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Survivors War  作者: ノイジー
第二部
7/23

スペシャルスキル

 男についていき森に入ってすぐのところに別荘として使っていそうな丸太で作ってあるログハウスが現れた。ここじゃモンスターに襲われるんじゃとかそんなツッコミは無用、何故ならここはゲームの世界で彼はNPCなのだから。

 中はいかにも手作りだと物語る家具があったが一人暮らしなのだろう空間的には余裕が見受けられる。

「先ほどは本当にありがとうございました」

 これまた手作りの椅子に腰掛けると男は改めてと頭を下げた。あの砕けた口調とは大違いな真面目な口調でだ。

「いえいえ、それより話って何でしょう。人を待たせてるのであまり遅くなるわけにはいかないんですよ」

 遅くなるとノイがまた暴れだしそうなので手短に頼むと男はそそくさとやはり手作りなのだろうタンスから時代劇ドラマとかで見る巻物を机の上に置いた。

「これは?」

「はい、これは父が残した弓使いの秘技が記されてある巻物です。父は世界的に有名な弓使いでして、僕にこれを残してくれたんですけど生憎私は弓の腕はからきしでして」

 なるほど、これはスキル獲得イベントだったのか、さっそくリックに報告だな。

「命の恩人であるあなたになら父の技を託しても……って聞いてますか?」

「えっ、あ、あぁ聞いてますよ」

 見え見えの嘘でその場を乗り切り早速巻物を手にする。すると巻物が俺の手から消滅して代わりにウィンドウのスキル欄が開かれた。

 スキル名・パーフェクトシュート

 効果・矢を狙っている最中にカーソルが表示され、同じ部分を狙い続けているとそこに必中する。狙う時間や狙える数は熟練値に応じて変化する。

 は? 何これ凄いスキルじゃん。

 まだぺちゃくちゃと話している男の声など俺の耳には入っていない。ただただこのスキルをどう活用しようかとシュミレートが繰り返されている。

「あの!!」

「どわぁ」

 思考の奥底に潜り込んでいた俺を男の大声が無理矢理引っ張り出した。

「な、何でしょう?」

「これだけでは私の気が収まりません。なのでこちらも受け取ってもらえますか?」

 そう言って男はポケットから小さな巾着のような麻制のを取り出した。口を開いて中を覗き込んでみると何やら黒い粉が入っている。

「それは私が調合した爆薬です。それと砕いた火打石を混ぜた矢を放つと命中時の衝撃で爆発を起こします。細やかですがこちらと爆薬のレシピも受け取ってください」

 同じくポケットから出した紙。それぞれ手に持つと消滅して自動的にアイテム欄に追加された。

 多分これで終わりだろうと思った俺は席を立つと男も同時に立ち上がり俺の横を通り過ぎて扉を開けてくれた。

「ありがとうございました」

「いえ、どうか旅の道中気を付けてください」

 男の家を後にした俺はもといたフィールドに向かいながらリックへのメッセを打つ。

『弓使いのイベントが起こった。スペシャルスキルと爆破効果のあるアイテムを受け取れるけど、多分スペシャルスキルは俺がもらっちまったからアイテムの受け取りだけだとは思うが一応報告しておくよ。このことは銀髪姿の俺情報にしなくてもいい』

「カナコさ~ん!」

 送信を押すとノイの声が聞こえ、周りを見回すといつの間にかフィールドに戻ってきていた。俺からはノイとトウコの姿が確認出来ているけど向こうは違うようだ。しきりに周りへ視線を飛ばしている。

「お~いこっちよ~」

 自ら手を振って居場所を教えるとトウコが気付いたようでこちらへ軽快な足取りでこちらに駆け寄ってきた。

「もう、どこ行ってたんですか。ずっと探してたんですからね?」

「でも無事だったようで安心したよ」

「ごめんごめん、ちょっとイベントが発生しちゃってね」

 イベントという言葉にトウコは目の色を変え、ノイはきょとんと可愛らしく首を右に傾けている。まぁ初心者だしイベントって言葉の意味は分かってもそれがこのゲーム内でどんなものかってのは分からなくて当然か。

