サムライガールとイベント
宿題休憩の合間にちゃちゃっと書いたので取り敢えず投稿します。
色々不備がありそうなので多分後で書き直すと思いますが読み直す程の変更はしないつもりです。
それでは「サムライガールとイベント」をお楽しみください。
窓からさきほど俺がタクミとPvPで戦いを繰り広げた広場を覗き見る。まだザワついてはいるがどうやら俺の追っかけはひとまず落ち着いてくれたようだ。
「面倒臭いなぁ」
文句を言いながらも俺はメニューウィンドウを開いてオプションをタッチ、すると後ろのつい先程フレンド登録をしたノイが当たり前のように覗き込んできた。
「およ、何するんですかカナメさん」
「俺の姿は完全に見られてるだろうから今の内にオプションで見た目を弄れるだけ弄ろうと思ってな」
瞬間ノイの目がアニメとかによくある星形に変わってキラリと光った。
「それ、私がやりまーー」
「却下」
「なんでですか!」
俺は即座に却下する。ノイに任せるとこう、滅茶苦茶な見た目に変更されそうな、そんな気がしたからだ。
やらせてください! 駄目だ! とこんな感じの押し問答が10分ほど繰り返され、最終的にはノイの泣き落とし攻撃の前に降伏の白旗を振らされた。女はズルイ。
「さてさて、どうカナメさんを弄繰り回してやりましょうか…」
「……お手柔らかに頼みます」
え~ただ今私カナメは目隠しをされたままノイ先生に頭髪の色と髪型を変更していただいております。今の胸中は不安で一杯でございます。
「何か注文とかありますか?」
「特にないけど出来るだけ前とは違う印象の方がいいかな」
「了解です」
目隠しをしているので自分の変化が見れず胸のドキドキが止まらない。時たま聞こえるノイの悩んでいる声も原因の1つだ。
「うん、これでいいかな」
「終わったのか?」
「はい、これはもう誰も気付かないレベルです!」
無駄に自身満々のノイに俺の不安が急加速したのは言うまでもない。頭の後ろで括られてる結び目を解きいざ生まれ変わった自分とご対面。
部屋の明るさに目が慣れるまで若干時間が掛かったが数秒足らずの短い時間だ。
「…………はぁ!?」
アイテムボックスに入っている手鏡を覗き見て俺は驚愕の声をあげて我が眼を疑った。そこに写っていたのはーー
「カナコちゃんでぇす」
「はぁ~いカナコで~すってなんだよこれ!!」
漆黒で艶のある腰まで伸びてる黒髪に縁なしのメガネ、耳にはイアリングときたもんだ。完全にとは言い難いがパッと見は完全に女の子にしか見えない。
「カナメさんが言ったんですよ? 前とは違う印象をって、だからいっそ男から女の子になってみようと…カナメさんって中性的な顔立ちだし」
「だからって限度があるだろ!」
なんでゲームの世界に来て女装をしなきゃならんのだ!
限度を超えたノイの行動に説教を始めようとすると唯一部屋の中と外を繋ぐノックの音が響いた。
「だ、誰でしょう」
「分からんが、用心に超したことはないだろう。俺が出るからノイはタンスに隠れてろ」
まさかこんな時に使うとは思っていなかったがタンスの中にノイを押し込んで俺は僅かに扉を開いて顔を覗かせた。
「あっ、すみませんお話よろしいですか?」
ドアの前にいたのは男子高校生の平均身長を持つ俺よりかなり高い190㎝はあろうかという大柄の髪を大胆にも緑色に染めた大男だった。
「はーー」
思わず地声で返答しようとしてはっとなる。だが、ここはノイのセンスを信じて女として一貫してみて、それで駄目なら変更してみようと決心する。
「えぇ、大丈夫よ?」
イメージとしては落ち着いて少し冷たい年上の女性を演じているつもりだ。
「そうですか、それではさっそく」
あっ通じちゃったよ。
驚いている俺をよそに大男はメニューウィンドウを開く。
「俺は情報屋みたいなのをやってるリックって言います。先ほど広場であったPvPの勝者であるカナメというプレイヤーについてなんですが、何か情報をお持ちではないですか?」
情報屋というワードに俺はある案を思い浮かべた。だがそれにはリックの協力が必要不可欠だし、こいつが信用出来る男かどうかも試してみたい。
「彼のことでしたら他に漏れていない情報を持っていますがーー」
「ほ、本当ですか!?」
