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〔完結〕失われた、すべてのラブ

真っ白だ。ホワイト。完全に燃え尽きた。一体何がだ。何も浮かばない。 何も浮かばない。 

何もないからだ。







ゆっくりと(まぶた)を開いてみる。


最初に飛び込んできたのは、真っ白な天井。そして脳の奥まで刺激する白い光。右手側には大きな窓があり、白いカーテンが下がっている。完全には締め切っておらず、少し開かれたスペースから淡く白い陽光が照らしだされている。


「………………………………………」


一旦体を動かそうするものの、何の反応もみせない。

かろうじて動くのは右手だけ。

右手で辺りの感触を探ってみる。柔らかい布で、ふかふかとしたものに触れた。



ベッド?



どうやら、今、体は横たわっているらしい。それに右手に温もりを感じる。

己の体温の温もりのようだ。寝てたのか。



じゃあ、どうして寝ているんだ。



そこで、



「うッ............!!」


思考を巡らせようとすると、ズキン、と頭に鋭い痛みが走った。

脳がガンガンと揺れるように痛い。


俺は、病気なのか……? それとも怪我……?


体の状態を確認してみた。


右腕、両足、


ところどころに包帯が巻きつけられている。



ギプス......か。


骨が折れている。だけど痛みはない。



左手には点滴。顔面にも同様に包帯でグルグル巻きにされているようだ。


俺の中に色々な情報が入ってくる。


どうやら怪我をしたようだ。それも大怪我。


幸いにもまだ、麻酔が全身に効いていて体に痛みを感じない。全身がピリピリして変な感じだ。






そこで、ふと、遠くにざわめきを聞いたような気がした。

耳を澄ませると、ようやく聴覚が復帰したとでもいうように、様々な音が飛び込んでくる。



高い声。女性の声だ。二人いる。すごく近い。病室のドア。そのドアの前。それくらい近くにいる。会話をしているようだ。


見舞い......?


俺は静かに耳を澄ましてみる。



「でも、お兄………………良かっ…………じゃない?」

女の子の声だ。どこか聞き覚えがあるような……

気のせいか



「何が………よ!」



「だって、その……こと……………だったんなら」


「…………!! き………のよ!!! わたし………っ…!!!!」

ひどい怒声が耳を打つ。 若干、涙混じりの声にも聞こえた。


「でも、…………したって…………しかた…………わからないし!」


何だろう? 何て言ってるんだ。






「もうやめ……、……とも、……」

男性の声。どうやら三人いたようだ。





「一旦、…………中に入ろう…………お医者さんも……わけじゃない…言ってたじゃないか」





ゆっくりとだが、鮮明に聞こえるようになってきた。







「き…………うし………………なんて、正気じゃない!!」












――あれ......?











何故だろうか、とてつもなく嫌な予感がする。




なんだ? この心のざわめきは。




もう、後戻りできないような。


取り返しのつかないような……



「そうだね……お父さん」


「……たく、あなた……」


中に入れちゃいけない、そんな気がする。











――扉が開く......







ゆっくりと扉は開いた。室内にある熱気のこもった空気は一気に外へ排出され、外のひんやりとした冷気と切り替わる。一瞬心地のよい風が俺の顔を通った。



笑ってる。

そこに現れたのは家族。やはり先ほど、ドアの前でしゃべっていたのは家族らしい。



――だけど、





三人がベッドのすぐそばまで来て、

「お兄ちゃん…大丈夫?」


今度は、はっきりとお兄ちゃんと聞こえた。しっかりとそう聞こえた。 

俺のことをそう呼んだ。



でもなんで? 





俺の中で不安とが頭によぎる。




意味の分からない考えが、頭の中をぐるぐると回る。




ぐちゃぐちゃに頭をかき回されている気分だ。



どういうことだ?






「医者の話によると三ヶ月は安静にして置かないといけないらしい…」


なんでこんな自然なんだ?


家族で見舞いに来ているのか?


だとしたらおかしくないか? 


間違えていないか?


何かを履き違えていないか?




説明してくれ。




そうだ。何か重大なことを確認していない。本来それは確認するべきことではないのかもしれない。だけど、早く、早く確認しなきゃいけない。この異常事態を改善するには...

