第3話 謎技術に謎の力。誰かわかるように説明してください
バスを降りてすぐ、目の前の巨大な建造物に圧倒された。
他の皆もそれぞれに感想が口から漏れ出ている。
俺は刑務所に移されたのか? と考えた。
拘置所を遥かに上回る厳重な警備体制が見て取れたからだ。
看守たちから銃を担いだ警備兵へと俺たちは引き渡された。
内部へと足を踏み入れていくにつれ、この施設が刑務所ではなく研究所に近いものだと理解できた。
すれ違う大人たちは銃を持つ者以外、白衣かビシッと決まったスーツだ。
厚いガラス張りの向こう側には、かろうじてコンピュータだと認識できるものがいくつも並んでいる。
十五分ほど歩かされ到着した部屋には、横一列に綺麗に並べられたパイプ椅子が人数分用意されていた。
「奥から順番に座れ」
促された俺たちはおとなしく指示に従う。
そういえば皆犯罪者とのことだが、これまで誰も逆らうような行動はとっていない。
まぁ一体誰が手錠された状態で、銃持ってる大人に喧嘩売るんだ。って話ではあるが。
俺はというと、元の世界で銃なんて見る機会がなかったため、恐怖より興味が勝ってしまう。
事ここに至ってなお、どこか現実感が欠けているのだろうか?
「それではこれより、君たちが送られる異世界についての説明を始める。質問は許可しない。最後まで黙って聞くように」
スーツの男が喋りだし、手元で何かいじると、正面の壁に映像が映し出される。
まるでテレビのような美しさだ。どんな技術なのだろうか?
元の世界より科学技術はかなり発展しているとみえる。
そういえば裁判の中で見た資料に、製暦二千百xx年という文字を見つけた。
単純に百年くらい先の世界なのだろうか?
‘製暦’というのは知識にないが。
「今回送られる世界は、人間、亜人、魔族などの種族がそれぞれ国を構える世界になる。文明レベルは製暦千年前後くらいのものだ。すでにどのような地か知っている者も多いだろう。特に珍しい点はないな」
何で? 何で皆して「あ~」みたいな顔してんの?
「もちろん魔法、スキルの概念が存在する。良質なスキルが引けるように今から祈っておけ」
いや、もちろんじゃねーよ。
魔法って言葉に肯定の意味で、もちろんは使わねーよ。
スキルのほうは裁判中に何度も出てきたから覚えてる。
だがどういうことだ?
技能という意味で使っていないのは何となく理解していたが、裁判用語や隠語じゃなかったのか?
質問したい。
でも今挙手したら、ハンズアップしてるのに撃たれる。
そんな面白現象が起きそうでとても無理だ。
「この簡易地図を見ろ。基本的に中央の大陸には人間、左上にある大陸には亜人、左下の大陸は魔族がそれぞれ別れ住んでいる」
駄目だ、心を切り替えよう。
眼前で展開されている光景にいちいち突っ込みいれてたら、これから先、生き残るのに必要な情報を見逃しかねん。
亜人も、魔族も、いるんだよ! スキルも、魔法も、あるんだよ!
よし。
「君たちが送られる先は、中央大陸の南にある森の中だ。そこからさらに南には村
が、北西には小規模な街がある。覚えておくといいだろう」
うむ、早速使える情報だ。
方位は地球の基準がそのまま使えるようだな。
一日は二十四時間なのか? 月が二個あったりするのか?
「最後に、水と食料。そしてスキルの付与をおこなう。これらは国から与えられる最後の恩情である。心して受け取るように」
「(けっ、何が恩情だ、見世物を盛り上げるためじゃねぇか)」
誰かが呟いた。
盛り上げる?