ガッついてくるリックを掌を突き出すことで制する。
「立ち話も何ですのでどうぞ中へ」
リックを招き入れて椅子に座らせ向かい合う。
「それで、情報屋とはどういう意味でしょうか、失礼千万とは分かっていますがこちらとしてもあなたが信用出来る方か見定めておきたいのです」
頭を下げるとリックはそれは当然ですと笑いながら自分の立場の説明を始める。
「俺はリアルの方で記者の仕事をしてるんですよ。人ってのは情報で善にも悪にもなるもんです。だから俺の知っている正しい情報で少しでも人の助けになればと思って……まぁ言っちゃえば職業病みたいな感じですよ」
そう言ってリックは屈託のない笑みを作る。彼は職業病なんて言っているがしている行動はとても立派なものだ。それを重々理解出来ている俺はこの男を信用することにした。
「なるほど、リアルの話までされると俺も本当のことを話さなきゃならないな。ノイ、出てこい」
急に口調が変わったもんだからリックは驚きの表情を貼り付けている。そこに追い討ちを掛けるごとくノイがタンスから出てくる。
「騙したりして悪かったな。俺はこういうもんだ」
まだ目に写っている真実を受け止められていないリックに俺は自分のプロフィールを見せる。この約5秒後、小さなホテルの一室にリックの大声が木霊したのは言うまでもないだろう。
※※※※※※※※※※※※※※※
「いや~大声を出して申し訳ない」
「ま、まぁ気にするな」
まだキンキンしている耳を押さえながら俺はぎこちない笑みを浮べる。ノイはあまりの大声に驚いて気絶してしまったのでベッドに移動させておいた。
「で、俺に正体をバラしたのには何かあるんだろ?」
流石記者と言うべきかうまい話には裏があると分かっているリックは本腰を入れて俺に尋ねる。
「あぁ、ちょっとリックに頼みたいことがあってな。もちろんこちらとしてもそっちに得のある話だ。まず、俺が姿を変えたのは黙っていてもらいたい。人気者になりたいが為にPvPしたわけじゃないんでな」
「そりゃ構わねぇけどそれをして俺に何の得があるんだ?」
「それなんだが、俺はノイ、そこで倒れてる子を育てて攻略の前線に立とうと思ってる。そこで、俺が知っているモンスター情報やイベントの発生条件を無償で教えてやる。どうせ情報を売って儲けようって腹なんだろ?」
バレたかとリックは頭を掻いて気まずそうな乾いた声で笑う。
「まぁ確かに俺にとっては旨い話だけど、本当にそれだけか?」
リックにとって記者は天職ではないただろうか、そう思ってしまうほど彼の勘、とでも言うべきものは優れすぎている。
「どちらかと言えばこっちが本来の目的だよ」
「ま、既に十分過ぎる得をしてるからな。いいぜ、無茶なことじゃない限り協力させてもらう」
それはありがたい。とは言っても使い方さえ間違わなければこの要求はリックにもメリットがある話なんだけどな。
「リックに渡した俺の情報、それを全て前の銀髪姿の俺が流したってことにしておいてくれないか?」
要は人気爆発中の銀髪姿の俺が攻略最前線に立ってるということにしてより崇高な存在へと昇格させて、それを見た目は女である俺がまさか銀髪のプレイヤーだとは誰も思うまい。
ここのどこにリックが得をするかってのはーー
「……あぁ、なるほどな」
どうやらもう気付いてるようだ。
「銀髪のお前をより人気者にしたらもちろん情報を買うやつも現れるってことか」
「そういうことだ」
これを断るリックではないだろう。WIN-WINとは言え得の大きさで言えば明らかにリックが上だ。 俺の思った通り快く条件を呑んでくれたリックと握手をしてフレンド登録を済ませた。
「ほらノイ、何時まで伸びてるつもりなんだよ」
「んん……あと5時間」
「単位がおかしい!」
頬を軽く叩くと目を擦りながらノイはムクリと起き上がってリックがいないのを確認すると安堵の溜息をこぼした。どうやら苦手意識を持たれたようだ憐なりリック。
これ以上攻略を止めるのも何なのでホテルをチェックアウトして再び広場へ降りる。さっきの騒動でノイも違う意味で人気を博しているのかやたらプレイヤーの視線を集めていた。
「カナ……コさん、これからどうするんですか?」
「取り敢えず受けたクエストをこなしながらレベルアップして次の町を目指すって感じかな」
