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「わかりました。尾崎様とお食事ですよね。お誕生日にご一緒にお過ごしできないと、旦那様は嘆いておられましたよ」
それを聞いて、かすかに眉にしわを寄せる。
できもしないことを嘆いてもしょうがないのに。
「どおせパパなんて、忙しくてこんな平日のお夕飯になんて間に合わないじゃない。そもそも、今日、日本にいるのかどうかすら怪しいわあ。その分、今度の日曜日にパーティーやるんだからいいじゃないねえ」
「……お気づきになっておられましたか?」
「あたりまえよお。『来週の日曜日は空いているかい? ずっと家にいてくれるとパパは嬉しいな』ですって。それで気づかないと思っているパパがおかしいのよお。私のこと、いくつだとおもっているのかしら」
ぷりぷりと私が怒ると、東さんは支度の手を止めて和むような視線を向けてきた。
「旦那様にとっては、お嬢様はいつまでも小さい子供なのですね」
「冗談じゃないわあ。今日で私、16になるのよお」
そう。16歳。
女の子ならもう、結婚だってできる年なんだから。
「先にさっぱりしたいわあ。お湯は入れる?」
「はい。準備してございます」
着付けの用意を始めた東さんを残して、部屋を出る。
さあ、徹底的にみがくわよお! 今日は、私の勝負の日なんだから!
二ノ宮由加里。今日で16歳の高校1年生。二ノ宮財閥の一人娘。蝶よ花よと甘やかされて育てられた割には、しっかり育った方じゃないかと思う。
今夜は、婚約者の尾崎祐輔氏とのデート。
『大事な話があるから』
お湯につかりながら、電話の声を思い出す。
大事な話。
私、16歳になるんだもの。きっと、やっぱり……プロポーズよねえ。
考えると、ふにゃりと顔がほころんでしまう。
7つの歳に初めて会ってから、ずっとこの日を待っていた。結婚は決まっているんだからいまさらプロポーズなんてとも思うけど、やっぱりこの日にある『大事な話』ならそれしか思いつかない。
まあ、尾崎産業とつながりを持とうとする政略結婚なのは重々承知なんだけど、尾崎さんなら、結婚してもいいかなあ、って思う。
ううん。尾崎さんじゃなきゃ、いや。
あの日から、私には尾崎さん以外見えていない。
☆
「由加里ちゃん、今は夏休みなんだっけ?」
「そうですよお。宿題が大変なんですう」
「宿題か……僕にとっては、もう懐かしい言葉だなあ」
「私も、早く懐かしんでみたいですわあ」
その夜。尾崎さんが連れてきてくれたのは、とある一流ホテルの和風レストランだった。
個室で、二人で食事をする。
ここ、フレンチのレストランが有名なんだけど、もしかしたら振袖で来た私に気をつかってくれたのかな。中振袖とはいえ、これでナイフとフォークは使いにくいもの。
「尾崎さんは、お仕事大丈夫だったんですかあ?」
「今日は特別。君の誕生日だからね。僕が祝わなくてどうするの」
そういって、細い目で柔らかく微笑んだ。その笑顔に、私はかすかに頬を染めてうつむく。