全員に水と食料の入ったリュックサックが配られる。
「では先生。よろしくお願いします」
「あいあい」
さっきまで壁際に立っていた白衣のおじさんが、スーツの男と入れ替わりに俺たちの前へ立つ。
「これから君たちに付与するスキルは《片道言語(シングルワード)》永続パッシブスキルで、効果は“相手が話すどんな言葉でも理解できる”というものだ」
ほぅ。それが本当ならスキルってのは凄いな。
しかも誰にでも分け与えられるように聞こえたぞ?
「ただし、理解できるだけで喋れはしないから気をつけるんだぞ。ま、聞こえて意味が理解できるんだから、喋れるようになるのも早いけどね。あと、文字の読み書きもできないから、必要なら自分で学ぶように」
学ぶ。という単語が出た瞬間、うっすらブーイングが発生した。
それでも十分凄いと思うんだけどなぁ。
「静まれい!」
「今から名前を呼ぶから、呼ばれたら前に出るように」
名簿を片手に座っている皆の顔を見渡す。
「遠山くん」
名を呼ばれた男が前に出ると、白衣のおじさんがそっと男の額に触れた。
「あい、んじゃ次、えー二階堂君」
え? それだけ? もっとこう、しゅぴぴろぴーん! みたいな音が鳴ったり、光り輝いたりしないの?
ただ額に触れただけにしか見えない行為が繰り返され、最後に俺の番が来る。
「あい、最後は~鈴木君」
「は、はい!」
「ほぅ、君があの……。いや失礼」
ゆっくりと手が額に近付いてきた。何となく目を閉じてしまう。
!?
今のは?
頭の奥で微弱な静電気が発生したかのような感覚。
これが付与されたってことなのか?
目を開けて白衣のおじさんを見ると、何も言わずにじっと自分の手を見ている。
「ねぇ、今――」
「あ、やっぱり静電気でしたか?」
「……そっか、静電気、そうだね」
全員への付与が無事完了した。
俺たちはリュックを前に抱きながら、また施設の中を歩かされている。
あのあとわかったのだが、ここは《セカンド・ゲート》と呼ばれる施設で、中心部には俺たちを異世界へ送るための機械があるらしい。
さっき魔法とかスキルの話を聞いたせいもあって、よくわからない力で送られるのかと思ったけど、科学の力で送られるのだそうだ。
ゆき過ぎた科学は魔法と何が違うのだろうね?
「全員ここで止まれ」
天井が高い。半端なく高い。縦横も広い。
それぞれ五十メートルくらいありそうだ。
あまりのスケールに距離感が狂う。
四つ角には機械仕掛けのタワーがそびえ立っている。
そこから何本ものコードが延びて、俺たちを囲む八本の小さいタワーに繋がっている。
小さいといっても角に立っているものと比べてであって、俺の体よりはずっと大きい。
一段盛り上がっている足元も、ただの鉄板ではなさそうだ。
表面からは正確にわからないが、ぎっしりと機械が詰まっている感じがする。
大きなモニターに映るのは自然の風景。
なぜ森? もしかしてあの映像はこれから向かう異世界のものなのか?
「これより異世界送りを執行する。生まれ変わったつもりで今度は正しく生きるんだぞ」
生まれ変わる……ね。
やってることは他の世界にゴミを不法投棄するようなもんだろ。綺麗事を。
そんなことよりこの手錠は?
服も忌々しいドギツイオレンジなんですけど?
「全員手を出せ」
一人ずつ小さな鍵を握らされる。
「向こうへ着いてから各自外すように」
よかった、手錠は外せる。あとは服なんだけど。
「隊員はサークルから退避せよ」
銃を持った大人たちが離れていく。ねぇ服は?
「カウントダウン開始! 十、九、八――」
タワーに光が集まりだし、同時に体が重くなっていく気がする。
耳が詰まる感覚。機械の作動音が遠ざかってゆく。
「――三、二、一」
ぐぎぎ、立っているのがちょっとキツ――。
タワーの光が消え去り、代わりに俺たちは目を開けていられないほどの光に包まれた。