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Survivors War  作者: ノイジー
第三部
18/23

水の町サムノビン

 ジムフットへの道のりは驚くほどあっさりとしたものだった。

 なんだかんだで俺はアリスの戦っているところを見たことがなかった。だからアリス自身の力量というのを少々侮っていた節があるのは素直に認めざるを得ないところだろう。

 ウォックがAGIを最大限に利用した猪突猛進な押し押しのスタイル、それに対してアリスの戦法は他者の目を惹き付けてしまうほど華麗な、まるで超一流のダンサーが舞台の上で踊っているのを観賞しているような錯覚に襲われるほどの美しいHit And Away。

 ウォックよりやや控え目な突進で相手の腕や脚を確実に一突き、反撃を繰り出すモーションに入る頃には既にアリスは相手の背中を捉えようと背後に回っている。

 大きな一撃こそないにせよ相手の攻撃を受けずに倒せるこの戦法はウォックとは正反対の合理的なものだと言える。

 タゲが複数向けられようともお構いないだ。一体を集中攻撃しているかと思ったら次の瞬間にはもう一方の敵の脳天を貫く不意打ち気味の完璧な一撃。一見無駄だらけに見えるがモンスターから受けるダメージや多勢対無勢の状況を含め、総合的に見ると圧倒的にプラス要因の方が多いのは隣で戦っていて一目瞭然だった。

「カナメくん、そろそろ女の子の格好になった方がいいんじゃない?」

 アリスの言葉にはっとさせられ、慌てて人気のないところに身を押し込みカナメからカナコへと変身する。アリスと一緒にいたせいで忘れてしまっていたが、トウコには自分が男だということはまだ明らかにしていなかったのだ。危ない危ない。

 どんな反応をされるのかと肝を冷やしながら遅い足取りでアリスの前に戻る。

「…………」

 アリスの視線が痛いっす。

 何も言葉を発さず、つま先から頭のてっぺんをアリスが舐め回すように視線を上下させている。俺はと言うとアリスの目が真剣すぎて言葉を出せずにいる。

「むぅ~」

 やっと俺の観察が終わって息を吐いた俺を何故かアリスは恨めしそうな目で頬を膨らませている。何だよ頬を突っついてもらいたいのか?

「何で!?」

「いや何がだよ」

 何を急に言い出すのかと溜め息を吐きながら尋ねると、子どもがオモチャを強請るようにその場で地団駄を踏み始めた。とてもーー肉体的にも精神的にもーー23歳には見えない。

「何で男のカナメくんの方が女の私より女っぽいの!」

「知るか、てか声が大きい」

 周りに聞かれたら俺は完全に女装好きの変態という烙印を押されてしまう。ただでさえ俺の名前は知られてしまっているのだからこれ以上の拡散は控えたい。

「整った顔! スラリと高い身長! 長くて艶やかな黒髪! そして落ち着いた雰囲気! 本当に男の子!?」

「顔は中性的なだけだし身長は男だから女から見て高くて当然、髪の毛はシステムのカスタマイズだから俺にどうこう言われても知らん。落ち着いた雰囲気なんて出した覚えはない、強いて言えばアリスがガキなだけだろ」

「キーッ!!」

 やっぱガキだ。

 と、アリスの子どもっぷりを再確認したところでリックからギルド前の喫茶店で待っているとメッセが飛んできたのでピーチクパーチクうるさいアリスを引っ張って喫茶店へ向かった。



※※※※※※※※※※※※※※※



「朝から馬鹿じゃないのか?」

「うわぁ」

 言われた場所に来たらまだ朝の6:00だと言うのにノイとリックが所狭しとテーブルに並べられたケーキやらパフェやらを口の中に掻き込んでいた。唯一静かにコーヒーを飲んでいたトウコは食べてないかと思ったら目の前にはパンケーキがあったのであろうお皿が5枚ほど重ねられている。お腹があまりへっていなくてと言っているのだが、お腹がへっていない人はパンケーキをここまで食べない。

