ブラッディミノタウロス(前半)
更新遅れて申し訳ないです。
手始めに俺はボウガンに装填してある矢をブラッディミノタウロスの頭部目掛けて撃ち放つ。矢は勢いよく発射口から飛び出して狙い通りのところに向かって直線運動を始める。だか、それはあえなくミノタウロスの持つやたらと装飾のほどこされた斧によって弾かれてしまった。それを皮切りにミノタウロスも動きを見せる。助走もなしにいきなりトップスピードでこちらに向かって走りて出した。
「ノイは距離をとって自分のタイミングでいいから攻撃、トウコとリックは私と一緒に近距離で翻弄しつつ隙あらば攻撃!」
俺の指示に各々頷くとトウコとリックはミノタウロスの脇下を抜けるように突進を回避し、ノイと俺は大きく迂回しながらミノタウロスとの距離をとった。
回避した時に僅かながら近かったのかミノタウロスはリックをターゲットに絞った。
「かかってこいやあぁぁ!」
自分に言い聞かせるように大声で士気を高めたリック、そんなリックをミノタウロスの勢いがあり体重も乗っている降り下ろし攻撃が襲う。対してリックはゴルフスイングのような地面すれすれからの打ち上げ攻撃で迎え撃つ。
ミノタウロスの体重が乗り、勢いも申し分ない空気を割くような攻撃と、リックの遠心力を存分に振るった攻撃では残念ながらミノタウロスに軍配が上がった。
金属どうしが衝突し、決して広いとは言い難い部屋の中に耳を塞ぎたくなるような甲高い音が鳴り響く。
リックの攻撃は無惨にも弾き返されてしまい、腕を大きく広げる形でスキル使用後のように硬直してしまっている。そこへミノタウロスのーー勢いが落ちたとは言え殺傷能力は極めて高そうなーー攻撃が迫る。
「させるかあぁぁぁ!!」
1番近くでリックとミノタウロスの先戦闘を見ていたトウコが素早く斧とリックとの間に滑り込み、刀の腹を腕に密着させ、身体全身を盾にしてリックを護りに入る。だが如何せんパワーにおいて勝ち目がないのが事実で、護りに入った筈のトウコが今は逆にピンチに陥っている。
「アイスピック!」
とそこへ後方からノイの唱えたアイスピックーーその名の通り先端が尖った氷魔法ーーが周りの温度を奪いながら、がら空きのミノタウロスの背中に向かって迫る。そのお陰でトウコは窮地を脱し、俺はタゲがノイに向く前に矢を放ってタゲを俺へと向けさせる。
今までの攻防から分析したミノタウロスだが、攻撃力は見た目通り物凄いものだ。動きも大柄な割には素早い、しかしゲーム序盤と言うこともあってか攻撃は情報通り単調で連撃頻度は低いし防御する時は一旦動きがストップする。高いガード能力を持ってさえしているが所詮それだけだ。正直言ってサシでの勝負なら負けるどころかダメージを受ける気もすらしない。
そんな考えが一瞬ではあるが脳裏を過る。駄目だ駄目だ、リーダーである俺がいの一番に油断してどうする。それが原因でHPが0になってゲームオーバーにでもなったらそれはこんな俺を信用してくれている皆への裏切り行為に他ならない。緩みかかった頭を頬を叩くことで引き締め直しミノタウロスへ視線を向けて戦略を練る。
「ノイ」
数多のゲームによって蓄積されている戦闘方法から素早く作成を練り終えると、ミノタウロスの注意を引き付けてくれているトウコとリックを横目にノイに作戦を伝えに行く。
「さっきのフォロー良かったぞ。タイミングばっちりだったから今度もお前が攻撃してくれ、タイミングを合わせて俺も攻撃する。同時攻撃だ」
「了解です!」
