いざダンジョンへ
『IDとパスワードを入力してください』
Survivors Warの世界に入った俺を待っていたのは暗黒が支配する空間と、頭に直接話しかける人口的に作られた機械の声だった。目の前にIDとパスワードを入力する欄があるウィンドウがあり、その下にパソコンのキーボードがある。既に頭の中で記憶として存在している英単語と数字を入り混ぜたそれを素早く入力し、ログインを維持しますかというチェック欄があったのでそれをタッチしてからEnterキーを押した。
『認識中…………確認しました。ログインを開始します』
目の前のウィンドウが姿をなくすと前後左右、上も下も分からない暗闇の中に取り残され、ログアウトと同じような感覚が身体に負荷を与えて俺の意識は強制的にシャットアウトさせられた。
意識を取り戻し目を開けるとログアウトした地点と全く同じ光景が広がっていた。強いて違う点を上げるとしたら時間設定が昼なので太陽が高く、人の数が多くなっているくらいだろう。
「あ~カナコさんやっと来ました!」
周りの目を全く気にしない大きな声が耳を経由して直接脳にその声の大きさを鳴り響かせる。
「ノイうるさい。あと約束からは2分しか経ってないんだから許容範囲でしょ?」
「いいえ、社会に出たら1分で数千万のお金が動くって退職した先生が言ってました! 実体験だったそうです!」
どうでもいいおまけが付いたものの、ノイの言っていることはまったくもって正しい、ここは無理に押し切らずさっさと謝った方が得策と思い頭を下げた。
「ふっふっふ~そうです。カナコさんはそうやって私に頭を下げ続ければいいんです。そう! 世の中にはびこる社畜のように!」
「調子に乗るな」
「あう」
危うく全世界の身を粉にして汗水流していらっしゃる会社員方を敵に回そうとしたノイにチョップを打ち込む。
「ふふっ、君達は本当に仲がいいんだな」
と、そこへ先にログインしていたのだろうトウコが笑みをこぼしながらやってきた。
「ごめんねトウコ、待たせちゃって」
「気にしなくて大丈夫だ。ノイもついさっきログインしたとこーー」
「ち、ちょっとトウコさん!」
ほうほう、今何やら興味深い供述が出てきたな。
慌ててトウコの口を押さえるが時既に遅し、俺はノイの後ろの襟を捕まえてこちらに顔を向ける。えへへと愛想笑いを作るノイに俺はとびっきりの笑顔で尋ねる。
「ノ~イ~正直に言いなさい、何時何分にログインしたの?」
「え、えっと~何時だったかなぁ~」
「トウコ」
「15時01分だよ」
「へ~15時01分ねぇ~」
「あ、あははは……」
「お仕置き!」
「い、いやぁ~~!!」
「ふふっ」
人にあれだけ言っておきながら自分も1分とは言え遅刻していたノイの頬っぺたを親指と人差し指で抓る。涙目になりながらノイは謝罪の言葉を口にしているが、ちゃんと発音出来ていないから許さないと理不尽な理由で俺の抓りの刑は継続される。
ノイが本気で泣き出しそうになったのを目の前の俺でなく横から覗き込んでいたトウコが指摘したのでしかたなく俺は手を離した。
「うぅ……頬っぺた伸びちゃいます~」
自分の頬っぺたを擦りながら涙目で俺を睨むノイ。もちろん本当に頬っぺたが伸びるわけもなく、実際はほんのり頬が赤くなっている程度だ。
「それはノイが悪いね」
事情を抓り終わった俺から聞いたトウコが呆れてた表情で言い放った。
「まったく、よくもまぁ自分も遅れたくせして人にあれだけ言えたもんだよ」
「だってぇ~」
「だってじゃない!」
「君達を見ていると出来の悪い子どもとその母親を見ている気分だよ」
またも呆れ顔のトウコ。まぁそう見られてもしかたないですね。
「さて、無駄話はこれくらいにしておいて、次の町に行こうじゃないか」
気分新たにしようとトウコが手を叩いて雰囲気を一蹴。それにつられるようにノイも立ち上がってヤル気を見せ始める。
「そうですね。この町には思い出したくもない印象しか残ってませんし!」
この野郎俺と出会ったのも嫌な思い出ってか? あの照れた顔をノイに見せつけてやりたいもんだ。