「カナコ、そちらは?」

「昨日フレンド登録したアリスよ」

「は、初めまして、アリスです。よろしくお願いします」

「ふふっ、そんな固くならないでくれ。トウコだよろしく」

 落ち着いた趣のトウコを見てアリスは目を輝かせている。それはまさに憧れの視線だ。

「トウコ、この2人はいつ食べ終わるの?」

「ん~あと5分ほどだろう。ついさっきまでここには山のようなスイーツがあったからな」

「胸焼けしてきました」

「奇遇ねアリス、私もよ」

 アリスとしかめっ面を向け合い、先ほどから全く衰えを知らないノイとリックのスイーツを食べる音が否応にも耳から脳に入り込んで胸焼けは増大と加速の一途をたどる。



「いや~食った食った~」

「食いすぎよ馬鹿」

 結局あれからリックがケーキをーーもちろんホールでーー追加注文しようとしたのでブレードを眼前にチラつかせて何とかそれを阻止した。

「いやさぁ、こっちだといくら食べてもカロリーにならないからよ。スイーツ好きとしては食わないと損だって気持ちが先走っちまうんだよ」

「走りすぎだから、もう世界記録レベルのスピードでフルマラソン走っちゃってるから」

「あ、あはは」

 アリスが苦笑いをこぼす。そしてここでやっとリックもアリスの存在を認知する。

「俺はリック、情報屋だ。よろしくな」

「よろしくお願いします」

 よしよし、トウコもリックも好印象で迎え入れてくれてるな。あとはーー

「むぅ」

 さっきからずっと不機嫌オーラを噴出し続けているこいつをどうにかするだけだな。

 スイーツを食べていた時の幸福感一杯の表情はどこへやら、ノイは何故かアリスの存在を知ってから不機嫌メーターが振り切った状態なのだ。

「ノ~イ?」

「ツーン、です」

 ずっとこの調子である。

「あ、あの、ノイさんって言うんですか?」

 いかにも勇気をふり絞りましたと主張するかのように震えた声でアリスはノイに話し掛ける。

「ふんっ、です」

「あうぅ」

「なんだこれ」

 コントを見ているようなノイとアリスの遣り取りに思わず溜め息を吐いてしまう。

 ノイが不機嫌な理由は、まぁ何となく分かる。自惚れだったらかなり恥ずかしいが、多分俺がノイの知らない内にアリスを仲間にしていて、尚且つ仲良くしているのが嫌。簡単に言えば嫉妬しているのではないかと思われる。

 だがしかし、俺の心は既に嘉穂に全て奪い去られているわけで、つまり俺は嘉穂以外の女の子に興味がないと言いますか何と言いますかーーうん、自分で言っていて気持ち悪いから止めておこう。

「ノイ、仲間が増えたのにその態度は良くないんじゃないの?」

「私は仲間として認めてませんも~ん」

 アリスといいノイといい、この集まりの精神年齢はとてつもなく低い、その筆頭どうしがこんな状況では手の打ちようがない。今なら小学校の先生の気持ちが痛いほど分かる。

「じゃあどうしたら認めるの?」

「わ、私に出来ることなら何でもします!」

「そ~ですね~」

 相手の弱みを握ったヤクザよろしくノイは悠々と腕と脚を組みながら見定めるような視線でアリスを観察し始める。

「なんでもいいから早くしろよ。俺は夕方には仕事で抜けなきゃならないから昼には落ちて仮眠しときたいんだ」

「外野は黙っていてください」

「んなっ!」

 調子に乗っているノイは苦手意識があるリックに対しても大きな態度を取る。本気ではないだろうが怒りを覚えたリックが立ち上がろうとするのを強引に止め、目の前を通り過ぎようとしていたNPCの店員を呼び止めてケーキの追加注文をした。ケーキーーもちろんホールーーを食べさせておけばリックは静かなものだ扱いが簡単で助かる。

「決めました!」

 リックがホールの半分を食べ終わった頃ーーまだ数分しか立っていないーーようやくノイが立ち上がってアリスを上から見下ろして口を開いた。

「私とPvPをして、勝ったら仲間として認めてあげます」

 この言葉を聞いた瞬間、俺の頭の中にはある単語が思い浮かんでいた。だがそれを口にしたら最後延々とノイが反抗してきそうなので、喉に出掛ったところでリックの追加注文の時に頼んだコーヒーと一緒に胃の中に強引に呑み込んだ。

「わ、分かりました。その勝負、受けて立ちます!」

 そうと決まれば行動は早いものだ。2人してテーブルを立ち、店を出て町中で堂々とPvPを始めようとウィンドウを開いて話し合いを始めた。

「馬鹿だね」

 ノイがいなくなったので気負いなく我慢していた言葉を吐き出した。

「アリスは強いのか?」

 ケーキを食べていたリックがこちらに視線を向けず言った。トウコも気になるのか俺の方をジッと見つめている。

「アリスはまぁ強いと思うよ。でも経験で言えばリックやトウコには劣るかもね」

「ノイの勝率は?」

 トウコに尋ねられ、コーヒーを口に含み、タップリ時間を要してから口を開く。

「ほぼ0%かな」

「それは、何故だ?」

「アリスはライトファイターで、ノイがまだ未熟なマジシャンだから」

 外から歓声が窓越しに店の中にまで響いている。そろそろ始まるのだろうと目を向けずに予想する。

「ライトファイターは速い動きで距離を縮めるスタイル。それに引き換えマジシャンはある程度距離をとらないと絶対的に不利。もしノイが相手を拘束する魔法を使えたらまだしもーー」

