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罪人転生 バッドマン・ショー  作者: 急造
第1章 そして少年は主人公へ
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第7話 モノの見方


《バッドマン・ショー》を撮影中のスタジオ。

 そこを見下ろすように存在するガラス張りの大きな部屋。

 カメラの切り替えや、効果音の挿入、各種指示出しはこの部屋で行われる。

 ここは頭脳や指令塔に例えられる場所。メインルーム。


「やっぱり十一番の扱いは難しいわね」


「仕方ないっすよ、彼ほどのキャラクターは前例がないっす」


「泣き言ばかり言ってられないのよね。彼にフィーチャーする度あの空気になるのはまずいわ。注目度高すぎて軽く流すこともできないし……」


「いっそのこと悪役ヒールキャラに仕立てるのが手っ取り早いんじゃないっすかね? スタジオが無言になるのは防げますよ」


「それはいけないわ、いつも言ってるでしょ? 番組は可能な限り公平な視点で彼らの姿を追うのよ」


「でも実際のところ、番組に自由裁量が与えられてる物資とかは視聴者意識して運用したりするじゃないっすか?」


「……だから可能な限りよ。上からの指示でもなければそんなことしないわ。自分たちで律することを諦めては駄目よ」


 鈴木史哉の扱い方について頭を痛めていると、刑罰執行の連絡が入った。


「時間どおりね。モスキート、ラビット、アウル、ファルコン、それぞれのチェック急いで! スタジオにも通達」


「欠損なし、偽装、通信状況、オールグリーンです」


「じゃあスタジオと同期して。向こうの合図で放送開始いくわよ!」




「――テレビの前のあなたです!」


「はぁい! スタート! 引きで全員枠に収めるように、無理なら逆に一人ずつローテでいくわ!」


 熟練の動きで、遠く離れた場所にあるカメラは要求どおりの画を届ける。

 カメラ操作は全台この部屋で実行されている。

 グローブとバイザーモニターによる一人一台のコントロールは、より直感的な動きを可能にしているようだ。


「当然こうなるわよねぇ」


 画面には十人から全力で避けられる一人の姿があった。

 さすがにこうも距離があっては一つのフレームに入らない。


「おっ、遠山がとりあえずのまとめ役ポジみたいっすね」


「最年長の一人だし妥当なところね」



『そこで四期法を提案したいが――』



 突然発せられたこの言葉でスタッフのあいだに緊張が走る。


「P、今四期法って聞こえませんでした?」


 近くのスタッフが確認を取る。


「そうね、展開次第でDangerからのチョイ待ちあるわよ。いつでもいけるよう準備なさい」


 Dを中心に緊急対応班が身構えている。 

 映してはいけないモノを見極め、即座に対応する防波堤。それが彼らだ。 



『わかった。スキルチェックは各自で――』



「ふぅ~。早まらなくてよかったっすね」


「ええ、警戒解除。皆、楽にしていいわよ」


 Pの言葉で緊張が解ける。


「あの、四期法って何ですか?」


 まだ幼さの残る女性がDに尋ねた。

 いつかの新入りADだ。 


「何だ知らないのかい? まぁ君の歳じゃ直接は見てないか」


「ということは四期メンバーに関することですか?」


「そうそう。四期の中の一人が提案したんだ、『全員で手を繋いでスキルを試さないか?』ってな。丁度今みたいに到着してすぐのことだったよ」


「手を繋いで試す?」


「四期が放送される頃には、社長の帰還スキルが及ぶ範囲は直接触れて繋がっているものまで。って噂が知れ渡っていてね、もし帰還系スキルを得た人間がいるなら全員連れ帰ってもらおうと考えたわけだ」


