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噛みつかれそうな顔の私に一喝されて、とっさに手をのばしかけた尾崎さんはその場で動けなくなった。
しゅるしゅるしゅる……
その尾崎さんの前で着物をどんどん脱いでいく。
もうっ。ばかにしてばかにしてばかにして!
どんな思いで、私がこの日を待っていたと思うの。全部、尾崎さんのため、じゃない。この体も心も、尾崎さんだけをずっと待っていたのに。まだ子ども扱いなんて、許せない。私が本当に子供かどうか、思い知ればいいんだわ。
ああもう本当に、腹が立つ!
「……私は子供? それとも妹?」
最後の襦袢をゆっくりと落とす。着物だから、下着はつけていなかった。残ったのは、ハートのネックレスだけ。
そうして涙をぬぐうと、まっすぐに尾崎さんを見つめた。本当の自分に、涙はまといたくない。
「ちゃんと、私を見て。これが、今の私。どう? これでも子供だと、あなたは言いますの?」
呆然とした尾崎さんの前に、胸を張って立つ。
もう、7つの子供じゃないの。だから。
歳を言い訳にしないで。ちゃんと、私を見てよ。
時間が止まる。
……………………………………
ちょっと。何とか言いなさいよ。人がこんな恰好でいるっていうのに……さすがに恥ずかしいじゃない。
微妙な間があった後、不意に、尾崎さんが動いた。
思わず体がひけそうになって、それを意志の力でぐっと押しとどめる。
「由加里」
抱きしめられる直前に見た瞳には、強い意志の光が見えた。
「ごめん。君にこんなこと……俺は、馬鹿だ」
「謝らせたいわけでもお、あなたの馬鹿さ加減を再確認してほしいわけでもないんですの」
ふっと、耳元で笑う気配がした。
「本当に、俺でいいのか?」
「まだそんなこと言ってるんですの。あなた、私の話聞いてましたあ?」
言いながら、そっとその背中に手をまわす。細い細いと思っていたその体は、意外に厚くて硬かった。そんな私を、さらに強く尾崎さんは抱きしめる。
「ずっと、いつかは別れるものだと思っていた。由加里と俺は歳が離れすぎているし……適当な時期になって誰か好きな男でもできたら、由加里の方から破談を言い出すと思っていたんだ」
「結局、尾崎さんから言い出したじゃないですか。しかも、誕生日。馬鹿にするのもいい加減になさいませ」
「……もう、これ以上は、俺が耐えられなかったんだ」
「え?」
腕を緩めて、尾崎さんが私を覗き込んだ。いつものほけほけした笑顔じゃない。視線がまっすぐに私をつらぬいていた。
目の前にいる、私を見ている。
「お前がほかの誰かを好きになるなんて、考えただけで気が狂いそうになる。もう、限界だって思った」
その言葉に、濡れた目を見開いた。
……それって。