 途端に外の歓声が小さくなり、やがてさっきまでの平穏な町へと姿を戻した。

「ふえぇ」

「え、えっと」

「アリスのスピードに身動きすら取れず瞬殺される。始まる前から勝負は見えてたよ」

 惨敗したのであろうノイと、勝者なのにおどおどとしているアリスが店の中に再入店してきた。

「おかえり」

「た、ただいーー」

「カナコさぁ~ん」

 涙目のノイが周りの目を気にする素振すら見せず俺の胸に飛び込んできた。

「何なんですかあの子はぁ!」

「アリスよ。最初に言ったでしょ?」

 そんなことを聞いているのではないと分かりきっているのだが面倒なのでテキトーに返事をする。

「私何も出来ませんでした!」

「うん、だろうね」

「カナコさん分かってて戦わせたんですか!?」

「いやだって戦うのを提案したのはノイだから」

 とまぁいかに正論をぶつけたとしても今のノイには馬耳東風で暖簾に腕押しってやつで、つまり何言っても無意味ってことだな。

「え、え~っと」

「あぁ大丈夫、ほっといたら機嫌は直ってるからアリスは気にしなくていいよ」

「そ、そう?」

 不安げなアリスに強く頷き、俺は胸を頭でグリグリ押し付けているノイの頭をひたすら撫で続ける。何で俺がなんて考えは撫で初めて数秒で忘れていた。

 そうこうしているとノイは落ち着いてきたのか段々グリグリの力を弱め始め、いつの間にやらただ単に俺に抱き着いているのを楽しんでいるように見えた。

「ノイちゃんふっか~~つ!!」

「うるさい」

「へぶっ」

 元に戻ったら戻ったでうるさいノイにチョップをする。

「ほら、アリスに言うことがあるでしょ?」

 ほんの少しだけ不満げにだが、ノイはアリスの方を向いた。

「ん」

 そしてほぼ無言で右手を差し出す。多分仲直りとこれからよろしくと言う意味を込めた握手のつもりなのだろう。

「よ、よろしくね?」

「言っておきますけど、私の方が先輩なんですからこれからは私の言うことをテキパキきいーー」

「調子に乗るな」

「ぶぎゅ」

 完全にガラ空きの後頭部をメニューで引っ叩く。

「も~何だか今日のカナコさんは私に厳しいですよ~!」

 頬をリスのように膨らませながらノイは俺を恨めしそうに見遣る。

「厳しくない、ノイが普通にアリスを歓迎すれば全てが丸く収まるの」

「あ、あははは」

 もはやどんな反応をすれば正解なのか分からないアリスはただただ苦笑いをもらす以外反応のしようがないと言った感じだ。

「分かりました分かりましたよぉ~」

 くるっと身体を回転させると俺からノイの表情を伺うのは不可能となる。だがノイの表情くらい容易に想像出来る。

「アリスちゃん、これからよろしくお願いしますね」

 こんなにも声を躍らせているのだ。間違いなくノイは満面の笑みを浮べているに違いない。

「は、はい!」

「ノンノン、はいだなんて余所余所しい敬語はなし、私はもう癖だからしょうがないとして、アリスちゃんには普通に接してほしいです」

「わ、分かった。よろしくねノイちゃん」

「はい」

 ノイは多分嫉妬していたのだろうが、それと同時に困惑していたのかもしれない。自分と同じくらいの雰囲気ーー本当は23歳なんだけどこの際黙っておこうーーの仲間に対してどう接したらいいのか分からなかったのだ。だから意地悪してしまった。ただそれだけのことだ。

「ふぃ~ご馳走さんでした」

 ノイとアリスは仲良くなり、リックもケーキを食べ終えた。勘定を済ませて店を後にし、俺達はやっと攻略を開始することとなる。

「あ、ちょっとここで待ってもらえる?」

 用事があると言って俺はノイ達に背中を向け、武器屋を覗く。

「おじさん、アイテム買ってくれない?」

「おうよ、鑑定してやる」

 ウィンドウにあるモンスターがドロップした品の内、レア度が低い物を全て売りさばく。そして手に入れた金で次の戦闘に必要なあるものと新しい弓矢を購入してアイテム欄に押し込み次の店へ。