「なるほど、個々人で試した場合スキル所持者しか帰れないわけですものね。賢い方法だと思います」


「と思うだろ? だが待っていたのは地獄だったのさ」


「地獄……。ですか?」


 Dの思いがけない言葉に戸惑っているようだ。


「運が悪いことに、その時メンバーの中にとんでもないスキルを手に入れた奴が混じってたんだ」


 ADはじっと見つめて先を促す。 


「誰かが付けたスキル名は《疫病王(ロード・オブ・パンデミック)》。効果は“触れた相手を致死性のウイルスに感染させる”というものだった。後はわかるだろ?」


「……ええ」


「ひどいもんだった。ありえない速さで感染発症するが即死するわけじゃない。丸一日かけて死にいたるんだ、あれこそが地獄さ」


「いったい何人がその方法を試したんですか?」


「君もとっさに賢い方法だと思っただろ? ほぼ全員だよ。しかもね、今でこそ異世界は危険な場所だと認知されてるけど、当時はずっと甘く考えられていたんだ」


「じゃあ今よりも多くの――」


「二百人」


 あまりの人数に衝撃を受けたのかADは黙り込む。


「一期から三期まで全員死んでるっていうのにね。人はどうして自分だけは別だと思い込むんだろうな」


 沈んだ様子のADに明るく話しかける。


「とまぁこれが四期法ってわけさ! 皆がピリピリしたのも納得できただろ?」


「はい。勉強になりました」


 


 四期法を敬遠し、個人でスキルチェックを始めた彼らを見ていると、一人の男がピョンピョンと飛び跳ねだした。


「あれってスキルよね?」


「ええ、資料でも特に運動能力について触れられてはいないっすから」


「なら頃合的にもいいわね、十六期最初のアンケートいくわよ! お題は彼のスキルの効果。四択くらいにしておきましょうか、早速作って頂戴」


 この番組では視聴者参加型のクイズやアンケートが不定期に発生し、クイズの正解者は抽選で賞品が貰えるらしい。

 リアルタイム視聴者数を稼いだり、飽きさせない工夫としては面白い手法だ。


「集計出ました。肉体強化と風系の回答がトントンっすね」


「アタシは風系かしらね。強化ならそこら辺の木を蹴ったりして試すと――」


「!? P!」


「わかってるわ! すぐファルコンで追いなさい!」


 先ほどまで飛び跳ねていた男が、驚くほどの速さで天高く飛び上がった。

 ファルコンと名のついたカメラが、こちらも凄い速さで追いかけていく。

 

 ファルコンの操縦者から報告が入る。


母部伸行ははべのぶゆきを補足しました! 上空約三百メートルです!」


「あれでたった三百なの? もっと遠く感じるわね」


 ラビットが送ってくる、地上から見上げた視点の映像を見ながら言う。


「三百メートルは大体九十階建てくらいの高さっす」


「建物に例えるとなんだか凄いことのように感じるわ。不思議」


 

『――あれって大丈夫なのよね?』



「!? Danger開始! 急いで!」


 地上からではよくわからないが、ファルコンが正確に状況を捉えていた。

 男は空中でバランスを失い、叫びながら落下していた。

 どう見てもパニックに陥っている。


「少し早いけどチョイ待ちいくわよ! 準備は!?」


「いつでもいけるっす!」 


「ゴー!」


 


 ぴんぽんぱんぽ~ん。


 現在状況の確認中です。少々お待ちください。どうかチャンネルはそのままで!




 判断は正しかった。

 耳に残る鈍い衝突音も、網膜を刺激する派手な紅も、画面の向こうまで届かずに済んだ。


「何期になってもスキル発現時が最初のデッドポイントなのは変わらないわね」


 口ぶりからすると、四期に限らず移動後すぐ死亡するケースが目立つようだ。


「遺体が映りこまない撮影地点は確保できそう?」


「十一番以外なら可能です」


「そう、じゃあ画を復旧させて。で十一番は何してるのよ?」


「……笑ってるっす。母部を見下ろして笑ってるっす」


 青ざめた顔でDは告げた。


「やっぱ鬼だよありゃ」「サイコパスっていうんだろ?」「鳥肌立つわ~」

 

 周りのスタッフたちも異常性を騒ぎ立てる。

 しかし、その喧騒の中でPの呟いた言葉だけは他と少し違っていた。


「(アタシには年相応の少年がショックを受けてるように見えるけどね)」


 声は誰にも届かない。

 ショーはまだ始まったばかりだ。


チョイ待ち、チョイ待ち映像。

 

放送事故時などに使われる、しばらくお待ちください。の画面のこと。


バラシ、テッペン、ワラウ、といった業界用語を多めに取り入れていこうかとも思ったのですが、そのつど説明が必要になるのでボツにしました。


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