「イベントってのはねノイ、何か特別なアイテムが手に入ったりスキルを獲得出来るもののことよ」

 へぇとあまり関心のなさそうな声をノイはあげた。

「それで、どんなスキルかアイテムを他に入れたんだい?」

 もちろん言いたくなければ無理には聞かないと補足を加える。

「狙い続けると相手に必中するスキルと矢に爆発効果を生むアイテムを手に入れたよ」

 別に隠す気がない俺は包み隠さずにノイとトウコに伝える。爆発ですか、チュドーンですかと何故かノイは少しばかりテンションを上げている。理由を尋ねてみるとどうやらシューティングゲームにはかなり熱を注いでたらしく、爆発という単語に親しみを感じたらしい。

 取り敢えず見せてほしいと言われ、俺もどのくらい使えそうなのか気にはなってはいたのでクエストに指定されているペインスパイダーが出るノイの初戦闘の場である森の入口へと向かう。

 道中に爆発する矢を装備させようと思ったのだが、今の俺の武器ではどうやらランクが足りなかったようでノイが期待する爆発シーンは少し先にお預けとなった。

 スキルがバレるのを恐れた俺はモンスターを狩っていたプレイヤーが姿を消してから残っているペインスパイダーに叢から狙いを定める。ノイとトウコも俺の隣に居合わせて何が起こるのだろうと目をキラキラさせている。

 クロウボウガンを目線の高さに合わせると上下左右、合計4つの隙間がある黄色い円が現れ矢の向きに連動して思ったところへ狙いを定めている。

 モンスターに狙いを定め始めると心臓が鼓動するように円の隙間を埋めたり開いたりと変化が現れる。そして約5秒間狙い続けると円の色が黄色から赤へと変色し、隙間を完全になくした綺麗な円が完成した。

 両隣でまだ打たないのかと訴えかけてくる2人を横目に捉え、何とも言い難い不穏な空気に堪えられなくなり叢から出た。草音を察知したペインスパイダーが俺の姿を図体の割に小さな双眼に映す。

 スキルが本物なら真正面から矢を放っても命中するのは後部の何やら栄養が蓄えられてそうな部分になるはず。だがもしかしたら矢の終着点がそこになるだけで真正面から貫くかもしれない、そう念には念を押して俺はやや右に矢先を向け、矢を打ち放った。

 普通に考えて矢は風など外部からの力が加わらない限りーー重力を除けばーー直線運動をするはず、だが俺の放ったそれはまるであらかじめそのルートを走るようにプログラムされたかのごとく、滑らかな曲線を描き、ペインスパイダーを後部から射貫いた。スキルの効果か、はたまた相手のウィークポイントを攻撃したかは不明だがたった一撃で息の根を止めてしまった。

「おぉ~マジックみたいですね」

「必中とは偽りではなかったようだな」

「ん~でも溜時間が5秒っていうのはちょっと長いかも。戦闘中に5秒間も狙い続けてたら敵もこちらに思惑があるって分かっちゃいそうだし」

 取り敢えず今は弓矢の熟練値を上げ続けて適度に試し打ち、それくらいしか今後の方向性は立てられそうにないな。

 その後指定された数のペインスパイダーを倒し、ウィンドウで時刻を確認すると午前5時。日の出が早くなっている夏の今ではもうお天道様が顔を出す時間帯だ。自然と今日はここで切り上げようと話は進み、クエスト完了の報告の為再びキャフノルに足を向ける。



「ありがとうございました。またよろしくお願いいたします」

 クエストの報告を終えた俺は先に外に出ていたノイとトウコの元に歩み寄る。

「意外と報酬ってショボイですね」

「まだ最初のころだからだよ。後々レベルの高いクエストになると報酬もそれに応じて良くなっていくよ」

 因みに3つのクエストで得た報酬は合計2500cfとポーションセット━━ポーション×5━━とモンスターから回収した素材で十二分に事足りるものだった。

「それじゃあ私はリアルの方で用事があるからここで失礼するよ。君達は、もう今日だな、次は何時にログインするんだい?」

 俺は正直嘉穂の時間に合わせるつもりだから正確な時間は分からない。昨日は15時で切り上げたけど今日もそうという確信はどこにもない。

「私は多分15時にログインすると思います」

 1人だけ明確な時間を述べたノイに合わせることにし全員15時頃にログインとなる。

「それじゃあ私はこれで」

 ウィンドウの1番下、ログアウトボタンを押すとトウコの身体が薄くなっていき、消える寸前に手を挙げたのを最後にその場には“LOG OUT”の青い文字だけが残った。残された俺とノイは残された人だけが味わうお互いに別れるタイミングを探り合う雰囲気が漂う。