俺の心の文句は当然ノイもトウコも知る由はない、意気揚々とフィールドへ続く道へ歩み始める2人の背中を追って俺も歩き出す。
2人のレベルは前と変わっていない、だが俺の方はと言うとLv13にまで上昇している。振り分けをしていないので戦闘中に差が出る心配はないがどこか後ろめたさを感じずにはいられず、道中現れる敵へのラストアタックは自然と2人に譲る形になってしまう。まぁ2人は戦うのに必死なのであまり気にはしていないようだが。
戦闘よりも移動に時間を要してしまったが、無事森の入口までノーダメージでくることが出来た。この森を抜ければフォリーナまで一本道。クモやトカゲ系のモンスターポップ率が若干高めだが、ノイを宥めながらの道中を想像して思わず溜め息が出る。
「あれ……カナメじゃねぇか!」
突然後ろから大声で本名を言われ俺の心臓がノミのごとく大きく飛躍。前を歩くトウコは別人を呼んだのだろうと思っているのかまだ気付いてはいない。
俺の本名知ってるのってノイを除くとーー
錆び付いたロボットの首を捻るように、ギ、ギ、ギ、と今にも聞こえそうな鈍い動きで俺は後ろを振り返る。
「よっ!」
派手な緑の髪に大木と間違えそうなほどの巨大な体躯、見間違うことなきリックの姿を遠目に確認する。
「ん、どうかしたのかカナコ」
「うぇ!? あぁ、ちょっと知り合いが、少し待ってて!」
トウコ達に断ってから揚期に手を振っているリックのもとに全力疾走。向こうは何を慌ててるんだろうと首を傾げているがその姿がまた腹が立つのなんの。
「ど、どうしたんだよカナメそんな目を血走らせーー」
「お前な俺が正体隠してるの知ってるだろ!?」
声を沈めながらも言葉に力強さを宿らせながら俺はリックの胸に人差し指を指す。なるほど、人差し指とはよく言ったものだと頭の片隅で感心している自分が存在していることに少し呆れを抱いたのは言うまでもない。
「あっ、わりぃわりぃ」
言われて気が付いたと頭を掻きながら身体に合った豪快な笑い声が野原に響き渡る。一瞬リアルでもこんな感じなのだろうかと不安に思ってしまうのは無理ないことだろう。
「てかお前女なら名前とかどうしてるんだよ」
「一応カナメを文字ってカナコって名乗ってる」
ふ~んとリックは興味なさげに返事をするがすぐにあることに気付く。
「でもよ、お前と一緒にいる。あの赤髪の女の子とはフレンド登録してるんだろ? お前の本名も男だってことも知ってるんじゃないのか?」
「それがまだ気付いてすらないんだよ。いずれバレるだろうけど向こうは完全に女グループ感覚でいるから言うに言えないんだ」
変なところで頭が冴えるリックに小声で説明する。にしても何故トウコは気付いていないのだろう。彼女と行動していて、僅かだが性格も分かってきている。
トウコは一言で言ってしまうと年上のお姉さん。しっかりしていて常に周りに気を配り、自分は一歩後ろから全体を見渡してる感じ、まさにそれだ。現にここまでの道中でノイが背中をとられそうになった時も俺よりいち早く気付いてモンスターを倒していた姿を何度も見ている。そんな彼女がフレンド画面を見たらすぐに気付くであろう異変に気付かないでいる。それは俺に違和感を覚えさせるのには十分すぎる素材となっている。
「まぁ何にせよ秘密ってのはその内バレちまうし、それは同じ時間を過ごすだけ早くなる。その時間が長ければ長いほど胸のわだかまりは大きくなるし言い出すタイミングも逃がす。数少ない人生の先輩の言葉だ覚えときな」
「だな」
嘉穂への秘密と続き俺は人に嘘を吐いてばかりだ。いや、嘘吐きは今に始まったことじゃない。ずっとずっと、親以外の、人生の友になるかもしれない学校の皆の前の姿さえ俺にとったら嘘で固めあげた虚像だ。今までは運よく問題にならなかっただけでこれが当たり前、嘘吐きの俺に課せられた罪なのだ。
嘉穂だけでも精一杯だと言うのにここにきて大きな壁が出来てしまった。DOT技術によるリアルとの差が少ないゲーマーとしてのメリットがここにきて最大の足枷として俺の足を泥沼へ沈めていく錘となっている。