流石に女言葉を使うのは羞恥心が耐えられないので男とも女ともとれる中性的な喋り方をする。もっとも声は誤魔化せないので意識して高くしているが。
「カナコさんは受けてますし私も受けといた方がいいですか?」
「受ける受けないは自由だけどレベルアップのついでに報酬がもらえるから受けといて損はしないよ?」
「それじゃあ受けてきます!」
さっきはあんなに怯えていたのにそれが嘘のようにノイは軽快な足音を鳴らしてギルドハウスに姿を消した。
「あの……少しいいだろうか」
「はい?」
ノイがいなくなるとほぼ同時に後ろから声を掛けられ、男声になるのを咄嗟に抑えながら返事をして振り返る。
声を掛けてきたのは赤髪でポニーテールの女性だった。装備は上下同じ色の道場着で腰にはブレードより若干長い刀が帯刀されてあってどことなく侍を連想させるものだ。
「えっと、私に何か?」
「あぁ、君ともう1人女の子がいたから声を掛けさせてもらった。何分女性プレイヤーが少ないのでもしよかったら私も同行させてもらえないかと思って」
僅かに申し訳なさを含んではいるものの、目の前の女性の瞳は凛と真っ直ぐな意思がこもっていてとても力強い。
自分1人の独断では決められないと言ってノイが帰ってくるのを待ってもらう。隣に立っているだけでどことなく緊張の糸が張られて思わず背筋を伸ばしてしまうあたりに自分の心の未熟さを痛感させられた気分になる。
「カナコさ~んお待たせしました~って、どちら様?」
「あぁこちらは……」
と手を向けるまではよかったがよくよく考えてみると俺は名前すら教えてもらっていないので自然と口は言葉を紡げず挙げた手が虚しい。
「初めまして、私はこういう者だ」
プロフィール画面をノイと一緒に覗き見る。名前はトウコ、ジョブはやはりサムライ。レベルはノイと同じで3だ。
「ふ~ん、で、トウコさんとはどう言った経緯で?」
「経緯も何も同行させてくれないかって頼まれたの」
視線をトウコに向けて確認をとるノイ、そんなに俺は信用ないかな?
「私は別に構いませんよ。女性プレイヤー仲間の存在は嬉しいですからね」
ノイがOKなら俺に異論はない。フレンド登録を済ませて快くトウコの同行を受け入れる。
「ありがとう、女性1人だと他のプレイヤーからの勧誘が多くてね。君達に拒まれなくてホッとしているよ」
トウコが横に視線を向けると気まずそうに視線を逸らすプレイヤーを確認出来た。多分勧誘に失敗したのだろう見ていて憐れだ。
トウコを加えて予定通りフィールドに足を向ける。
「あれ、カナコさんジョブチェンジしたんですか?」
ノイは早速俺の変化に気付いた。俺は先ほどまで装備していたブレードを解除して、タクミから違法賠償として受け取った鉤爪付きのクロウボウガンを装備している。
「えぇ、ブレードはなんかしっくりこなくてね」
なんて言うのは真っ赤な嘘。本当はバグでジョブを2つ会得したのを利用して武器を入れ替えただけだ。まぁそれを知らないノイは正体がばれないよう本当にジョブチェンジしたと思っているだろうが。
「近距離は苦手なのかい?」
「ん~苦手って言うより体力配分を考えずに暴れちゃいそうで」
他愛のない会話をしながら目的地の野原に到着。流石にプレイヤーの数は減っていてモンスターがいい感じにポップしたまま残っている。
夜のフィールドは流石に真っ暗で何も見えないことはないが視界が良いとは言い難い、ゲームの夜フィールドを想像してもらうのが1番イメージしやすいだろう。
まずは新メンバーのトウコの腕前を見せてもらう為に1人でゴブリンの相手をしてもらう。
「ふぅ」
息を整えてより一層緊張の糸を強める。刀は自身の胴の前で前に傾けられていて、紛うことなきこれは……
「剣道の構えですね」
「あぁ、素人目でも腕が立つって分かるな」
トウコに聞こえないよう小声での会話だ。
暫くの硬直時間はとても長く感じられたが勝負が着いたのは一瞬の出来事だった。
飛び付き攻撃をしてくるゴブリンにカウンター気味に前に突っ込みながら横の一閃。真っ2つにされたゴブリンの肉塊が無情な音を鳴らして地面に叩き付けられた。
「おぉ」
思わず感嘆の声をあげてしまう、それほどにトウコの一閃は見事なものだった。