笑顔でサムズアップを返す辺りノイに初のボス戦という緊張はなさそうだ。
ノイに伝え終えると俺も乱戦の中に飛び込む。と言ってもボウガンのオマケ程度でしかないクロウでは足元へフェイントをしてトウコとリックのサポートに徹することぐらいしか出来ない。
「フレア!」
接近戦と遠距離戦とでは隙の機会が違うのだろう。俺が思ったタイミングではなかったが遠くからノイが魔法を唱える声を拾い、大きくバックステップをとりながらノイのフレアと同時に当たるよう見計らってから矢を撃ち放った。
だが、後ろに目でも付いているのではないかと思うほどの完璧なタイミングでトウコとリックに牽制の蹴りを繰り出しながらミノタウロスは矢とフレアの方を向くと回避するのではなく、フレアを斧の刃でフレアをそして矢とをなんと直径が数㎝しかない斧の後方で弾いてしまった。これには俺もノイも唖然とするばかりだ。
だが今のはあくまで2点同時攻撃、しかも斧でカバー出来る範囲の狭い攻撃だった。 ならば今度は斧でカバー出来ないほどの、更に攻撃の手数を加えれば攻略出来る。その考えにいたったのは俺だけではない。視線をリックとトウコに向けると2人とも何も言わず肯いて見せた。同じゲーマーとして言葉は不要のようだ。
引き続きトウコとリック、そして俺で絶対防御のようなブラッディミノタウロスをかく乱し続けてノイが機会を伺う。強力な攻撃をかわしながらの戦闘は肉体的に、更に精神的に疲労感の溜まりが比べ物にならないくらい重く圧し掛かってくる。だからと言って手を抜いたりしたら危険なので息をつく暇もない。
「アイスピック!」
そんな状況が数分続いた頃だろうか、ノイがアイスピックを放つ。それに気付いたミノタウロスはノイの方へ身体を向ける。それと同時にトウコは左脚を、リックは斧を持っている右腕を、そして俺は完全に後ろを向いているせいでがら空きとなっているミノタウロスのうなじへクロウを突き刺そうと大きく飛躍する。前後左右に加えて上下様々なポイントを狙われたらいくらガード性能が良いブラッディミノタウロスとは言えどれか1つくらいは攻撃が通るだろう。
当然のように思ってしまうほど完璧なタイミングと狙い、その場にいる誰もが納得して首を縦に振るような状況が揃っている。皆に油断するなと言っていた俺でさへそう思っていた。
だが、実際にはそんな些細な、100人に聞けば100人が成功すると思っている時にこそ悪魔と言うのは微笑んでしまうものなのだ。
「ブオォォォォォ!!」
「ーーッ!?」
突然吼えたミノタウロス、別に吠えるくらいなら何度もしているが吼えたのはこれが初めてだ。空気が震えるなんて表現方法があるけどこれはそんなものではない、原子の1つ1つが暴れているような、肌に針が何千本も刺されるような痛みを感じる。そこで俺は初めてこのSurvivors Warの世界で恐怖を覚えた。
恐怖を感じたのと同時に目の前が真っ赤に染まっていた。夕焼とかそんなものじゃない、身近な物で例えるならーーそう血液のような。そんな赤だ。
「ぐあぁぁぁ!?」
下から野太い男の悲鳴、これはリックのものだった。視線を向けるとリックの左肩から右脚の付け根に向かって真っ赤なダメージを受けたことを知らしめる太いラインが入っている。慌ててトウコの方にも視線を向けると両腕の肘から先が跡形もなくなくなっている。
「えっ?」
何とも素っ頓狂な声を上げ、俺は自身の身体を見遣る。すると俺の胴体も真一文字に赤く染まっている。まるでミノタウロスの持っている斧で切らーー切、られ、た?
