表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/14

- 11 -

「もう言わないよ。ごめん、泣かせてしまって」

「そのセリフ、お忘れになりませんように。今後に期待しますわあ」

 ぎゅっと、私に回された腕に力がこもった。くつくつと、笑いながら。

「悪い男に引っかかったな。でも、一度この手に入ったものを手放すほど、俺は気前がよくないから。お前の一生、全部、俺のものだ。せいぜい、後悔させないようにがんばるよ」

「それ、プロポーズですの?」

「まずい?」

「10年も待ったんですのよ? もっと感動的なお言葉を選んでいただけませんこと?」

 憮然とした私に微笑んで、尾崎さんは私の髪をくしゃりとかきまわす。


「じゃあ、次に会う時までに考えておくよ。とびっきりのプロポーズを」

「また今みたいなセリフだったら、お受けしませんわよお?」

「いいさ」

 ゆっくりと私の上に覆いかぶさって、じっとみつめる。

「そうしたら、何度でもプロポーズするよ。お前がOKしてくれるまで。何度でも、ね」

 薄く目を閉じて口づけを受けながら、じゃあ、しばらくはOKするのをやめようと思った。だって、何度もしてくれるんでしょう? そんな素敵なチャンス、逃す手はないわよね。

 さりげなく私の胸にのばされた尾崎さんの手をとめる。

「ん……もお、帰らなくちゃ……」

「いいよ。まだ」

「いけませんわあ」

 今何時だろう。うちに門限はないけれど、あまり遅くなるとみんな心配するし。

 すると、尾崎さんはしばらく考えてから、脱ぎ散らかしたスーツを拾ってポケットから携帯を取り出した。何を、と思ってみていると、ベッドに座ってどこかへ電話をかけ始める。


「あ、尾崎祐輔です」

 ちらりと私を見る顔が、いたずらっぽく笑っている。

「今日はお嬢さんとご一緒させていただきまして……はい、はい。いえ、とんでもありません」

 うち? 田中さんかな。

 シルバーグレイの執事を思い浮かべる。

「それでですね、由加里さん、少し気分を悪くされまして……いえ、それほどでは。今、こちらのホテルに部屋をとって休まれています。はい。……ええ、車で動かすよりも横になったほうがいいと判断しましたので。夏休みですし、このまま、こちらのホテルにお泊りいただくように手配いたしました」

 そう。いきなりでスィートがとれたのは、ここが尾崎系列のホテルだったから。

「もうお休みになるというので僕はこれで失礼しますが、ホテルのものによく申し付けておきます。明日、ゆっくりの時間でいいということですので、迎えの手配をお願いできますか? はい……いえ、大事な婚約者のことですから」

 いけしゃあしゃあと言う尾崎さんを、じろりとにらむ。

「はい……はい、わかりました。では、二ノ宮様にもよろしくお伝え下さい。失礼いたします」

「…………狸」

 携帯を放り出した尾崎さんは、平然と微笑んだ。

「褒め言葉と受け取っておくよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