「おっちゃん、この武器改良してくれ」

「はいよ、どう改良するんだ?」

 改良先か表示されているウィンドウが現れる。その中にある1つを迷いなく押した。

「あいよ。少しだけ待っててくれ」

 リアルでならかなりの時間が要されるだろうが生憎とここはゲームの世界、改良に時間がかかるわけがない。

「待たせたな良い出来だ」

 1分も待っていないよ。と心の中でツッコミを入れつつ改良された弓矢をアイテム欄に入れ、ノイ達のもとへ戻る。

「何してきたんですか?」

「ん、ちょっとね。まぁ攻略が始まったら分かるからその話は置いといてーー何だかんだで結構皆より遅れを取っちゃったから今からは全速力で攻略を進めるよ。皆覚悟はいい?」

「バッチ来い。です!」

「もとからそのつもりだ」

「早く行こうぜ。身体がうずうずしてしかたねぇぜ」

「頑張るよ」

「聞くだけ無駄だったかな?」

 ヤル気に満ち溢れているメンバーには今更気合いを入れ直す必要はなかったようだ。皆瞳に力強い光を宿らせている。これなら心配は無用のようだ。

 向かうはジムフットを出て北西に位置する町、サムノビンだ。



※※※※※※※※※※※※※※※



 ここサムノビンは大きな湖の上に作られた水の町である。家も店も全てが船のように水の上に浮いている何とも特殊な町だ。移動手段は無料で貸出し出来る小型の船。お金を出せばNPCが船を漕いでくれるサービスを受けることができる。

 以上情報屋リックさんのあの町講座でした。

「ふわあぁぁ」

「綺麗ですぅ」

「そうだろうそうだろう。こんな町世界に2つとない、俺達の自慢の町だ」

 と、感嘆の声を上げるノイとアリスに手前味噌と分かりながらも鼻を高くしているのは俺達が雇った船の船頭だ。

 町の入口にデカデカと掲げられた看板には“観光ならこの店、船屋ノッキス”と書かれてあったのをノイが見付けて何かしら直感が働いたそうだ。その証拠に見付けた瞬間にキュピーンとノイが自分自身ので口にしていた。

 だけど別に俺達は観光にサムノビンに来たわけではない、俺達の本来の目的は攻略なのだ。“何故わざわざ船を雇う必要があったのか”誰もが当然抱くであろう疑問ーーノイとアリスは本気か冗談か分からないが首を傾げていたーーをトウコが俺に質問として投掛けた。

 答えを言うのは簡単だがそれでは面白味がない、そこで俺はヒントを出した。

 餅は餅屋、この町を知りたいのならこの町のことを1番知っている奴に任せるのが1番じゃないか?

 と。察しがいいと言うかこれで普通の人は理解が間に合うのだが、残念なことにノイとアリスは分からなかったようで、2人して可愛らしく首を傾げていた。

 説明するのも面倒だったのでこの2人にはこれ以上何も教えず、ただ単に観光を楽しんでもらっておくことにした。

「おじさんおじさん!」

 テンションメーターがかなり高くなっているノイの大きな声は周りからの視線を集めて非常に恥ずかしいったらありゃしない。まぁ周りにいるのはほとんどNPCたから問題がないと言えばないのだが……ね、いつも保護者的な立場にいる手前こういう教育が行き届いていないところを見られるのはーーうん、とっても複雑な気分だ。

「なんだい嬢ちゃん」

 声の大きさなんてNPCには問題ではない、普通に話し掛けられた時と同様に笑顔を貼り付けたまま応える。

「こいつ、何を言い出すつもりなんだ?」

「そんなの俺が知るわけないだろ…」

 小声でリックと話しながらノイの言葉を待つ。もしかしたら、万が一、億が一でノイが攻略についてのことを聞いてくれるのではないかと一抹の期待を抱く。

「この町で1番人気のスイーツのお店に行ってください!」

「まぁ、結局ノイはノイだったか」

 淡い期待は泡のごとく見事に破裂。ノイに期待した俺が馬鹿だったと1人気分を沈める。

「おし、なら俺一押しの隠れた名店に連れて行ってやろう」

「やったぁ~!」

「おっさん、全速力で頼むぜ!」

「ノイもリックもさっきスイーツ食べたよね!?」

 いつの間にやらスイーツという単語に惹かれたリックもノイと一緒になって喜んでいる。沈んだ心はより一層深みに向かう。

 速度を上げる小型船に対し、俺の心の船はショックのあまり沈没して深海へ落ちていくばかりだった。

 船頭が操る船はそんな俺の気持ちを知る由もなくスピードを上げて普段なら見逃しそうな路地に入り、右へ左へ入り組んだ道を行く。そして急にペースを落としたかと思うと何気ない一軒家の前で船を停泊させた。