「カナメさんは何時ログアウトするんですか?」

 何故かとても久し振りにちゃんと自分の名前を呼ばれたことに少し照れを感じてしまった。

「リアルは昼まで暇だし俺はもうちょっと残るつもりだけど、ノイも残るのなら付き合うぞ?」

「あ~いえ、私もそろそろログアウトします。夏休みの宿題を終わらせなきゃなので」

「そっか、頑張れよ」

 偉そうに言う俺はというと実は課題の一覧をもらったその日からゲームの時間と寝る時間を割いてまでがむしゃらにペンを走らせ続けたのだ。全てはShvel Kaiserの為だとは言わなくても分かるだろう。

「それじゃあ私はそろそろ。15時ですよ?」

「分かってるって」

 よろしいなんて上から目線で物事を言うのでチョップをしてやった。少し腹が立ったような表彰をしてたけど自分も分かっての行動なのでとやかくは言われなかった。トウコと同じようにノイの身体が半透明になり“LOG OUT”の文字を残していった。

 本当に残り者となった俺は取り敢えずまたフィールドに戻り、誰もいないのを確認してから木々が生い茂っている叢の中に身を隠した。そしてウィンドウを開いて元の姿、銀髪のヒーローカナメの姿になる。もちろん装備はクロウボウガンではなくブレード、こっちも熟練値を上げておかないと、いざという時に使えないなんて洒落にならない状況に陥る可能性が無きにしも非ず。何事も万全を期するのが俺のモットーだ。

 現在の時刻は5時を少し回ったところ。自分の中の予定では9時に落ちるつもりなので約4時間、この間に出来れば次の町に到着しておきたい。

 上げれるパラメーターの内、筋力とAGIを他より少し多めに回して叢から出る。防御は正直あまり考えてはいない、それを上回る回復力を持っているだけに油断ではないがどうしても心に余裕が出来てしまうのはしかたのないことだろう。

「さてと」

 早速出発。と言いたいところなのだが俺は一旦町に戻り、俺の姿を確認したプレイヤーをいなしつつ武器屋を訪れてもう1本ブレードを買って装備する。やっぱり刀を持つとどうしても二刀流に憧れてしまい、そのために筋力値を上げたと言っても過言ではない。

 これで本当に準備万端となり、改めて次の町を目指してフィールドを歩み進める。

 過激な運動をしない限り体力が続くのを全力で利用して進む時は駆け足で、敵を見つけ次第切り付けてアイテムを回収する。そんな単純作業をしているとあっという間についさっき訪れた森の入口まで辿り着いた。流石にここからは何が起こるか分からないので足取りは自然とゆっくりなものとなる。

 森の中は鬱蒼としていてプレイヤーが迷わないように開いた道こそあれ、それを見失うと迷子になるのは目に見えている。なので横目で道を捉えつつ木の根っこのせいで凸凹な自然の足場を歩く。

 理由なんて特にない、強いていえばこっちの方がモンスターと出くわす可能性があると思ったのと、折角リアルでは体験出来ないことが出来るのだから冒険者気分を楽しんでみたいから。いくら現実と区別が付かないほど再現率が高いといっても所詮はゲーム、楽しまないと損な気分になるってものだ。

 流石森と言うべきか蜘蛛やらトカゲのモンスターが目立った。ゴブリンと戦闘を行うと大概のモンスターに恐怖は感じなくなっている。だけどもちろん気を緩めたりはしない、草木を掻き分けてたら突然身体を糸でがんじがらめにされる可能性だってあるのだから常に周りへの気配の察知は怠らない。