「っと、そう言えばお前はこれからどこに向かうんだ?」
深い心の奥底に沈み込んでいた俺をリックの他愛ない話題変更が無理矢理に目の前の現実に引っ張り出す。
「フォリーナだけどお前も一緒に行くか?」
「おう、俺から言おうと思ってたんだがそっちから言い出してくれるとは好都合だ」
ノイとトウコは多分OKしてくれるだろう。一緒に行くといっても向こうに着いたらどうせリックは情報集めに専念するし別行動をとるのは目に見えている。
「あともう1つ」
隣り合って歩いていたリックが突然思い出したかのように口から言葉をこぼした。それは何故風になびく葉の擦れる音よりも、遠くから鳴り響く獣の遠吠えを無視したようにやたらと耳に大きく聞こえた。
「秘密を知られたくらいで縁を切るような相手ならそこでスッパリと忘れちまえ。社会に出たら取捨選択なんて甘ったれた考えは通用しねぇからな……悪い、なんか説教臭くなったな。今のは忘れてくれ」
リックの言葉を聞いた俺の足は歩く行為を独りでにやめていた。目が捉えているのはリックの大きな背中。もちろん身長がかなりあるリックの背中は物理的にも大きいが、俺にはその数倍にも、まるで堂々と己の存在を知らしめる大山のように何倍にも見て取れた。
これが社会を知っている者の背中、学生といういまだ未熟な自分との大きな違いだと俺にはそう訴えているように感じた。
「……リック」
「ん~? って何立ち止まってるんだよ早く行こーー」
「ありがとな」
リックの言葉に被せて言う。何をいきなりとリックの目は普段よりやや大きく見開かれている。
「ば、馬鹿野郎褒めたって情報料金は値下げしねぇからな?」
「バーカ、んなもん最初から分かってるよ」
俺が社会に出るのは早くてあと2年後、その時の俺の背中は今よりも大きくなっているだろうか。出来ることなら俺はリックのような男になってみたい。まだまだ漠然としていて靄が掛かった想像の域を出ない考えに向かって俺はリックの背中を追い、歩み出す。
「うわっ、リックさんだぁ」
「嬢ちゃん、その反応は些か傷付くぞ?」
リックと共にノイ達のところに戻るとノイが遠慮なしに嫌な顔を貼り付けて身体が受け付けないと言わんばかりの言葉を放った。
「そう言えばノイはリックが苦手なんだったよな」
「あのハイパーボイスは凶器です殺人兵器です」
「あの~そろそろ勘弁してもらえませんかね。こう見えてメンタルは豆腐なんです」
距離を置くノイと大柄なせいか肩を落としていても然程変化が見られないリックを見て俺は1人静かに笑う。すると完全に蚊帳の外だったトウコが説明を求めると俺の腕を突いた。
「ごめんごめん紹介がまだだったね。彼はリック、キャフノルで知り合った情報屋よ」
「どうも、安く正確な情報を提供するリックです!」
明らかに年下なトウコに対して敬語でなおかつ完璧な営業スマイル。これが社会での必須スキルだと思うとこのまま学生でいたい気持ちが大きくなっていくな。
「ど、どうもトウコだ。ジョブはサムライをしている……その、よろしく」
笑顔を強引に貼り付けたせいかぎこちない引きつった笑みを浮べながらもトウコは律義に手を差し伸べて握手を求める。営業モードのリックはへりくだったまま両の手で握手に応じると大きく上下に振る。
「……こんなの俺じゃねぇ」
「あっ、素に戻りましたね」
「うん、多分条件反射のレベルにまで昇華されてるんじゃないかしら。あんなのになるくらいならニートの選択肢を考えてしまうわね」
「右に同じく」
「あの本当に虐めないでくれ、もう涙腺のバルブが半分以上開かれてるから」
涙目になっているリックに適当な謝罪をし、俺達4人は森の中に足を踏み入れる。
「そう言えばリックの武器って何なんですか?」
「言われてみれば丸腰ですねぇ」
腰にも背中にも武器のようなものは見受けられない。ファイターならグローブをはめるだけなので目立たないがリックの手は両方とも裸のままだ。
「あぁ装備するの忘れてた」
