フォリーナに住む獣戦士
悠長におやつタイムを過ごしていると外はすっかり日も落ち暗闇が支配し始め、それを阻止するように町の小さな灯火が群れとなって自分達のテリトリーを死守しようと奮闘しているように見える。
「なぁ、お前らのレベルってどれくらいなんだ?」
リックが思い出したように尋ねてきて、俺達は洞窟へ向けていた足を止める。前に確認したのは洞窟に入る直前、だけど中では大量のゴブリンと戦闘を繰り広げたのでノイはそこまでかもしれないが、俺とトウコはまた上がっている可能性が高い。
「因みに俺はLv15だ」
「私は、17か」
リックもトウコも及第点ーーあくまで俺のこれならば大丈夫だろうという想像で決めたレベルーーには届いている。俺は言わずもがなとっくに及第点は超えている。まぁこのまま自分だけ黙秘するのは不公平なので自分のレベルを確認してからあっけらかんと言う。
「私はLv22」
「……は?」
「だからLv22だって」
「な、なんでそんなに高い」
なんでも何も元々洞窟に入る前で俺のはLv18だったし、中では皆が戦闘に集中出来るようにと思って見つけ次第矢を放って倒していたのだから当然の結果である。それを懇切丁寧に説明したのだが、如何せん気付かないように行っていたので証人は得られず、結局俺は今後ある程度レベル差が縮まるまではサポートに撤することで手を打たされた。畜生。
「で、ノイはいくつなの?」
「え、えっとですね」
あ、これはあれだな。思ってたより自分だけ低くて言い出しにくい感じだな。
明らかに目線を逸らして気まずそうなノイに容赦なくトウコとリックの視線が身体を射貫く。ただでさえ小柄なノイの身体が更に小さく見えてしまう。視線を受けてもなおノイは自分のレベルを言おうとはせず、4人の間に不穏な空気が流れ始める。
「はぁ、いいよ。私がノイの教育係なんだし後で私にだけ教えて」
結局言い出す兆しすら見せないので俺だけが聞くということで手を打ち、レベルが十分なトウコとリックに洞窟から先のダンジョンを進んでもらう側と、俺とノイでレベルアップする側に別れることで話は着いた。
「それで、ノイのレベルはいくつなんだ?」
リックとトウコをダンジョンの出口へリンクストーンで送った後、改めてノイに尋ねる。2人がいないので口調は元の男口調に戻してある。これがまた久し振りで自分でも違和感を感じていることにショックを受けている。
「あはは、実はまだLv12なんですよねぇ~」
確かに10は超えているけどギリギリ過ぎる。これでは言い出しにくいのは当然と言うものか。
「そっか、じゃあかなり倒さないと攻略が遅れるな。ゴブリンのレベルが平均14,5くらいだから最初は上がりやすいけど後々が面倒だな」
「……あの」
「ん、何?」
「怒らないんですか?」
「なんで?」
何故か怒られると思っているノイと怒ると思われている俺、歯車が噛み合わないどころか出っ張った部分がぶつかり合って回転する余裕なんてものはない。取り敢えず何故怒られると思っていたのか理由を尋ねてみた。
「だって、私のせいでトウコさんが取り乱しちゃったと言っても過言ではないですし」
「あれはしかたなかっただろ。戦うなって言ってたのは俺なんだからノイのレベルが上がるわけないし、それに自分が戦ってないと緊張感がなくなるのは、本当は駄目なんだけどノイは素人同然なんだからそれも今回だけだけど目を瞑る。ほら、お前が怒られる箇所なんてないじゃねぇか」
それに万が一あの時トウコが取り乱してなくてもいずれ同じようなことは起こっていただろう。それが後々になって発覚するより、まだ地盤が固まりきっていなかったお陰でトウコとも早くに打ち解けられることも出来た。正直ノイには感謝さえしている状況だ。
「ほ、本当ですか?」
「本当だ。なんなら今の話をトウコとリックにも聞いてもらうか、2人とも絶対にノイは悪くないって言ってくれるよ」
俺の言葉にやっと納得したのかノイは大きな溜息の後に「良かった」と囁いた。
「とにかく、少しでも自分が未熟だったことに罪悪感を感じるのならさっさと強くなる。そして皆を守ってやれ」
「……はいっ!」