 今の俺の索敵出来る範囲はーーあくまで感覚ではあるがーー俺を中心に半径約2,3Mの球体状ほど、お粗末すぎて目で確認した方が早いのは百も承知だが後方にまで意識を回すのもどうかと思い一応使っている程度にしか思っていない。

 だがそんなお粗末なものだって役立つ時は必ずある。

「さっきからコソコソと」

 自分にしか聞こえない程度の音量で俺は呟いた。実は森に入ってからというもの何者かにストーキングをされているのだ。最初に気付いたのはペインスパイダーの群れと森の中で戦闘を行っている最中、一斉に飛び掛かられた時に独楽のように回転しながら切り付けていると流れる景色の中に明らかにモンスターとは違う影を捉えたのだ。

 勘違いと言えばそれでお終いなのだが、どうにも喉に魚の小骨が引っ掛かったような違和感が払拭しきれなかったので、試にと索敵スキルを発動したら案の定だ。相手の隠密スキル値が高いからか、それとも自分の索敵スキル値が初期から変わっていないせいかぼんやりと物体がそこにあるとだけしか分からないのだが、確実にそこに何かいるのだけは感じ取れる。

 逃げたとしてもどうせ向かってるのは次の町だってのはバレバレだし何より今後もこうやって後ろからの視線を受け続けるのも気味が悪くてしかたない。

 そうと決まればすることは自ずと決まってくる。

「さっきから俺のことを追いかけてきてるやつ、今すぐ出てこい」

 俺はストーカーが隠れているであろう叢に向かって声を掛ける。だが相手は俺の言葉が届いていないのか何の反応も見せない。

「もう1度言う、今すぐ出てこい」

 2度目の忠告。だが返事はない。ここまで完璧に反応されないと1人でストーキングされてると勘違いしている自意識過剰野郎になった気分で恥ずかしいがもちろん表情には出さない。

「…………」

 腰に掛けている鞘からブレードを取出し、叢の方に剣先を向けるもやはり反応はない。

「フレアフレアフレアフレア」

 どうせゲームなのだから火事になったとしても自然に消えて修復されるだろうと思い、俺は叢目掛けて連続でフレアを浴びせる。それも自分のMPが尽きるまで、そうすることによって相手にこいつはこれだけ打ってもまだ自分に牙を向け続けると恐怖感を植え付ける。所詮人間なんて怖がりの痛がり屋なのだからこういう時は出来るだけ余裕をもって、堂々としている方が相手を精神的に追い詰める。

 青々とした草を遠慮なしに炎が襲い、離れている俺のところまで熱気が伝わってくる。揺らめく炎はどこか幻想的でこのまま小一時間眺めていてもあきる気がしないのは不思議なものだ。

 索敵が正常ならば相手の目の前は文字通り火の海となっているはずだ。

 勢いを増す炎の前で人間がどれだけの時間堪えられるだろうか、もちろんゲームの中だから本物程の熱はない、しかし炎というものは生物全てに本能へ直接的に恐怖を植え付ける。もちろん地球上で最も理性と知性を持つ人間とてその例外ではない。

「熱い熱い熱い!」

「おっ、出てきた出てきた」

 俺の動きを重視した軽装備な装備とは違い、見るからに頑丈そうな鉄の鎧が炎に照らされて鈍く光っている。金属同士が当たって甲高い音を鳴らしながらストーカーの姿があらわになる。

