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罪人転生 バッドマン・ショー  作者: 急造
第1章 そして少年は主人公へ
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第1話 はじまりの前

 Danger


「嫌だぁぁぁ! 俺はこんな世界で死ぬわけねぇんだ!」


 男は走る。

 洞窟の中、なんとも身勝手な台詞を叫びながら出口を求め走る。

 さっきまで持っていた剣も、腕に嵌めていたバックラーも、身につけていた邪魔なものは何もかも投げ捨てた。

 そうして代わりに握った松明はこの暗い世界で唯一の光だ。


「おい! 見てるんだろうが! 皆死んだ! 誰でもいいから助けてくれよ!」


 周りに人影は一切ないが、男は気が触れてしまったわけではない。


「出口は、どこだ、息が、もう」


 随分と走っているが、未だ日の光は見えない。

 いつまでも辿り着けない出口。

 限界の近い体力。

 よく見ると体は傷だらけだ。

 男は何度も後ろを振り向きながら徐々に速度を緩めていく。

 そしてついにその足は止まった。


「ハァ、ハァ、助かった、のか?」


 息を整えながら走ってきた道を松明で照らす。

 明瞭な視界は十メートルもないが、その範囲に危険はなさそうだ。


「やった、やったぞ! 助かった! 見たかこの野郎!」 


 あらゆる方向へ視線を飛ばしながら叫ぶ。


「俺はこんな世界さっさと抜け出すんだ。そんでもってやり直す。大金掴み取ってなぁ! くははっ!」


「(……おっと、テンション上がりすぎたな。謙虚に謙虚に。笑顔忘れず)」


 急に冷静さを取り戻した様子で男はぼそぼそと何か呟く。

 安全を確信した男は再び出口の方向へと歩き出し――


 ごとり。







 ぴんぽんぱんぽ~ん。


 現在状況の確認中です。少々お待ちください。どうかチャンネルはそのままで!







「ちょっとちょっとぉぉぉ! 今の映ってないでしょうね!?」


「いや、生首モロだろ」


「モロだろ。じゃないわよ!」


 いくつものモニターが並ぶ部屋、その中央にある一段高い場所に座る派手な服を着た男が、隣に座るガッシリとした体格の男に怒鳴っている。


「なーにやってんのよぉぉぉ! ちょっとD! チェック甘いんじゃないの!?」


「無理言わんでください! あんな急じゃ対応できないっすよ!」


 Dと呼ばれたぽっちゃり男はいきなり矛先を向けられ、今起きたポロリは自分の責任ではない。とアピールするのに必死だ。 


「でもDangerモード放送でしたよね? 視聴制限中なら少しくらい映っても問題ないのでは? 視聴率も伸びてますし」


「……ちょっとちょっとぉ、このアブナイ子なに? うちの制作にこんな子いたっけ?」


「新人のADっすよ。先日Pに挨拶いかせたじゃないですか」


「だったっけ? まぁいいわ。新入り、確かに数字も大事よ? でもだからって何でもかんでも映してたら番組自体潰される危険だってあるんだからね? うちは社長のおかげでかなり力のある局だけど、人死にの前じゃ視聴制限なんか苦しい言い訳にすぎないんだから。そのくらいわかるでしょ」


「そういうものですか」


「ちょっとぉぉぉ! 誰かこのお馬鹿追い出し――」


「P! 問い合わせが一万件を超えました! まだまだきてます!」


「落ち着きなさい! 久しぶりにやらかしたんだからそりゃくるわよ。問い合わせ対応は全て保留、今は画の復旧が第一よ。状況は?」


「二メートル級の蟷螂ぽいのにゆっくり咀嚼されてますね、映します?」


「無理とわかってて聞くんじゃないわよ! 他のメンバーはどう?」


「おそらく全滅です。パニックで自分たちを巻き込む形の範囲魔法使っちゃいましたから。場所が洞窟だけにカメラも一番~六番まで巻き込まれシグナル消失。生きてるのは七番とラビット一台だけです」