「どうだろうか、自分なりに型に捉われない自由さを入れ込んだつもりなんだが」
アドバイスを求められる。これが剣道なら教えられることなど何1つないのだが、ここはあくまでゲームの世界。となると俺にだって教えられることぐらいある。
「ちょっと拝借」
トウコから刀を借りる。上級武器ならスキル値がある程度なければ装備出来ないのだが今のレベルならそんなの関係ない。もちろんスキル値の上昇はない。
「剣道を含めて刀の攻撃パターンってやっぱり一刀流対一刀流の枠を抜け切れてないと思うの。もちろんそれが悪いなんて言わないけど、ここでは斧とか二刀流があればボウガンに魔法って遠距離攻撃もあるわけで」
新たにポップしたのはノイに背を任せた時にも倒したフンガだ。こいつはプレイヤーを認知すると勝手に攻撃してくるタイプ、猪の見た目通り猪突猛進にこちらに走りこんできた。
「確かにトウコの動きも自由だけどまだ改善の余地が残ってると思うんだ」
フンガの攻撃をかわしながらトウコに伝えたいことを伝える。一通り終えると見本としてフンガに攻撃を仕掛ける。
バカ正直に前から突っ込んでくるフンガにバックステップを取りながら蹴りを顎に叩き込む。自身の勢いによって仰け反る形になったところへ蹴りを入れていない足で着地と同時に前に突っ込むと刃を自分の方向に向けて柄頭━━柄の端にある金属製の部位━━をフンガの胸にめり込ませる。
「こんな感じで刀に頼るだけじゃなくて身体全部を1つの武器として考えた方がいいと思うの。敵が複数の場合とか蹴りで動きを封じたりしたら大分戦闘が楽になるしね」
刀を鞘に納めてトウコに返す。
「君は、ブレードのままの方が良かったんじゃないか?」
呆れたように言うトウコに俺は苦笑いで応える。
「乱戦になると多分周りが見えなくなるからボウガンくらいの方が安定すると思うの」
ちょっと納得しきっていないトウコだったがそれ以上言うつもりはなかったのか口を閉ざしてくれた。しかし逆に口を開き始めるやつがここにはいる。
「カナコさん! さっきからトウコさんばっかりで私に全然指導してくれないってどういうことですか!?」
「指導って、ノイにはもう基本的なことは教えたでしょ?」
「じゃあ今度は応用も教えてくださいよ!」
これはあれだな、自分が相手してもらえないのが許せない駄々っ子特有のかまって攻撃だ。だけど魔法に応用は確かにあるけどそれはもっと上位の魔法が使えるようになってからでないと話にならない。正直今の段階ではいかにMPの消費を抑えながら長く戦うかぐらいしか教えることなんてない。
それを嘘偽りなく懇切丁寧にノイに伝えたのだが駄々っ子に人の意見を素直に受け入れる余裕などあるわけがなく、レクチャーしてやると言いつつ隣に立ってるだけの行為で誤魔化した。
遠くでポップしたモンスターを俺とノイが、近くのやつは俺とトウコ、そんな感じでモンスターを次々に討伐しながらアイテム回収をしていく。
「中々レベルアップしてくれないものだなぁ」
「そりゃそうだよ。ここに出てくるモンスターは基本Lv1、強くても3だから相当の数倒さないとーーねっ!」
数M先にポップしたゴブリンの頭を撃ち抜く。これで俺のクエストはペインスパイダーの討伐を残すのみ、だがペインスパイダーはここではポップしてくれないので先に進む必要がある。
「トウコ、悪いけどノイの傍にいてやってくれないかな。私はもうちょっと先に行かないといけないから」
「あぁ分かった。こっちは任せてくれ、くれぐれも気を付けてな?」
「うん、ありがと」
トウコにお礼を言ってからノイにバレない内にと小走りでその場を去る。
「……はぁ」
ノイとトウコの姿が完全に見えなくなったところで盛大な溜息を吐きながら頭を抱えてその場に座り込んだ。
「何でトウコは疑わねぇんだよ。ここまでバレないとそろそろ男としての尊厳失っちまうぞ?」
周りに人がいないのを言いことに俺は自分の精神を失わないように必死に独り言をこぼして精神の安定を保っていた。
「た、助けてくれ~~!!」
と、そんな俺のはるか前方から3Mはあろうかという巨大なフンガに追われているフードを被った男が目に入った。彼は俺に気が付いたのか俺の方に進行方向を変えてってえぇぇぇ!?