 見た目は俺のより若干小柄で、兜から僅かに覗く顔には幼さが残っている。多分中学生ではと推測出来る。

 暫く熱さでのたれ回ったら落ち着いたのかやっと大人しくなったので、俺はこっちに来いと手でジェスチャーをする。

「あ、あの」

「いいから来る!」

「は、はひ!」

 まるで俺が虐めてるみたいじゃねぇか……いや、実際フレアで虐めちゃったわけだけどーー

 おずおずと怯えてるのやら緊張してるのやら、とにかく挙動不審な歩き方で鎧の人物は俺の下まで近寄った。

「お前名前は?」

「な、成田……優輝、です」

 いやそれリアルな名前じゃんかよ。

「あっ、すみません。こっちではゼノって名前です」

「ゼノな。それでゼノ、何で俺をストーキングしてたんだ?」

 俺の質問に身体を強張らせて明らかに言いたくない態度をするが、俺はその甘っちょろい考えを眼力でねじ伏せる。するとたどたどしい喋り方ではあるが話し始める。

「あの、僕広場の決闘を見てたんですけど、その……その時のカナメさんの戦いがカッコよくて、それで」

 あぁ……これまた他のやつらとは違った意味の面倒なパターンだ。多分ゼノの中の俺は技術云々より憧れみたいなイメージで定着しちゃってるんだな。

「あぁもういいから、それより俺をストーキングしてた行為の意味は?」

 何やら俺について語りだしてるけど生憎と俺は他人が思う自身の人物像にはこれっぽっちも興味がないので早々に話を切り捨てて本意を探りにかかる。

「お、怒りませんか?」

「それは内容によるだろ。俺を倒したいって言うんならフィールドに出てPvPでも何でもしてやるよ」

「そんな、カナメさんを倒そうなんて滅相もない!」

 ウザい。

 あまりにも理由を話さないゼノに腹が立った俺はブレードをゼノの首筋に押し当てて脅しをかける。声を掛けずにストーキングするようなやつなのでやはり精神面はか弱くすんなりと話が進んでくれる。

「その、カナメさんとい、一緒に町へ向かいたいなぁ……って」

「え、それだけ?」

「そ、それだけって何ですか! これでも僕は勇気を振り絞って言ったんですよ!?」

「いやそんなの俺知らないし、大体そんなのはストーキングなんかしないで直接言えばいいじゃねぇか」

「それは、その……緊張しちゃって」

「はぁ」

 溜息を吐いて俺は方向転換して再び町に向かって歩き始める。

「ほら、一緒に行くんじゃねぇのか?」

「……いいんですか?」

「別に駄目だなんて言ってないだろ。それとも駄目って言ってもらい━」

「ご一緒させていただきます!」

 いい返事が聞けたところで歩みを再開させる。いつの間にか炎は勢いを弱めていてわざわざ消す必要がなくなったので心置きなく先へ進むことが出来そうだ。

 ゼノは遠慮がちに隣にくると俺の顔を覗いて笑みを作る。何がそんなに嬉いのか俺にはさっぱりだけどまぁ喜んでいるのならいいかという気持ちで無視する。

「お前のジョブはナイトか?」

 流石に着くまでの間無言は辛いので俺から声を掛ける。すると今まで話したかった気持ちが溢れ出したのかゼノは物凄い勢いで言葉を紡ぎ続け、モンスターが襲ってこようとお構いなしに喋り続けていた。

 だが喋り続けながらでも身のこなしはとても鮮やかなもので、ノイ、もしかしたらトウコよりも実力的には上なのではないかと思ってしまう。

「カナメさん、よかったらフレンド登録とかしてもらえませんか?」

「あ~俺人のペースに合わせるのとか嫌いだからそれは諦めてくれ」

 適当な嘘を吐いてゼノの要求を断る。これだけ俺のことが好きなのだから多分他に漏らすことはないだろうけど、やっぱり女の姿と男の姿を使い分けてるなんてのは知られたくない。こう男のプライドがね……分かるよね?

 いくらか緊張が解けたのか大分喋り方とか接し方がフランクになってきた。だけど俺を見る視線は憧れの色で満ち溢れていで心がむず痒い感覚に襲われる。

 町の途中で中ボスくらい出てくるのかと思ったのだが残念ながらまだそれはないようだ。もしかしたら他のプレイヤーが先に倒して道が解放されたのかもしれないので、リックに確認のメッセージを送ってはみたが時刻は午前8時と連続プレイ時間が12時間に迫っているので、一旦休憩するためにログアウトしているかもしれない。返事が返ってくるのは遅くなりそうだ。

「カナメさん、次の町が見えてきましたよ」

「はいはい、言わなくても俺も見えてるって」

 森の出口から僅かに覗く景色には大きな城が垣間見える。キャフノルとはまた違った雰囲気の町に俺の心臓は興奮のあまり激しく鼓動を続けている。

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