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はいっ。エロエロ苦手な方、もしくは『星空の船』のジュブナイル的なイメージを壊したくない方は、回れ右!
それから尾崎さんは、私の体中にキスをした。くすぐったがって笑う私の全身をくまなく、自分でも見たことのないところまで、ずっと奥まで。暖かい唇と別の生き物のような舌の動きに、笑っていられる余裕はすぐになくなった。今まで聞いたこともないような甘い啼き声を引き出され、呼吸は荒くなるばかり。細くて長い指は、私の体の上を動き回って、どこが一番私が震えるのかを丹念に調べつくす。されるがままに、啼いて、震えて、頭が真っ白になっても、尾崎さんは私を責めることをやめなくて。
「んっ……」
「痛い?」
きつく閉じた目をうっすらとあけると、かすかに眉間にしわを寄せた尾崎さんがいた。息が、荒い。
小さい頃からずっと見てきたはずなのに、今の彼はまるで知らない大人の……男。
「い、痛く……ないっ」
言いながらも涙がぽろぽろ出てくるから、説得力ないったら。
時間をかけてゆっくりとほぐされたはずの体は、それでも異物の侵入をこばんで悲鳴をあげていた。
「たまんないね、その気の強さ」
ため息交じりの吐息にも、何も言い返せない。そんな余裕が、ない。硬い腕に必死にしがみついて、痛みをこらえるだけで精一杯だった。
「本当にかわいいなあ、お前は」
言いながら、私の涙を吸い取っていく。
「由加里……」
かすれた声で呼ばれて濡れた瞳で見上げた私に、彼は柔らかく微笑んだ。 それはもう、私が恋に落ちた時の笑顔じゃない。
あの時よりも、もっともっともっと、素敵な笑顔だった。
「愛しているよ」
それを聞いて、不本意だけどまた涙があふれる。
その言葉が、欲しかった。ずっと。
今までだって、嫌われているとは思わなかった。でも、好きだとも言ってくれたことはなかった。いつでも大切にはしてくれたけれど、それはあくまで、義理の婚約者に対して、の域を超えてはいなかった。私も好きだとは言わなかったけれど。お互い、そんな風につきあってきた。
気持ちを正直に告げたのは、初めてだった。
その気持ちを受け入れてもらえることが、こんなにも幸せになれるなんて、知らなかった。その気持ちは、初めての痛みすらも、甘い疼きに変えてしまう。
私は、吐息の中に小さく言葉を忍ばせた。
「私も……愛しています」
「ずいぶんとお、大きな猫を飼われていらっしゃるのですね」
寄り添った胸は、汗が冷えて少し冷たかった。
まさかこんなことになるなんて、夕方家を出るときには思ってもみなかった。誘ったわけじゃない、って言っても、尾崎さんは信じてくれるかしら。単に何にも考えていなかっただけなんだけど……でも、後悔はしてない。
「由加里のことだから、どうせ気づいていたんだろう?」
「……ここまで軟派になるとは、思っていませんでしたけど」
「あのまま別れていたら、多分、一生、こんな俺を見せることはなかったと思うよ。嘘で塗り固められた俺の、その裏側なんて、な」
「本当に、嘘なのかしら?」
尾崎さんはつかの間沈黙した後、ふっと自嘲した。
「そうだな。由加里はどっちの俺が好き?」
「どっちも。どんな尾崎さんを知っても、残念ながら嫌いにはなれませんでしたわあ」
真面目に言った私の言葉に、尾崎さんは声をたてて笑う。
「光栄です、お姫様。由加里こそ、思った以上に情熱的なお嬢さんだったんだな」
「……はしたないと思われます?」
わずかに上目づかいになった私の額に、口づけて。
「まさか。そんなお前も、好きだよ」
ことりと、またその腕に頭をあずける。
「破談になんかあ、しないでくださいね」