いつもの明るい笑顔。周りまで元気にしてしまうその笑顔に俺もつられて笑みをこぼす。リンクストーンも設置したし、このまま洞窟へ、と行きたいところなのだが、それは一先ず置いといてーー
「ノイ、気になったんだけどパラメーターの振り分けってしてるか?」
「はい?」
「あっ、やっぱりか」
道理でノイだけレベルアップが遅いと思ったらこの子振り分けしてないよ。でも逆に考えるとLv1の威力でそこそこ戦えるなんてやっぱりマジシャンは攻撃力が高い、まぁその分MPがなくなると全くの無抵抗状態になっちゃうんだけどさ。
「あのな、レベルアップするとーーって口で説明するよりやってみた方が早いな、百聞は一見にしかずだ」
ノイの後ろに立ってステータスを開かせる。この際ステータスの見方とか色々教えた方が後々楽だろう。
「いいか、上から体力値,MP,攻撃力,防御力,魔法攻撃力,魔法防御力,素早さ,スタミナだ。で、マジシャンのノイは基本的に魔法攻撃力と魔法防御力が高くて、防御力とスタミナが低くなってる。この意味は分かるか?」
「えっと、マジシャンは魔法を主体としていて、あんまり動く必要がないからですか?」
この子初めてのわりには理解が早いな。今までアホの子だって思ってたのは訂正しておかないと……
「ん、大体合ってる。それで、マジシャンは接近戦に持ち込まれるとどうしても不利になるから」
説明をしながらノイの手を取ってステータス画面からパラメーター振り分け画面に移動させる。
「後々リセット出来るから今はMP:魔法攻撃力を1:1の割合で振り分けとけ」
「他はいいんですか?」
「今は大丈夫だ。マジシャンの真髄は後方からの高い攻撃力だからな。直接攻撃を受けることはまずないしタゲされたら距離がある分逃げやすい、それに」
「それに、何ですか?」
「……気にするな」
「そこまで言われたら気になりますよ!」
人の気も知らないでノイはグイグイとここぞとばかりに押し寄せてくる。
「だからーー」
「はい」
「その……もしお前が危険な目に遭いそうになったら、俺が真っ先に助けてやる。お前には傷1つ付けさせやしねぇよ」
「ーーッ!」
もうさ、前も言ってるんだからそこらへんは理解した上で察してくれないかしら。毎度毎度言うこっちの恥ずかしさってもんがねっ! って心の中でいくら発狂しようと暴れようと所詮は心の中、表に出てないのでノイにこの気持ちが伝わるわけはないですよね……
「し、しょうですよね! カナメしゃんは私の盾ですもんね! 護って当然ですもんね!」
上から目線で言葉を放つノイだが、生憎と2度も噛んだ上に耳まで真っ赤に染めているものだから効果はこれっぽっちも発揮されていない。完全に照れ隠しだと分かってしまう。
「はいはい、もうそれでいいから。さっさと洞窟でレベル上げてトウコ達と合流するぞ」
そう言って俺はノイを置いて先に洞窟へと入る。照れているのは決してノイだけではない、俺だって顔から火が出そうな程恥ずかしいしさっきから心臓がノイに聞えてしまうのではないかと思うほど大きな鼓動音を響かせている。
「ま、待ってくださいよぉ~」
俺が先に歩いて後からノイが追い付き隣を歩き出す。俺達の距離感はこれくらいが丁度いいのだ。近過ぎず遠過ぎず、絶妙な上下関係がノイとのベストな距離感なのだ。
「フレア!」
ノイの放ったフレアがゴブリンの頭部に直撃してその部分が燃えカスとなって空中に飛散し、頭を失ったゴブリンは再起不能状態に陥る。それと同時にノイの頭上にLEVEL UPの文字が浮かび上がった。洞窟に入ってから20分で5回目のレベルアップ、4分に1度のペースだ。早い、これは変に早過ぎる。
「ノイ、お前何の固有スキル選んだ?」
「サンダー! 固有スキルってなんですか?」
雷系初級魔法のサンダーを放ったノイはすぐさまこちらに視線を向けている。そんなので当たるのかと思ったのだが既にサンダーはゴブリンの頭を貫通していて黒焦げにしていた。ここらへんにシューティングゲームをしていた技術が役立っている。今のところヘッドショット率100%だ。
「ジョブを選んだ時一緒に選んだだろ?」
「はて?」
駄目だこりゃ。
「ウィンドウを開く」
「はい」
「プロフィールを開く」
「はい」
