は?」
驚いたせいなのか、呆れたせいなのか。
力の緩んだ腕の中で身体を向きを変え、駿の背中に腕をまわすように抱きしめた。
「おい、かな…」
「ごめんね」
駿が何かを話そうとするのを遮り、話し始める。
駿の顔を見ながら話をするのは、ちょっと照れくさいから駿の胸に顔を押し付けて隠して。
私を大事にしてくれることは嬉しいけれど、もっと自分のことも大事にしてほしいこと。
彼女として、一人の大人として頼りにならないと思われてるんじゃないか、と勝手に悔しがってたこと。
もっと私を頼ってほしいこと。
そして………。
「ねぇ、駿。もっと話をしようよ。思ったこと、感じたこと…してほしいこと、ほしくないこと。もっと貴方のことを教えてほしいな」
これから先も貴方と並んで過ごしたいから。
楽しいことも、苦しいことも、貴方と共有したいから。
まずは、手を繋いで帰ろう?そして、仲直りのキスをしよう?
貴方からの返事は甘い甘いキスがひとつ。
…そういえば、買った本はどうなったんだろう?←殴
お読み下さり、ありがとうございました。