「着いたぞ。ここが隠れた名店、ラ・ルポンだ」

 着いたぞ。と言われてもいまだピンと来ない気持ちに苛まれながらも俺を除いた4人は船を降りる。何だかんだでアリスも意外とノリ気になっている。

「あれ、カナ、コちゃんは行かないの?」

 おいこら今カナメって言いかけただろ。

 アリスの少し不慣れな呼び方に危うさを感じる。

「うん、私はそこまでスイーツ好きじゃないし、4人で楽しんできて」

「えぇ~カナコさんも行きましょうよ~」

「ノイ達の食べてる姿を想像しただけで胸焼けするから勘弁してください」

 真剣な俺の表情を見て流石のノイも察する。それ以上の誘いはせず、店の中に姿を消した。

 残されたのは俺と船頭のみ、だがこっちの方が俺としたら都合がいい。

「なぁおっちゃん、この町でモンスター被害ってあるか?」

「んぁ?」

 ボーっとしていたのか、それともこういう反応をするようにプログラムされていたのか、その真相は俺には分からないがおっちゃんは寝起きのような反応をした。

「そうさなぁ~」

 今現在のことでいいのに大昔を思い出しているような顔に俺は苦笑いを浮べながらも言葉を待つ。

「特にはねぇなぁ。ここは湖の上に作られた町だからモンスターが出ると言っても町の端に水を飲みに来る程度だし、外は侵入を防ぐために壁が作られている。4ヶ所ある町の出入り口は常に門番がいるしなぁ」

 モンスター被害がない、それは何とも不可解だ。

 ここサムノビンはSurvivors War内で攻略しなければならない町として存在している。普通RPGに通過するだけの町なんてものは存在しないのだ。必ずそこには町に被害を及ぼすモンスターがいたり、何か町を救うためのアイテムをモンスターが持っていたり、もしくは何かしらのレアアイテムがあるなど、何かしらの意味を持っている。

 まぁ上だけが全てではない、ブラッディミノタウロスのように通過地点にボスモンスターがいる場合もあるのだが、今回はモンスターがいない上に、恐らくだが町の他の門は何か特別な理由によって通行をストップされているに違いない。つまり俺達はここで何かしらのクエストを消化しなければならないとなる。

「本当に何もないのか町の伝説だとかそんなものでも構わないんだ」

「そう言われてもこの町は最近作られた町だからなぁ伝説なんてもんより噂話くらいしか話題なんてもんはねぇよ」

「噂話?」

 伝説ではないが何か町全員が知っているような噂話があるらしい、迷わず俺はその情報を聞こうと船頭に尋ねる。

「いやな、この町、と言うかこの湖はもともとモンスターの住処だったんだ。それで最近遠くの森からモンスターの遠吠えが聞えてくるから皆ここを取り返そうと迫ってきてるんだ。なんて話があるんだ」

「へぇ~」

 間違いない、それはこの町をクリアするためのボスモンスターが発している遠吠えだ。思わず吊り上ってしまう口角を強引に引き下げる。

「その遠吠えってのはどの方向から聞えてくるのかってのは、分かるか?」

「あぁ分かるぜ。なんせ夜に吠えられたら町の皆が起きちまうほどの大きな声だからな」

 そう言って船頭は大きな欠伸をした。

「大変そうだな」

「当たり前だ。そのお陰で俺達は寝不足で最近じゃ転寝をしていた船頭が湖に落ちちまう被害が続出してるんだ」

「ならさ、俺達がそのモンスターを討伐してやる。って言ったらそのモンスターがいると思われる場所に1番近い門を開いてくれるか?」

「そりゃこっちからしたら願ったり叶ったりだが、お前達大丈夫なのかよ。特にあの嬢ちゃん2人なんか弱そうにしか見えなかったぞ?」

「なめるなよ。確かにあいつらはまだまだ未熟だが磨けば輝く原石だ。もしかしたらそいつを倒すのはあいつら2人かもな」

「ははははっ、お前中々面白いな。気に入った何とか町の長を説得して門を開いてやる!」

 交渉成立だ。

「はぁ~美味しかったです~」

「まさかスイーツにカマボコを使うとはなぁ…」

「意外と合ってましたね」

「また食べたくなるな」

 スイーツを食べ終えた4人が戻ってきた。

「皆、早く行くよ!」

「行くって」

「言ったって」

「どこに」

「ですか?」

 んなもん決まってるじゃねぇかーー

「ボスの攻略に決まってるでしょ!」

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