「固有スキルの欄に書かれてあるスキルを読む」
「経験値取得量UPです」
「あぁ……納得だ」
道理で倒している割にレベルアップが早いわけだ。固有スキルは他の取得スキルとは違って効力が極めて大きい。その代わり1人1つしか手に入れられないのが普通のスキルと違う1番大きな点だ。
「これも私の秘められたゲーマーの実りーー」
「ただの偶然だろうがっ」
「うぎゅ」
まったく、俺はお前専門のツッコミ役じゃないんだってえの。
攻撃力の上がったノイは正直今までの護らなければならない仲間ではなくなっている。MPと魔法攻撃力だけにポイントを注いだのは伊達ではなく、魔法自体の消費MPは変わらずにMPステータスだけが増加している。ダムを想像してもらうとすんなり理解出来るだろう。排出する水量は変わらずに貯水量が量を増している。何故長く水を出し続けれるかは説明するまでもないだろう。
ノイの変化はそれだけではなかった。この洞窟攻略において最大の難点となっていたゴブリン集団。今までは1匹ずつしか倒せなかったので後退を余儀なくされていたがノイの変化によってそれは見事改善された。攻撃力が上がったことによって魔法の威力も上がり、結果的にゴブリンの防御力を超えたのだ。攻撃力が防御力を超えたらどうなるか、あくまでもノイのを見た限りでの俺の予想にしか過ぎないが、超過分を次に繋げることが出来るのだと思う。
現に団体に出くわして撤退せずに済んでいるのは何故か、それはノイが放った魔法が敵に当たっても消滅せずに他のモンスターにダメージを与えているからだ。それによって1回の攻撃で複数の敵を倒せている。結果的に真正面からぶつかっても返り討ちに出来る程の力があるのだ。
1番時間を食う撤退を避けることが出来た結果、俺達はほぼ全速力と言ってもいい早さで洞窟を攻略しつつある。時々休憩を挟みつつもトウコと一緒に進んだ時より早く洞窟を抜け出すことが出来た。
「突破しましたぁ~!!」
「ほい、お疲れさま」
予想をはるかに上回る短時間で洞窟を突破したものの、時刻を確認してみると19:29だ。外は暗くなっていて洞窟から抜け出したという実感はちょっと薄らいでしまっている。
「カナメさん、私ちゃんと役立っていましたか?」
「おう、最高の働きだったぜ」
「えへへへ~」
照れたように頭をかいてだらしのない笑みを浮かべるノイ、この時の顔が1番ノイらしいと改めて思った。
「レベルも20まで上がりました」
「ホント、見つけ次第排除してたもんな。ちょっとだけゴブリンが不憫に見えてくる程に」
洞窟内でのノイのMP消費の早さと言えばもう廃車寸前のアメ車にも引けをとらない、お陰様でMPポーションがすっからかんになりました。あれって結構金使うんですけどねぇ。
トウコにメッセで連絡を取ると洞窟の出口まで戻るから待っていてほしいと言われたのでしばらくノイと待機になる。もっと他のプレイヤーが集まると思っていたのに、周りに俺達以外のプレイヤーは見受けられない。そう言えばと、先にボス戦に向かったプレイヤーがいたのを思い出した。リックに連絡は入ったのかどうか気になるところだ。
「カナメさんカナメさん」
「ん、どうした?」
「暇ですよ」
「……だな」
だだっ広い草原地帯のここにはモンスターの影も形も存在していない。時間潰しに更にレベルアップをしようと思っていた俺にとってはとんだ誤算である。
「ひ~ま~で~す~」
「子どもかお前は」
「成人してないので子どもですも~ん」
「はぁ」
こんな会話では暇潰しにすらならないと判断した俺はその場に腰をおろしてピーチクパーチク騒いでいるノイを無視してウィンドウを開く。
「おろ、私を無視して1人の世界に入るなんて許しませーー」
「黙らっしゃいっ」
「へうぅ!?」
隣にノイが立った瞬間、俺は右腕を地面すれすれを這うように手刀を放ちノイの両脚を巻き込んで転倒させる。それにしてもあうっだったりへうぅだったり、こいつの咄嗟の声はよく分からん。
背中から勢いよく倒れたせいでノイは呼吸がままなっていない。まぁ地面は草が生い茂っているし土だからそこまでダメージはないだろう。