「タイプ・モスキートが六台も……。すぐに追加は無理ね。とりあえず七番を奥にまわして状況の確認を急いで」


「了解」


 皆にPと呼ばれる女言葉を操る男は、適切な指示を出してこの混乱する現場を綺麗にまとめ上げていく。


「P、カメラ到着しました。やはり全員死んでます」 


「……おっけぇ。Dは今受け持ってる作業誰かに引き継がせて、十五期終了と追悼番組の制作仕切って頂戴」


「え? 俺が担当していいんすか?」


「画は全員分とっくに仮組みしてあるからあとは切り貼りするだけよ。経験しときなさいな」


「あざっす! AD何人か借りていきますね」


「ちょうどいいわ、あのお馬鹿新入りも連れていって」


「了解っす」


 すっかり馬鹿の烙印を押された女ADとDたちは部屋を急ぎ出て行く。


「てっちゃん、MCの予定押さえて早入りさせて。そのあとスケジュールが合う十五期編のレギュラー、ゲスト出演経験があるタレントも集めて」


「あいよ」


 このPと、てっちゃんと呼ばれたガッシリした体つきの男は、上司部下というより友人関係のように見える。

 

 なるほど、これがプロの仕事か。

 と、見る人に思わせるスタッフたちの動き。

 次第に現場は秩序を取り戻していった。

 そして数時間後。




「皆様こんばんは。《今日のバッドマン・ショー》のお時間です」


 普段の勢いある口上は影を潜め、どこか厳かな雰囲気がスタジオを包み込んでいる。電波越しにもこの空気は伝わっているだろう。

 

「今日は番組をご覧の皆様に悲しいお知らせがあります。すでに直接番組を見ていてご存知の方も多いと思いますが、本日十七時頃、更生活動中だった、田中功冶たなかこうじさん。本間千夏ほんまちかさん。片岡祐一かたおかゆういちさん。林大助はやしだいすけさん。の死亡が確認されました。これにより、本日をもって第十五期《バッドマン・ショー》は終了となります」

 

 スタジオの大画面モニターに、名前を呼ばれた四人の生前の姿が映し出される。


「番組を代表し、最後まで更生活動に力を尽くした四人のご冥福をお祈りします」


 MCは一礼し、胸に右手を当てた格好で少しのあいだ目を閉じた。

 続いて、映ってはならないはずのシーンが電波に乗ってしまった事について、深い謝罪の言葉を述べた。


「それでは、この後はゲストの方々と一緒に、更生活動中の印象に残ったシーンを

振り返っていきたいと思います」


 誰々がいい人だった。まだ若かったのに。

 という内容の話を、映像を使いながらMCが中心となり展開していった。


「そろそろお別れの時間が迫ってきました。今後の放送予定ですが、次期メンバーが決まるまで過去の名シーンを連続放送する予定です。すでに伝説となっている七期や、最年少かつ最短更生達成記録保持者の天久零あまひされいさんが登場する十二期の更生活動なども放送されます。どうぞお楽しみに!」


 画面下に誰の目が追いつけるのか気になる高速エンドロールを流し、番組は終わった。




「はぁい! 皆お疲れちゃん! 急ぎの仕事だったけどよくできたわね」


 Pの激励で空気が弛緩する。控えめな拍手、ハイタッチをする姿が見られる。

 

「てっちゃん、社長から連絡は?」


「あったよ。今は次の、え~何期だ?」


「十六期」


「そうそう、十六期の下準備に入ってるってよ。久しぶりに休暇を楽しめるな」 


「一般対応と関係各所からの反応は?」


「一般には全部テンプレ回答。監査からの勧告は一切なしだ。聞かなくてもわかってるだろ? うちの社長に面と向かって文句言える関係機関なんかねぇよ。それこそ国だってな。なのにさっきだって新入りに適当なこと言いやがって」


「だからこそよ。うちは自分たちでブレーキかけなきゃ、何だってやれてしまうもの……」


「おいおい、今さら善悪の話を掘り起こす気か?」


「んふっ。まさかでしょ? とっくに悪人の自覚しかないわよ。忘れて頂戴な」







 製暦21xx年。

 ジパングと呼ばれる島国で、ヒノモトテレビが放送する青少年更生支援番組。

 その名は《バッドマン・ショー》

 

 究極のリアリティ番組として、1年365日24時間生放送。

 異世界送りを選択した少年少女の姿を映し出す。

 キャッチコピーは「更生の是非は視聴者が決める」

 

 録画、字幕などの国別時間差放送まで含めると、1日の平均視聴者数、約20億人を数えるモンスター番組。


 世界人口115億人のこの星で、実に6人に1人が見ている計算である。 







精一杯頑張りますので応援よろしくお願いします。

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