「それは流石に不用心過ぎやしないか?」
「一応情報屋をしてるんでな。武器が武器なだけにフィールドで声を掛けるには不便なんだ」
ウィンドウをいじりながらリックは説明をし、閉じると同時に何もない空間からポリゴンが集結してリックが用いる武器が姿を現わす。
「よ……っと」
「これは」
「ハンマーね。と言うことはリックのジョブは重戦士ですか」
リックの手に握られているのはいかにも重そうな金属製のシンプルなハンマー。重厚感あふれるそれを肩を支点に腕で支えて構える様は大柄なリックと相まって余計に威圧感を他者に感じさせる。
「すみません自分情報屋なんですけど、何か情報をお持ちじゃないでしょうか?」
「脅迫ね」
「暴君にしか見えない」
「ひいぃぃ!」
「ってわけでフィールドでも極力武器は装備しないでいるんだ。あと嬢ちゃん怯え過ぎ、取って食ったりしないからカナコの後ろに隠れないでくれ」
とにもかくにも、これでリックが武器を装備していない理由も判明したし問題はなくなる。
重戦士か、男なら重い武器を振り回すってのには憧れるよな。
怯えているノイを宥めつつリックに何か新しい情報がないかどうかを尋ねる。すると慣れた手付きでウィンドウのメモ欄を開くとこちらにスライドさせる。だがそこに書かれてあるのは雑魚モンスターの弱点であったり効率的な金の稼ぎ方だったりと正直自力でどうにでもなるようなものばかりだ。
ま、最初だからしかたないとは言え、役立ちそうなのは俺が与えた弓の爆発付与アイテムの入手方法ぐらいだ。指で弾いてそれをリックに返す。するとタイミングを見計らったようにメッセの着信音が鳴った。音源はリックからだ。
「誰から?」
「他の顧客だよ。この人はレベル上げなんて考えずに行き止まりまで走るタイプだから情報が早くて助かるんだよ」
どんな情報が舞い込んできたのか楽しみなのか揚期に鼻唄を歌いながらメッセを開き始める。
「どんな内容なんですか?」
さっきまで怖がっていたはずのノイがメッセを覗き込もうとリックの回りをちょこまかと動き回る。だが高身長なリックvs低身長なノイだとどう考えてもノイに勝ち目は存在しない。
「うぅ。リックさんが虐めます」
「情報屋として他人に情報を知られるわけにはいかないからな。あと語弊を招きそうだから虐めるなんて口にしないでくれ」
涙目の女の子に涙目にされそうな大男、シュール過ぎる光景に自分の目を疑ってしまいたくなるが、これは紛れもない現実である。
「まぁまぁ、それでリックどんな内容なの。ものによったらちゃんとお金を払って買うわよ?」
「いや、これくらいの情報ならいずれ分かることだから無料でいいよ。ほれ」
再びこちらにウィンドウが向けられ、今度はノイにも見れるようにしゃがんで読み始める。
「何々、ダンジョンにてボス部屋を発見、今から突入する」
ボスと言ってもまだまだ序盤なのだからフロアボス程度だろう。しかしこうも早く先に攻略されると腹が立つ。
「攻略、もしくはゲームオーバーになったら情報を買ってくれ。って上から目線ですね」
「そりゃこっちは買手で向こうは売り手なんだからしかたねぇよ」
まぁそんなことはどうでもいいんだ。問題はこんなところでちんたらしてないで早くゲームだから出来る現実ではどう考えても太刀打ち出来ないような相手との戦いがしたい、ゲーマーの血がさっきから沸々と熱を帯びてきていて身体が疼いてしかたない。
メッセを確認し終えた俺達は若干速足でフォリーナまでの道のりを行く。何だかんだ皆ゲームが好きなので自ずと動きにもキレが増しているので比較的早くフォリーナに到着することが出来た。
「そんじゃ俺は情報集めを開始するからここで別れる。ボスに挑む時は呼んでくれよな」
着いて早々にリックはそう言い残して俺達の前から姿を消した。残された俺達はと言うとこのままダンジョンに向かうと満場一致の意見で決定し、武器屋を覗き、アイテムを補充してからそのままフィールドに出た。