ピーチクパーチクの次はジタバタと暴れるノイを更に無視してウィンドウにあるスキル習得欄をゲーム開始から初めてタッチする。開くとそこにはアーチャーが装備出来る武器が並んでいる。と言っても弓とボウガン、それに手投げスキルくらいしかないから並んでいると言うにはやや少ない。
スキルを獲得するには自身が装備している武器の熟練値を上げるしか方法はない。その熟練値の数値によってそれ以下の熟練値が必要なスキルを入手出来るのだ。
今、俺のボウガン熟練値は163で習得出来るスキルは合計3つ。そのどれもが状態異常付与の効果を備えてある。毒付与のポイズンショットに痺れ効果を与えるパラライズショット、そして命中部位の防御力を下げるブレイカーショットを習得した。使用方法は簡単で矢を装填している状態で更にスキルごとに指定されている方向へボウガンを振ると矢にスキル効果が上乗せされるのだ。残念ながらここには試し撃ちするためのターゲットがいない為お披露目はダンジョンへ着いてからになりそうだ。
「おいノイ、お前いつまでそこに寝転がってるつもりだよ。もうとっくの昔に痛みはなくなってるんだろ?」
「……………」
まだ倒されたを怒っているのかノイはこちらに背中を向けたままで身動き1つしない。確かに今考えたら少しやり過ぎたと思い罪悪感を感じている。
「ノイってば~」
向うが動かないのならこちらが動かなければ進展は見込めない。四つん這いでノイへと接近する。
「ノ~……イ?」
「す〜」
「……は?」
覗き込んだノイの顔。それは大きな瞳を瞼の蓋で覆っていて、唯一聞こえてくる音と言えば規則正しい呼吸音だけ。改めて見てみるとノイって睫毛が長くて小さな唇も潤いがあり触ったらさぞ柔らかそ……いやいや何自分で話を逸らしているんだ。そうじゃないだろ。これはあれですか、世間一般皆々様が仰っている眠ってるってやつですかい?
「んん」
「っと」
今まで身動きすらしなかったのが嘘のように素早い動きでノイが寝返りをうち、危うくぶつかってしまいそうになった。
「えへへ~もう食べらりぇましぇん」
「なんてベタベタな寝言を」
それにしてもよく眠っている。昼からおやつタイムを挟んだの以外休憩らしき休憩も取れてない、それにノイは性格こそあぁであれ女の子なのだから疲れて眠ってしまうのもしかたないと言えよう。とは言ってもそろそろトウコ達が到着するだろうし、寝惚けたままダンジョンへ向かうのはいくら一緒に行動するとは言え万が一のことがある。ここは心を鬼にして起こしてやることこそ優しさってやつか。
「ほれノイ起きるんだ」
「んあんあっ」
強引に上半身を起こし肩を掴んで前後に大きく揺らす。意識がはっきりしていないのかノイの口からこぼれる声はどれも言葉からは程遠く、赤ちゃんが使う喃語に近い。
「ふぇ? かにゃめ、しゃん?」
「そうだカナメだ。そろそろトウコ達が来るから目ぇ醒ましとけよ」
「ふぁ~い」
「カナコ~!」
ノイが目を擦りながら返事をするとほぼ同時に遠くで手を振っているトウコと何やらウィンドウを凝視しながら難しい顔をしているリックが目に入る。巷ではながらスマホなんて言葉があるが、ここではそんなもの無用とばかりにリックの視線はウィンドウに釘付けになっている。
「済まない待たせた」
「全然大丈夫。ほら」
そう言ってまだ寝惚け眼なノイをトウコに差し出す。するとトウコは笑みをこぼしながら寝惚けているのをいいことに頬を突いてノイで遊び始めた。トウコの注意がノイに向いたので眉間にしわを寄せ続けているリックに小声で話し掛ける。
「連絡あったか?」
「おう、これ見てみろ」
リックのウィンドウを覗き込むとそこには先にボス戦に挑んだプレイヤーからのメッセだった。
『ボスの名前はブラッディミノタウロス。大きな斧が特徴のモンスターだ。攻撃方法は重量武器なだけあって上下からの攻撃と薙ぎ払い、どれからも2連撃ほどだ。威力はもちろん高い。
だけどこいつの最も恐ろしいところはそこじゃない。俺はやつに1のダメージすら与えられなかった。いくら防御力が高いといってもこれはあまりに不自然であり得ないことだから多分裏があるんだと思う。
このメッセを見次第情報料金を添付したメッセを送ってくれ』
「…………」
