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「確かに知り合ったのは子供のころだったし、婚約も義理だったけど……いつでもまっすぐ俺を見ているお前に、いつの間にか惹かれていた。お前の瞳には、嘘がなかった。純粋に慕ってくれていることが嬉しくて……でも、兄程度にしか思われていないと思っていたから、こっちもかわいい妹だと思い込むようにしてきた。なのに、これ以上一緒にいたら、俺はきっとお前を手放せなくなる。それが怖かった。だから、お前が破談を言い出すまで、待てなかった。……俺は、逃げたんだ」
「ずるい男」
ぽつりと言うと、尾崎さんは笑った。
「そうだな。ずるいし、たいした男でもないよ。それでも……いいか?」
「何度も言わせないで。私は」
手をのばして、背の高い尾崎さんの首に抱きつく。
「尾崎さんがいい」
言って、ひっぱられて背をかがめた尾崎さんにキスをした。生まれて初めての、キス。唇を離すと、今度は尾崎さんの手が、私を引き寄せて強く抱きしめた。
「んっ……!」
熱い、唇。むさぼるように求められて、思わず強く目を閉じた。舌がねじ込まれて、どうしていいかわからず戸惑う。そのまましばらく口内を蹂躙されていると、膝から力が抜けて、がくりと体がかしいだ。
「……と」
「きゃっ!」
力の抜けた私を、尾崎さんがいきなり抱きあげた。
「ちょ……何を……」
「言ったろ? もう限界なんだよ」
そのまま隣の部屋に連れて行かれると、ぼすんとベッドに落とされた。あわてて体を起こすと、目の前に尾崎さんの顔。
思わず息をのむ。なんだか嬉しそうに微笑む尾崎さんをにらんで。
「……それが、地なのねえ?」
自分のこと、俺、なんて言うの初めて聞いたわよ。
「悪い男だろ? 後悔するなよ」
「あら、後悔なんてさせるおつもり?」
「まさか」
視界の端で、尾崎さんがネクタイを緩めるのが見えた。
はたと、自分の格好に改めて気づく。
ううう。自分でやっといてなんですけど……やっぱり、そういうこと、だよね。
「由加里」
そこには、今まで見たことのない尾崎さんがいた。鋭い目に浮かぶのは強い欲情。穏やかとは程遠い、野性的な笑み。
でも、そういう尾崎さんも嫌いじゃないと思ってしまう私は、心底この人に惚れちゃってるのねえ。
「本当は、お前のこと、子供だなんて思っていない。思えなくなっている自分に気が付いたときに、由加里に惚れていることにも気づいたんだ。妹なんかじゃなく、一人の女性として、な」
性急にスーツの上着を脱ぎながら、尾崎さんは私をベッドに倒していく。
「本当に?」
「俺だって、たまには本当のことも言うよ。まあ嘘も多いけど……どうせ俺の動向なんて、調査済みだろ?」
はい、調査済みです。そこそこ仕事はできるけれど、その裏で女遊びも盛んだと。短期間で、次々に女の子を乗り換えていく女好きともっぱら評判との調査結果でした。それを聞いても心変わりしなかった私を、褒めてほしいわ。