「そこのあんた助けてくれ!」
「い、いや急にそんなこと言われても!」
「後は頼んだ!」
男は擦れ違いざまにそう叫んで近くの叢に身を隠した。そうなると当然フンガの視界に入るのは俺だけになり、攻撃対象は俺へと変わる。
「いぎゃぁぁぁ!!」
名前もレベルも不明な巨大フンガに背を向けて俺は猛ダッシュ。だが脚力ではどう考えても劣るので俺と巨大フンガの距離は徐々に縮まってくる。
「こうなったら」
このままでは踏み潰されてしまうと早々に悟った俺は直角に左折、そしてそのままここら一帯で1番大きな木に向かう。
「ブゴォ!」
「もうちょいもうちょい!」
後ろを確認すると距離は1Mもない、しかし僅かに俺の方が早かった。
「うおぉぉ!」
目的の木に辿り着くと俺は脚力だけで木を登る。そして巨大フンガが木に衝突する瞬間に右足で大きく後方に飛躍、イメージは逆上がりをするような感じ。
耳から脳まで伝わるほどの大きな衝突音に眉間に皺を寄せながら何とか足から着地出来た。メキメキメキと木の細胞が切れる音がだだっ広い野原に鳴り渡り太い幹は無情にも巨大フンガを下敷きにし、成長の証である年輪をあらわにする。
「はぁはぁはぁ……」
体力はそこまで消費してはいないが、精神はというと全体重をかけながら鉄やすりで表面を削られたような……要はボロボロってことだな。あっ、駄洒落じゃないですよ?
肩で息をしながらしばらく巨大フンガの様子を伺う。これくらいでHPが0になるわけもないしその内立ち上がるだろうとボウガンに矢を装填して待機。するとやはり巨大フンガはノッソリと立ち上がってきた。
「まだ……まだ」
目標を見失った巨大フンガがこっちを向くのを息を潜めて待つ。そしてこちらを向いた瞬間に装填していた矢を赤く光っている眼球目掛けて放った。
「プギィィィ!」
「もういっちょ!」
再び矢を装填してもう一方の眼球を射貫く、相手の視界を奪うと同時に俺は大地を蹴って巨大フンガに接近すると鉤爪で前脚を切断、そして素早く後ろに回り込んで後ろ脚も同じように切り落とした。
全ての脚を失った巨大フンガは最早身動き出来る状況でなはく、醜くその場で陸に打ち上げられた魚のようにジタバタと脂肪で一杯の身体を揺らしている。
「暴れるなよ狙いにくい」
ゆっくりした足取りで前側に回り込むと3本めになる矢を準備して狙いを頭に合わせる。一瞬頭の中で動物愛護団体の止めてあげてって声が響いたけど俺は無視して巨大フンガの頭に矢を埋め込んだ。
「はぁ……疲れた」
「いや~ブラボーブラボー」
何時の間にか叢から出てきていたフードの男が拍手をしながら俺の隣に立っていた。
「やらり私の目に狂いはなかった。君ならあいつを仕留めてくれると信じーーひぃ!」
偉そうな口をきく男に下を向いたままボウガンを向けると情けない声を出して両腕を空に向けて高々と挙げた。
沸点が高い俺でも流石にこれは腹が立った。これはもうNPCだとしても打ち込んで大丈夫だよな、神様どうかこの瞬間だけは目を瞑っていてください。
「ま、待って待って! 私の話を聞いてくれ!」
「黙らっしゃい! 人に全て任せて隠れてる奴の話を聞くほど俺の心ば広くねぇよ!」
怒りのオーラを放ちながら立ち上がってフードの男と対峙する。
「あれ?」
「た、頼むから話を聞いてよぉ~」
相変わらず情けない声を出す男に向けていたボウガンを下げる。
「いいぜ、取り敢えず聞いてやる」
「ほ、本当かい? ここじゃなんだし、僕の家に案内するよ」
男は安堵の息をこぼしながら俺に背を向けて歩き出す。俺も背中を追って歩き出すが、視線は男の背中ではなく、イベント発生を知らせる金色のクエスチョンマークを見続けている。