「━━━━ッ!?」
この瞬間、俺は初めて自分がミノタウロスに攻撃を受けていたのだと認識する。途端に襲ってくる痛みと嘔吐感、頭の中は突然に押し込まれる大量の情報のせいでパニックに陥っている。
何故だ。いつだ。俺はなんで……なんでこんな状況にーー
「ぐへっ……」
重力が働いて俺の身体は受け身を取るひまもなく地面に叩き付けられる。声を出したように聞えたかもしれないがこれは俺の意思とは無関係のものだ。肺から強引に抜けた空気が喉を通って強引に音として声として口から漏れ出したに過ぎない。
苦しい。辛い。いや、そのどれでもない、それどころか何故か頭がボーっとして、どこか遠くへ飛んでーー
「カナメさん!!」
誰かが俺の名前を呼んだ。霞む意識の中でその声だけはハンマーで叩き付けるように俺の頭の中で何よりも存在感を主張している。
ぼんやりとしている視界で声の主を探す為に頭を起こす。もう1度、もう1度声を……
「カナメさん!!」
「ノ、イ?」
あぁそうだ。この声はノイだ。お調子者でバカで単純でおまけにやっぱりバカで、だけど可愛らしくて皆を笑顔にしてくれて……俺の護らなければならなーー
「バカ! 今こっちに来るな!」
ノイの声のお陰でクリアになった視界と脳は走りよってくるノイの姿を捉え、そしてすぐさま必要としている言葉を紡ぎだした。男言葉になってるとかそんなのは今頭の中に存在していない。
俺の言葉が届いていないのか、それとも届いているが無視するほど俺のことを心配してくれているのかは分からないが、ノイは俺が忠告した時よりも速度を上げてこちらに向かってくる。それに気付かないほどブラッディミノタウロスは鈍感ではいてくれなかった。
不気味に口角を上げて足先をノイの方向に向けた。その刹那、俺の理性は吹き飛んでしまった。
獣のような言葉になっていない雄叫びを上げ、両腕両脚で地面を力強く蹴り上げる。アドレナリンが大量に分泌させているせいか痛みは感じず、身体に違和感があるように感じるていどにまで軽減されている。
俺のチート能力であるオートリカバリーが発動するのはダメージを受けてから5秒後、だがまだその時間には達していない。俺が受けた攻撃は間違いなく即死レベルのもの、つまり俺のHPは半分にまで減っている。この状況でもう1度攻撃を受けてしまったら間違いなくゲームオーバー。本能的にある自らを護るという考えが頭の中で警鐘を鳴らし続けている。
間に合え。間に合え間に合え間に合え間に合え間に合え!
「ブホォ!」
「間に合えー!!」
ブラッディミノタウロスの斧が蛇のごとく下からノイに向かって迫ると同時に俺は飛躍する。弾丸のように勢いを増した俺の身体はそのままノイを抱くように捕まえる。そして半ば反射的に身体を捻り、半身になってお粗末程度にボウガンでガードを試みる。
「ぐおっ!」
「きゃあ!!」
だがその程度でミノタウロスの攻撃を防げるわけがなく、ノイを抱えたまま俺は壁に激突させられる。攻撃の勢いが強く俺は右半身を強く強打。痛みを感じないのはアドレナリンのせいか、はたまた潰れてしまったのかは定かではない。
「ぐ、はっ……!」
呼吸がままならない。空気を吸い込みたいのに筋肉が上手く動いてくれずただただ苦しい。ボクシングでパンチが顎にクリーンヒットしてKOされるのは綺麗に飛んで気持ちいいと聞く、だが逆にレバーブロー、俗にいうボディへの攻撃は意識がはっきりしている分地獄のような苦しみだとか、身を持って体験すると本当に地獄の苦しみだった。
「カ、カナメさん!」
苦しんでいる俺をノイが上から覗き込む。大丈夫だと言ってやりたいのにいまだ呼吸は元に戻らず何とも言い難い歯痒さに襲われる。何とか左手を上げて大丈夫だと伝えるのだがそんなことでノイの顔に安心の色は戻らない。
HPバーは今の状態で半分をほんの少し超えた黄色、どうやらさっきの攻撃は一発KOレベルまでは達しなかったようだ。
HPが回復すると自然と苦しみからも解放されていく。鉛のように重くなってしまっている身体を強引に起こして立ち上がる。ふらついてしまうのをノイに支えてもらったのには我ながら情けないと思う。
「カナメさんのバカ! 何であんな無茶したんですか!」