キャフノルの時とは違い、いきなり森の中へ出た。地面がむき出しになっていてそれを辿れば迷うことはないだろうが四方を大きな木々に囲まれている状況は少し息苦しさを感じられずにはいられなかった。
「あ~そう言えば2人のレベルっていくつなのかな?」
いくらヤル気があったとしてもどうにもならないのは敵とのレベル差だ。リアルではその場の流れとか勢いで押し切れる部分があるが、生憎とそれを許してくれないのがゲームの世界と言うものだ。ここでの絶対的強者はレベルの高いプレイヤーでその逆は言わずとも分かるだろう。仮にこの上下関係を覆せるとしたらレアアイテムの存在だけだ。
「私は5です」
「6だな」
なるほどなるほど、普通のプレイヤーならまぁ及第点だろうけど最前線に立つのならまだまだ足りていない。最低でもLv10、余裕を持ちたいのならLv15は欲しいところだ。まぁ俺の勝手な想像だからこの数字がどこまで信用するに足るものかは不明だ。
「じゃあダンジョンに向かう途中に最低でLv10まで上げるよ」
「了解した」
「頑張りま~す」
歩き出す2人の背中を見ながら俺はウィンドウを開いてステータス画面に移る。そこで俺はあることに気付く。
俺にはジョブが2つあり、それぞれが独立して全く異なるステータスとして存在している。だがジョブが違えど同じパラメータは存在する。例えば攻撃力が反映するATKだったり防御力のDEFだったりだ。これらのジョブに関係なく共通しているステータスはどちらの状態でパラメータを上げようとも関係なく反映されている。だが、あくまでパラディンはパラディンであり、アーチャーはアーチャーなのだ。反映はされているがそれに使用したパラメータアップポイントまで同じとはなっていない。
簡潔化すると、パラディンで俺は確かにパラメータアップポイントを使用したが、使用したのはパラディンの方であってアーチャーの方ではない。その証拠にアーチャーでのポイントは今までレベルを上げた分だけ残っているのだ。
つまり、俺はレベルを1つ上げるとパラディンの分とアーチャーの分とで他のプレイヤーの2倍パラメータを上げることが出来ることになる。
ただでさえオートリカバリーで既にチートだってのに。
「ん、カナコさ~ん置いてっちゃいますよ~?」
「あっ、うん、すぐ行く」
とは言えこれはありがたく使わせてもらう。パーティーを組んだわけではないが俺達は3人で協力して攻略しているのだ。となると誰かがピンチになる場面だって自然と起こりうるのだ。そんな時誰が彼女達を守ってやるのか、そんなの男である俺の役目だ。安っぽい男のプライドってやつだけどこれだけは譲るわけにはいかない。
取り敢えずアーチャーの命である命中率をやや多めに、余ったポイントで残りのパラメータを上げてノイ達のもとに駆けて行った。
先に進むとやはりモンスターのレベルも高くなっている。俺の方はまだしもノイとトウコのレベルだと倒すのにも一苦労だし、ノイのMPも消費が早い。その分レベルの上昇は早く、ダンジョンの入り口が見えるころには予定していたレベルをクリアしていたのでよしとしよう。
森の中で不自然に木々が刈られて広い空間が存在している。目の前には学校の校舎くらいありそうな壁。しかしその下にはこれまた不自然に先に進めそうな穴がある。間違いなくダンジョンへと続く洞窟だろう。
「な、なんだか雰囲気があり過ぎやしませんか?」
「何言ってるの、これこそShvel Kaiserの売りじゃない。まさかノイ恐いの?」
「ま、ままままさかそんなわけ!」
「図星だな」
「うぅ」
年齢を聞いてないので確かではないがノイは中学生か高校生だろう。そんな歳になって洞窟で怖がるとは情けない。
恐がっているノイの背中をトウコと一緒に押しながら洞窟に足を踏み入れる。
入った途端に温度が数℃下がり、露出している部分から熱を奪われる。中は夜のように視界が薄暗く、上からは山の中に貯まっている雨水が浸食しているのか水滴が落ち、静かな洞窟内に大きく音が響きわたっている。
いよいよ本格的なRPG感に興奮を覚えつつ俺達は奥へ奥へ歩き続ける。