このままじゃ訳も分からず、飲み込まれてしまう。








「学校での事件で、転校することに決めたわ……」

あくまで、冷静を装った声だ。だけど、心の中の焦燥感はバレバレだ。声が震えている。






言葉の意味をよく理解できない






「あ、ああ。そうなの」

俺は曖昧にうなずく。





ああ、そうだ、俺は喧嘩をしたんだ。

たしか、ノリ......シゲとだったか。




でも、なんでそんなこと話すんだよ。


「もう、あのことは忘れたほうがいいわ」


いや、だから……何で知ってるんだ?



「私も、友達と離れちゃうけど、仕方ないよね。こんなことになっちゃったんだから。引越ししてもいっぱい友達が出来るといいなぁ」




――は?


本当に意味がわからない。



思考が今の現実に付いていけてない。




目の前で行われている、会話の意味がわからない。



分かるようにしゃべってくれよ。



なあ。



頼むよ。


説明してくれ。


何で俺だけ、置いてけぼりなんだ。



「な、なぁ」

俺は声を出す。勇気を振り絞って声を出す。


いったい、いったい……



「ん? どうしたんだ」

気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。



俺は完全にパニックを起こす。

「あ、ああ、ああああああああああああ」

呼吸を整えることができない。視界が回る。




「な、な、なぁ、あんたら……」

俺は必死に言葉を話す。言葉を選んで言葉を話す。


――確かに目の前にいるのは家族だ。それは間違いない。



「ほら、やっぱり…」

女の声。

声が震えている。

そして、痺れを切らしたのか、女は大声で叫んだ。




――だけど、この家族は



「あ、あんたら、一体誰なんだよ」

言った。







――俺の家族ではない








まったくの他人だ。






知らない。

こんな顔、見たことも無い。

気持ちが悪い。

何なんだよ一体

平然と、平然と話しかけてくる。






いかにも、俺が家族の一員であるかのように……









疑問に思ってたんだ。


気持ち悪い。



最初から疑問に思ってたんだよ。



消えてくれ。





そして、痺れを切らしたのか、女は大声で叫んだ。

「私たちのことなんか、何も覚えてないのよ!!」














『でも、お兄ちゃん。記憶を失って良かったんじゃない?』

妹の声だ。


『何が良かったって言うのよ!』



『だって、その人のこと本当に好きだったんならこれで……』


『何も良くないわよ!! 記憶を失ってるのよ!!! わたしたちのことだって忘れてるのかもしれないのにっ…!!!!』

母さんのひどい怒声が耳を打つ。 若干、涙混じりの声にも聞こえた。




『でも、ウジウジしたって仕方ないよ! それにまだ、全部の記憶を失ったとは言ってないし!』


『もうやめよう、二人とも、そんなに不安にならくても大丈夫だから……。な……?』

父さんの優しい声。父さんはいつだって落ち着いていて、頼りにできて、本当に立派な父さんだ。


「記憶を失うまで蹴り続けるなんて、正気じゃない!!」

母さんは、取り乱している。


『一旦、部屋の中に入ろう。お医者さんも、完全に記憶を失ったわけじゃないって言ってたじゃないか」

父さんが微笑んで、二人を落ち着かせる。


『大丈夫だ。俺を信じな』

父さんがニヘラと笑った。

父さんが念を押して言う。父さんが言うと、なぜかいつも妙な説得力がある。

だけど、そこにも僅かながらの不安な色が感じられた。


『そうだね、お父さん』

妹が笑って言った。


父さんが必死に、落ち着かせようとしてくれいる。


不安なのは全員一緒なのだ。


『ったく、こんなときまで』

母さんも続いて苦笑して言った。


だけど、皆それを信じた。希望を信じた。


『大丈夫だ、信じよう。あの子を信じるんだ』



そうして桐島一家は病室のドアを開いた。











ずっと疑問に思ってたんだ。


気持ち悪い。



最初から疑問に思ってたんだよ。




消えてくれ






「あんたら、一体誰なんだよ」

その一言だけで、分かった。


それは無慈悲にも残酷な結末だった。













桐島は家族との記憶だけを完全に失っていた。













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