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それはともかく。
パパ。忙しくて、普段ろくに顔も見ないけれど、誕生日や季節のイベントは必ず忘れないでやってくれる。子供の私から見ても、その親ばか度はいい加減にしてというレベル。子供のころからそれがうっとうしくて、少しくすぐったくて。
そんなパパが、たとえ婿養子だとしても、喜んで私の相手を決めるなんてことあるわけなかったんだ。
「そっか。あのころの尾崎はそれほど大きかったわけでもないし、むしろ一番やばい橋を渡っている時期だったから、そんな中でなんでわざわざ俺を指名してきたんだろうと思っていたけど……うーん、やっぱりあの人には、勝てないなあ。結局、あの人の手の中で踊らされてただけか。まんまと、ミイラ取りがミイラになっちゃったぜ」
「後悔しているんですの?」
悔しそうな尾崎さんの様子に、眉をひそめる。
「今は、してない」
優しい目で、なだめるようにまた私の髪をすいた。
「さっきまでは、結構後悔してた。由加里を、誰かほかの男に渡さなければいけないこと……守るなんてかっこつけること、やめとけばよかったって。さっさと手を離しておけば、こんな思いをしなくて済んだ。……同級生の話を聞いてすら、あんなに動揺するとは思わなかったよ」
「宮本君も梶原君も、本当に友達なんですのよ?」
わかってる、と言う尾崎さんの顔が、少し赤かった。
それでさっき様子がおかしかったのね。思わず頬が緩む。
だってそれって、思いっきりやきもちじゃない。
「ねえ、本当に私の気持ちに気づいてなかったんですの?」
停滞していた尾崎産業を、若干20歳そこそこで大学に通う合間に裏から立て直しができるほどの腕を持ちながら、どうしてずっとそばにいた私の気持ち一つすら、この人は気づかなかったのかしら。
すると、尾崎さんはバツが悪そうな顔になった。
「ごめん。なるべく、考えないようにしてた……ってのが本当のところ。由加里はいつでも感情が素直にでる子だったから、俺のこと好きでいてくれるのはわかっていた。でも……」
長い指が、つ、と私の頬をたどる。
触れた部分が熱くなって、私は目を細めた。今までだって触れられたことはあるのに、あの熱を知ってしまったあとでは、私の体は敏感に尾崎さんに反応してしまう。そんなことも、初めて知った。
「それはいつも、初めて会った時と変わらない笑顔だった。それを確認するたびに、やっぱり俺は気のいいお兄ちゃんにすぎないのかって……情けないな。それ以上深読みするのが怖かったんだ」
「私の笑顔が変わらないなんて、当然ですわあ。最初からあなたのことが好きだったんですからあ」
その笑顔が変わるわけない。
私の瞳は、ずっと尾崎さんに恋をしていたんだから。
「……え?」