おいおい起き掛けにバカ呼ばわりかよ。心身ともに使い物にならなくなっちまうじゃねぇか。
「約束、したからな」
「約束?」
なんのことか覚えていないノイ。まぁ別に絶対の約束でもないし思い出す必要も絶対ではない、このまま忘れてもらっておこう。じゃないと俺だけが覚えているなんて恥ずかしすぎる。
「それより、あの時何が起こったんだ?」
すぐさま頭を切り替えてノイに尋ねる。だが俺の顔は一切ノイの方向を向いてはおらず、ゆっくりとした足取りでこちらへ向かってくるブラッディミノタウロスを睨み付けている。こちらの出方を伺っているのか、はたまた単に移動速度がその程度なのかを知る由は俺にはない。
「えっとですね。あの時敵の持っている斧が急に光りだして、気が付いたら」
ノイの情報から新たに得られたものは斧が光りだしたことくらい、だがそれこそブラッディミノタウロスを倒すための必要不可欠な鍵だと俺は確信を持った。無駄に装飾されている斧、持ち手の真ん中に存在感を出している赤い鉱物。多分あれを壊せば何らかの進展があるはずだ。
「ノイ、お前はトウコとリックにポーションを使ってきてくれ、それとリックに伝言を頼む」
ノイの耳元でリックに伝えたいことを小声で伝える。
「分かりましたけど、カナメさんはどうするつもりですか?」
「俺か、俺はもちろん」
ウィンドウを開きながらブレードを2本選択する。すると何もなかった両の腰に鞘に収まったブレードが出現する。
「こいつで足止めしておく」
「ちょ、そんな! いくらカナメさんでもそれは危険ですよ! というかまたジョブチェンジしたんですか!?」
本当はジョブチェンジなどしていない、ノイにすら黙っている俺の秘密の内の1つであるジョブの2つ選択を利用したに過ぎない。
「大丈夫だって、スキルとかが使えなくてもレベルで補える。それにアイテム欄にもうボウガンないしな」
初期装備として存在していた弓矢はリンクストーンを買う時に売ってしまっている。 まさかボウガンの耐久力が一撃で壊されるなんて誤算中の誤算だった。
「無茶しないでくださいよ? あと戦闘になる前にちゃんとカナメさんもポーションを使っーー」
「分かってるって。ったく、お前は俺の母親かっての」
ノイの言葉を遮った時点でミノタウロスとの距離はほんの数Mになっていた。流石にノイもこのまま動かないのは危険と判断し、最後に目で俺に注意してから大きく右に円を描くように走り出した。好都合なことにミノタウロスはノイには目もくれず俺だけを見続けていた。
「さて、気を引き締めねぇとな」
金属の擦れる音を漏らしながらブレードを抜刀、確かな握り具合を確認してから腰を落として臨戦態勢に入る。あちらからの攻撃を待っていたんじゃどう考えてもこちらの方が流れを奪われて不利になる。なのでーー
「先手必勝!」
攻撃はこちらから仕掛けた。
「はあぁぁ!」
勢いを付けた渾身の一撃は当たり前のようにガードされてしまう。だが今の俺はボウガンとは違いブレードの二刀流なのだ、この程度で攻撃の連鎖を止めるわけがない。
弾かれた反動を利用してその場で回転し左のブレードで切りかかる。脚を狙ったそれもガードされ、続いて右のブレードで上段を狙うが持ち手で弾かれる。視界の端で蹴りの初動を見逃さずバックステップで回避、すぐさま突進しながら突きを放つがガード、もう一方でも繰り返すが半身になられてかわされる。背後を取らせるわけにはいかないので敢えて柔道の授業で習った回転受け身をしてすぐさま振り返る。すると相手の斧が首の高さを床と並行に移動していた。真正面から受けるとまた武器を壊される可能性があったので、ブレードを重ね、その腹で斧の下側を弾いて軌道を強引にずらす。
「ブフォ!」
俺の真似をしたのかミノタウロスが攻撃の勢いをそのまま利用し、上から全身の力を使った打ち下ろし攻撃に繋げた。俺は敢えてそれを紙一重でかわす。地面にめり込んだ斧、俺の眼前には艶やかな光沢を見せる赤い鉱物がある。
確信を持っているわけではないがあの時の速過ぎる攻撃はこの鉱物が原因である可能性が極めて高い。ここで破壊出来たらブラッディミノタウロスを倒すための兆しが見える。そう頭で言葉として出現させて認識するよりも早く身体は動くべき動きをするために筋肉細胞を活性化させていた。