流石にこれは俺も言葉が出てこない。ソロプレイヤーだとしてもこいつはボスの部屋まで辿り着けた猛者なのだ。当然パラメータもレベルも及第点を大幅に超えていると容易に想像出来る。だとするとはやり問題なのは特定の攻撃しか受け付けないのであろうブラッディミノタウロスの効果だろう。
「どうする。リーダーはお前なんだからお前が決めろよ」
俺はリーダーだったのか。いやそこじゃない、今はブラッディミノタウロスにダメージを与える方法を考えなければならない。
「取り敢えずアイテムも少なくなってきてるし一旦町に戻ろうと思う。出来るだけ数を集めたいから全員で戻った方がいいだろ」
「なるほど、俺もその意見に賛成だ」
リックは快く賛成してくれた。ノイは多分俺が言うのなら従うだろうし、トウコは俺達3人の意見を捻じ曲げてまでの意見を持ってはいないだろう。持ってたとしても押し切るような性格ではないことぐらいもう理解している。
「よし、それじゃあ町まで戻るよ。2人ともじゃれ合いはそれぐらいでね」
「はい、もうすっかり目が醒めました。おはようございます!」
「うん、今は夜だけどね?」
「細かいことは気にしないでください!」
言っておく、決して細かくはない、時間が12時間以上ずれているのは決して細かいことではない。大切なので2回言いました。
町に戻ると持てるだけのアイテムをアイテム欄に押し込んだ。トウコとリックは全てポーションを購入。ノイはポーション:MPポーションを3:7で買った。因みに俺は全てMPポーション、ダメージなんか受ける気はサラサラないし例え受けたとしてもオートリカバリーで勝手に回復してくれる。皆には見ていないところで回復したとでも言えばなんとでもなる。
洞窟の入口で設置していたリンクストーンでーー戻ってくる予定はないだろうと手に持ったままーー出口までワープ。リックを先頭に見つけてもらっているダンジョンへと向かう。
程なくして草原には似つかわしくない洞穴があり、そこがボス部屋まで続くダンジョンだそうだ。
入口から吹く風の音が洞窟内で反響し合って音量を増幅させ、耳の奥まで響いてくる。途中まではトウコ達のガイドがあったのだが、それ以降はまだ自分達も進んでいないとのことで完全に手探り状態だ。そうなると自然と先頭はリックから俺にバトンタッチ、接近戦のリックとトウコでは無駄なダメージがあるかもしれないし、ノイに至っては生命線であるMPを消費するので論外。その点俺だと遠距離攻撃でダメージを受ける心配もないし、万が一不意打ちを食らってもクローで防御している間にトウコかリックに倒してもらえるのだ。
情報屋のリックがどうしてもマッピングを完了させておきたいと言うので本来は向かわなくても問題ない細部まで攻略したので無駄に時間を食ってしまった。だがそのお陰で命中率補正のブレスレットを獲得出来たのでよしとしよう。もちろん装備しているのは俺だ。
「ここか」
「でけぇ~です」
ダンジョンの最奥地、ボス部屋に着いた。眼前には視線をかなり上げないと上が見えないほどの巨大な扉が堂々と存在感と威圧感を俺達に向けている。
「い、いざ目の前にすると圧巻だな」
「だがここで立ち止まる理由などないだろう?」
「そうです。どんな敵だって倒してやります!」
皆思い思いに自らに渇を入れて士気を高めている。俺はと言うと1歩下がって瞑想中だ。とくに理由なんてない、集中力が上がるわけでも実力以上のパフォーマンスが保証されているとかもない。これは俺のジンクスだ。どんなジャンルのゲームにおいてもここぞと言う時はこうやって瞑想をしてから挑むのだ。
「よし、それじゃあ行きましょうか」
「はい!」
「おう!」
「あぁ!」
3人の声が重なったのを確認してから俺は重厚感のある扉に触れる。すると独りでに扉がゴゴゴと唸りをあげて開き部屋の中をあらわにする。
「ブフォォ」
俺達を迎えてくれたのは名は体を表すのごとく真っ赤な体毛に覆われ、手には巨大な斧を手にしたブラッディミノタウロス。荒い鼻息をもらしながら侵入者である俺達を凝視している。
「さぁ、狩りの時間だ」
「ブオオォォ!!」
俺の静かな開始宣言とブラッディミノタウロスの雄叫びが交錯し俺達は臨戦態勢に入った。