そのまま攻撃するだけでは力不足かもしれない、そう思った俺の身体は地面を強く蹴ってミノタウロスの肩に一瞬だけ着地する。着地時の“静”の状態と再び目標に向かって動き出す“動”の状態にいたるまでの時間は瞬きをするに必要な時間をも凌駕している。
身体が大きいのは伊達ではなく、俺が全力で蹴っても全く身体がぶれる仕草すら見せなかった。加速したことによって俺の視界は酷く狭いものとなっている。そんな状況で俺が捉えているのは赤い鉱物ただ一点のみだ。
加速に腕力、更に回転して遠心力も加えた今の俺に出せるだけの力を込めた攻撃が鉱物との距離を縮める。
「ーーッ!?」
だが、俺の攻撃が鉱物に届くことはなかった。まるで見えないバリアが張られているように数十㎝手前で攻撃は何かに妨げられる。妨げられるだけならどれだけマシだっただろうか、見えないバリアは磁石の同じ極どうしをくっ付けたかのように俺のブレードを反発したのだ。
ブレードを握っていることで後ろに引っ張られる腕、それにつられてバランスを崩す身体、そして今までにないほどの不気味さを醸し出すブラッディミノタウロスの瞳。見れば斧は既に地面から抜き出されていていつでも俺を切り付けれる態勢になっていた。
「ちぃっ! フレア!」
咄嗟に手首を使ってブレードの切っ先をミノタウロスに向け、狙いなど捨てたフレアを放つ。本来ならかわせばいいだけのフレアなのにミノタウロスは律義に振り上げていた斧でガードをする。鉄壁の防御がここで俺の味方をしてくれるとは思ってもみなかった。
慌ててミノタウロスとの距離を離す。偶然かどうかは分からないが丁度皆が集まっているポイントだった。
「皆大じょーー」
「それはこっちのセリフだボケ!」
俺の言葉を遮りながらリックが叫んだ。
「1人で足止めなんかしやがって! お前がゲームオーバーになったらどうするつもりなんだ!」
胸ぐらを掴まれて俺の足は地面を離れ半ば強制的に見詰め合う形になる。リックの瞳に映る感情の色は怒りと不安。本心から俺を心配してくれていたのだと疑う余地なんて考えさせない真剣な瞳だった。
「リック落ち着け、あの状況ではこれが最善の手だったんだ。それに私達がカナコの足を引っ張ってしまった筆頭なのだから文句も言えまい」
横からトウコが割って入って何とか俺は地面に足を着くことが出来た。
「だがカナコ、君の行動も悪いんだぞ?」
「うん、ごめんね」
そう、確かに俺の行動は皆を護った立派な行動かもしれない。だがそれはあくまで外から見た人の意見である。中から、つまり助けられた人からしたら自分のために助けてくれたその人が怪我をしてしまうのを指を咥えて見続けるしか出来ない状況を作り出してしまうのだ。それがどんなに悔しくて情けないかぐらいは俺にだって分かる。
「この話はあいつを倒してからだ」
この場で言い争っているひまはないと判断したリックが渋々といった表情で俺の頭を叩いた。多分今はこれで許してやるといった意味なのだろう。
「それより、あいつの攻略法だが……本当にそんなので上手くいくのか?」
そんなのとはノイに伝えるよう言った言伝のことだろう。
「うん、ついさっき確信を持てた。あの鉱物はリックにしか壊せないと思う」
俺があの時鉱物を狙ったのはもちろん破壊が目的だったのだがそれだけではない、俺の推測が正しいものなのか確かめる為もあったのだ。 結果として俺ではあれを破壊出来ない、多分トウコとノイが攻撃しても同じ結果になるだろう。
「作戦なんて大層なものじゃないけど、今まで通り私達3人であいつをかくらん、攻撃のタイミングはノイに任せる。唯一違うのは攻撃を行うのはノイとリックだけ、その時リックはあの赤い鉱物を狙って。多分ノイの攻撃を弾く時に一瞬動きが止まるだろうから」
「おっしゃ!」
「それとーー」
途中で言葉を切ったせいで皆の視線が集まる。
「あいつはガード不可能な攻撃をされるとさっきみたいな高速での攻撃をすると思うの、だからかくらんする時はそれだけ注意して」
「了解だ」
伝えることは伝えた。後はことが上手く運ぶように全力を尽くすだけだ。
「さぁ、ここからが本当の戦いだ」
皆にも聞えないほどの小さな声で俺はそう口にした。